職場の“あるある”な問題について、会社勤め女子代表・働なの代(どう・なのよ)が弁護士と一緒に考えるリーガル相談。連載第8回は“就業場所と労働条件通知書”について、法律的な観点から考えます。

[質問]先日、会社の辞令で東京から関西への転勤を命じられました。私が働いている会社は全国に支店があり、営業関係の部署に属する人は定期的に転勤があります。しかし、私は事務を行う一般職として入社し、転勤をするとは聞いていません。入社時に会社から提示された労働条件通知書の就業場所の欄には、今勤務している東京の支店が書いてあります。これって、労働契約に違反するんじゃないでしょうか。

全国展開する企業に勤める人には付き物の転勤。会社や職種によっては、転勤が当たり前の場合も、そうでない場合もありますが……。

次のうち、入社時に会社と契約する書類に書かなくてはならないものはどれでしょう。

Q 労働条件通知書に書かなくてはならないものは……

1. 従事する職務内容
2. 休憩時間の時間帯
3. 転勤の有無
4. 賞与の金額

A 「1.従事する職務内容」は書かなくてはならない

【解説】

【岩沙】「職場のあるある! リーガル相談」、アディーレ法律事務所弁護士の岩沙好幸です。めっきり涼しくなり、もう秋ですね。

【なの(以下、なの)】この前夏休みの話をしていたのに、もうシルバーウィークですね。先生はどこかに行かれたんですか?

【岩沙】いや、私はあまり趣味がないので、あえて仕事していました……。法律事務所が行うイベントでたまに地方に行くことがあるのですが、それで満足してしまって、旅行などはあまり行きませんね。

【なの】弁護士さんなのに出張があるんですね! 日本各地への出張があるような会社で私も働きたいな。今回は出張ではなく、地方に転勤になってしまいそうな方から、労働条件に関する質問をいただきました。

【岩沙】企業に勤めるほとんどの人は、入社日に、「労働条件通知書」というものを入社手続きの際に渡されているはずです。なの代さんは覚えていますか?

【なの】お給料の金額や、手当の詳細とかが書いてある紙ですよね?

【岩沙】なの代さんはお金のことばっかり……。 実は問題にある労働条件通知書には選択肢にある「2.休憩時間の時間帯」「3.転勤の有無」「4.賞与の金額」は書かなくていいんですよ。

【なの】「4.賞与の金額」は大事なことなのですが! それが分からないと、計画的にお買い物ができないんですけど!

【岩沙】確かにそうですよね。大事なことなので、通常の労働条件通知書には書いてありますが、口頭で明示する方法も認められているので、必ず書く必要はないのです。

就業場所は記載しなければならないが……

【なの】「2.休憩時間の時間帯」「3.転勤の有無」も、入社時に書面で書かなくていいのですか?

【岩沙】はい、書かなくていいんです。労働条件として記載しなくてはいけないものはほかにもありますが、主に

・労働契約の期間
・就業場所、従事すべき業務
・始業・終業時刻
・所定労働時間を超える労働の有無
・休憩時間
・賃金の決定、計算及び支払の方法
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)

などとなります。

【なの】あれ? ≪休憩時間≫というものが入っていますが、「2.休憩時間の時間帯」はいいんですか?

【岩沙】あ、気づきましたか! これ、“ひっかけ”なんです。休憩時間に関しては必ず明記しなくてはいけません。しかし、問題の選択肢にあるのは休憩時間の時間“帯”なんですよ。6時間を超える労働に対しては少なくとも45分の休憩を取らなくてはいけないのはご存知かと思いますが、休憩を何時から何時の間で取ってくださいね、という取り決めはしなくてもいいんですよ。

【なの】できることなら、飲食店が空いている時間帯を狙って、ランチに行きたいのに……。本題に戻すと、書かなくてはいけない労働条件には≪就業場所、従事すべき業務≫とありますから、選択肢「1.従事する職務内容」は正解ですね。≪従事すべき業務≫って、どれくらい具体的に書かれるものなんでしょうか?

【岩沙】実は、従事すべき業務はとてもざっくりしたものでいいんです。例えば、「事務」や「広報」だとか、部署名やおおまかな職種で大丈夫です。私の場合だと、ざっくりと「弁護士」でも大丈夫なんですよ。そうしないと、いろいろ融通が効きませんからね。

【なの】なるほど。でも、同じ≪就業場所、従事すべき業務≫に就業場所とありますよね? 質問者さんのように仕事で転勤になってしまい、ここに記載されていた場所とは別のところで勤務することになってしまった場合は、労働契約違反にはならないのでしょうか?

【岩沙】まず労働通知書に明記しなくてはならない事項は、「労働基準法施行規則」という労働に関する規則で詳しく取り決めがなされていて、転勤の有無に関しては記載がありません。ですので、労働契約違反には該当しません。これがいただいた質問に対する答えとなります。ただし、勤務地が異動などによって変更される可能性がある場合には「その他会社が指定する事業所」と記載しておかないと、「転勤なんて聞いていなかった!」とトラブルになりやすいですね。

【なの】都内でずっと働くものだと思っていたのに、急に転勤と言われたらびっくりしますよね。

労働契約の解除=会社をすぐに辞められる!

【なの】例えば連載第7回「あなたの『給与』は正当に支払われていますか?」(http://woman.president.jp/articles/-/559)で説明してもらった“賃金の締切り及び支払時期”など、「実際に入社してみたら、労働条件通知書に書かれていることが守られなかった!」ということが起きたら、会社を訴えることはできるんでしょうか?

【岩沙】そうですね……訴えるというより、もし労働条件通知書で取り決めしたことと相違があった場合は、即時に労働契約を解除できます。簡単に言えばすぐに辞められるってことですね。

【なの】そうしたら、また転職活動の始まりか……。ちゃんとした企業なのか、見極めが大切ですね。

【岩沙】そうなってしまった場合、ちょっと変わった救済措置があるんですよ。明示された条件と労働条件が違い、即時に労働契約を解除した場合、入社するために住居を変更した労働者が、契約解除日から14日以内に帰郷する際には、会社は必要旅費(帰郷旅費)の負担をしなければならないんです。

【なの】具体的にはどういうことですか?

【岩沙】例えば名古屋の実家に住んでいた人が、ある企業に新卒入社するために上京してきたとします。そこで労働条件通知書に書いてあったお給料がもらえなかったり、条件とは異なる転勤をいきなり言い渡されたりして、「もう仕事を辞めて実家に帰る!」となった場合、即日退職可能で、14日間以内に実家に帰るようならば名古屋までの新幹線代は請求できるということですね。

【なの】それ、みんな知らないですよ! 雑学王ですね!

【岩沙】雑学王って……。弁護士なのですが。

【なの】ギクッ。岩沙先生、次回も法律にのっとった解説をよろしくお願いします!

【回答者】岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払い などのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』(http://ameblo.jp/yoshiyuki-iwasa/)も更新中。
【文・監修】アディーレ法律事務所(http://www.adire-roudou.jp/