大企業においても、取締役や執行役員などの要職に就く女性エグゼクティブが増えている。記者会見や取材対応、株主総会や入社式といった人前に出る機会となれば、まだまだ人数が少ない分、同じ役職の男性よりも注目を浴びることが多いだろう。企業の広報戦略という視点で見れば、彼女たちの振る舞いは業績を左右しかねないほど重要だが、しかし女性エグゼクティブはどのように振る舞うべきなのか、そもそもどんな服装がふさわしいのかもよく分からないという広報担当者は多いのではないだろうか。

大手広告代理店の博報堂が8月から提供を開始した「トップ広報プログラム 女性エグゼクティブ編」は、こうした企業のニーズに応えるサービスだ。もともと博報堂では男性のエグゼクティブ向けに広報対応などを指南する「トップ広報プログラム」を提供していたが、ここ数年女性役員が増えてきたため「女性向けのプログラムも欲しい」という声が高まったことを受けて、始めたという。

プログラムの内容は、基本となる「広報戦略立案」、基礎編の「ヴォイストレーニング」「イメージコンサルティング」「記者会見用スーツ等購入サポート」と、実践編である「プレゼンテーショントレーニング」「メディアトレーニング」「スピーチ原稿代筆・スライド制作代行」の大きく7つに分かれている。特定のトレーニングだけを2時間だけ、といった受講の仕方も可能だという。対象者は基礎編では見た目や話し方のトレーニングを受け、実践編では会見や発表などの本番を想定した準備を行うが、特に女性向けということでこれまでのプログラムと違うのは、服装や身だしなみといった部分を準備する「記者会見用スーツ等購入サポート」のパートだ。スーツはオーダースーツを想定している。

本プログラムは企業向けに提供するもので、フルパッケージで受講すると約1週間、価格は約500万円が目安。個人が購入することは博報堂も想定していないが、そのテキストの中には女性エグゼクティブとその予備軍なら知っておいて損のないポイントがたくさん詰まっている。本記事ではその中から、女性エグゼクティブのドレスコードに絞って内容の一部をご紹介したいと思う。

博報堂が提供する、トップ広報プログラム 女性エグゼクティブ編の全体像

女性エグゼクティブのドレスコードはまだルールが確立していない

国際イメージコンサルタントの日野江都子氏。ニューヨークと東京を拠点として20年以上活躍、グローバルに活躍する邦人の企業トップやエグゼクティブ、財界人、文化人、セレブリティなど男女多くのクライアントを持つ。

「男性のスーツスタイルに比べ、女性エグゼクティブの服装や身だしなみは基本的なルールが確立されていない」と話すのは、博報堂PR戦略局の牧志穂さんだ。「『どういう格好をしたらいいか分からない』と悩む方が多いのですが、分からないどころか、日本では『そもそもスタンダードがない』のが現状です。女性エグゼクティブが多いアメリカではこの点進んでいて、ルールができつつあります。そこでニューヨーク在住でアメリカの事情に詳しい国際イメージコンサルタントの日野江都子さんと連携して、女性エグゼクティブスタイルを提案しています。国内企業でも、外資系企業でも、グローバルに通用するスタイルです」(牧さん)

実際に本プログラムで購入する女性エグゼクティブ向けスーツは、高級オーダースーツの製造・販売で定評のある、銀座の英國屋が提供する。仕立ては採寸から1カ月半くらい、金額は使う布地にもよるが25万円程度になるという。日野江都子氏が提唱しているスタイルに沿っているのはもちろん、「謝罪会見のような、派手にしてはいけない場でも大丈夫なスーツです。社長の横に役員として立つときも、社長より目立ちすぎる……ということもありません。最初の1着にふさわしく、攻めも守りもOKな、オールマイティかつ上質なスーツです」(牧さん)。

女性エグゼクティブにふさわしいスーツとは?

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女性エグゼクティブ向けのスーツ。英國屋ではこのプログラムに沿ったスーツを販売する

女性エグゼクティブが最初の1着としてあつらえるべきスーツとは? 以下、プログラムのテキストから、基本的な部分だけご紹介しよう。

基本は「ジャケット+スカート」「ジャケット+パンツ」「ジャケット+ワンピース」だが、もっともベーシックなのは「ジャケット+スカート」の組み合わせ。スーツの生地は男性用ダークスーツを基準とし、柄は無地。色は「紺(黒に近い濃紺含む)」、「ミディアムグレー~チャコールグレー」、「黒」の大きく3色が基本となる。明るい紺色やライトグレーなど、色が明るくなるほど公式度は下がるため、どのような場でも通用する最初の1着としては、ダークスーツが望ましい。

ジャケットは、女性らしさを表現するのであれば、襟なしのカラーレスジャケットも良いが、基本はテーラードジャケット。襟はスタンダードなノッチドラペルで、ラペル(下襟)の幅は6.5~7センチメートル前後が標準だが、肩幅や顔の大きさに合わせて似合う幅にするのが良い。スカートはストレートか細すぎないタイトで、丈は膝に少し掛かるか膝を全部覆うくらい、全身のバランスがよくなる長さのものがよく、膝上はNG。スリットは後ろのセンターにほどよい深さで入ったものがよい。

スーツの型と同じくらい大事なのが、「体にぴったりフィットしていること」。とはいえ、年を取ると若い頃とはどうしても体形が変わってくる。変わり方も人それぞれなだけに、シルエットがぴったり合っているスーツを着るためには、やはりオーダースーツがベストだという。

襟を立てたり、出したりはNG

もう一つ、意外に難しいのがスーツ着用時のトップの選び方。エグゼクティブの場合はクルーネック(襟なし)で、袖はノースリーブか5分丈程度くらいがジャケットを着たときにもたつかず動きやすくおすすめだ。男性のように襟があるシャツを着るのは、普段からスーツを着慣れていないと難しいという。

また、スーツの上に襟を出したり立てたりする着こなしを見かけることがあるが、それは“フレッシュさ”を出すための着こなし。リクルートスーツならともかく、エグゼクティブのスーツ姿としてはまったくふさわしくないとのことなので、気をつけたい。

次記事では本プログラムに沿ったオーダースーツを販売する英國屋に取材し、初めてスーツをオーダーする女性が知っておきたいポイントをご紹介する。

■参考
「銀座英國屋レディースエグゼクティブモデル by Niena Etsuko Hino」販売開始のお知らせ(http://www.eikokuya.co.jp/news/
博報堂、トップ広報プログラム「女性エグゼクティブ編」を提供開始(http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/22603