プレゼンテーションは成功の3要素【プレゼンス】【コンテンツ】【デリバリー】が複合的に絡み合う「総合格闘技」です。これら一つひとつに対して、自分の強みを生かし、弱さを克服して“技”として習得すること、つまり「技(わざ)化」が必勝の秘訣です。3つの要素とは何か、その技化にあたり守るべき「鉄則」は何かを紹介します。まずは3要素をしっかりと理解しましょう。

連載第1回では、清水久三子さんがコンサルタントとして、また人材育成部門のリーダーとして数千人を指導してきた中で、「ああ、またこれか」と遭遇してきたよく見かける失敗パターンと、成功するために必要な3つの要素を紹介しました。プレゼンの失敗パターンを意識して成功要素を把握すると、プレゼン力がアップします!
連載第1回:プレゼンの盲点! 「3つの失敗パターン」にハマっていませんか?
http://woman.president.jp/articles/-/551

成功の要素1:女性の提案は受け入れられない? 【プレゼンス】の構築で魅せる!

プレゼンスについて説明する前に、あるデータを紹介します。Googleの人事部で、「正しい意思決定ができているか」を検証するために行われた実験です。同じプレゼンテーションを複数の人が行いました。その人たちには伝え方の上手下手の差が出ないように同じ説明になるよう練習した上で被験者に対してプレゼンを行い、被験者はそのアイデアを選ぶかどうか採決をしました。その結果、男性が行ったプレゼンテーションの方が68%の確率で選ばれる確率が高かったそうです。女性であるというだけで選ばれる確率が低くなる……なんともショッキングな結果ですね。

でも、プレジデント ウーマン オンライン読者は、こんなことでやる気をなくしてしまうような方々ではないことは私が知っています。【プレゼンス】という要素をしっかりと理解して技化すればいいだけです。

プレゼンスとは、話し手自身から表現される存在感や雰囲気のようなものです。曖昧に思えるかもしれませんが、プレゼンスを更に3つに分けることで、それらをどう向上させるかという技を考えることができます。その3つとは、「人間性」「身体性」「精神性」です。

まず、人間性はその人のキャラクター、持ち味などの特性を指します。キャリアもビジネス上では人間性を表すものとして考えてよいでしょう。2つ目の身体性は、人相からはじまり、体つきやスタイル、あるいは醸し出すオーラも含まれます。最後の精神性は、話し手の熱意や意思の強さ、誠実さ、正直さなどの感情の在り方です。

 ■プレゼンスを技化する鉄則:「存在感とギャップ」 

プレゼンスの向上を技化させる鉄則は、「存在感とギャップ」のコントロールです。信頼に足る存在感を醸し出し、更に聞き手の懐に入り込むような、いい意味でのギャップを演出します。多くの人は自分の存在感を伝えきれていません。女性というだけで、ビジネス上は軽い存在と感じられているのがスタートライン。これは前述の実験結果が物語っています。

まずは仕事の専門性の高さや熱意など、存在感を感じてもらうことを徹底します。「ありのままで」と言えるのは相応の実力がある場合だけです。服装や持ち物など自分のブランディングにもこだわりましょう。次にいい意味で、相手が描いている自分へのイメージや期待とのギャップを打ち出すことで、より印象的な人物として認識してもらい「この人は信頼できる。話を聞きたい」と思わせるのです。

成功の要素2:資料だけではない!? 「コンテンツ」のキモ

2つ目の要素【コンテンツ】も更に3つに分解して考えます。「シナリオ」「資料」「Q&A(質疑応答)」です。

まず、シナリオとは、メッセージとストーリーのことです。プレゼンテーションは、相手の状態に変化を起こして、相手にやってみようと思わせることがゴールです。相手の変化をデザインしていきます。シナリオがなく資料作りに没頭するのは長時間労働是正の観点からもお薦めしません。

重要であると思われがちな資料はプレゼンテーションの主役ではありません。主役はあくまでも話し手であるあなた自身です。英語では、プレゼンテーションにおけるパワーポイント資料のことを「ビジュアルエイド」という言い方をします。「理解を助ける視覚的なもの」という意味です。自分と主張を引き立てる資料を作れるようになりましょう。

そして、Q&Aは「質疑応答を征するものはプレゼンテーションを征する」と言ってもよいくらい重要なものです。説明をしっかり練習して上手くいったとしても、鋭い質問をされてしどろもどろになってしまっては、プレゼン全体の信頼性がなくなります。プレゼンテーションはお芝居ではありません。聞き手との対話です。聞き手がどんな疑問を抱くのか、それに対してどう回答したら満足されるのか。Q&Aまでしっかりとデザインして臨みましょう。

 ■コンテンツを技化する鉄則:「ツカミとオチ」 

コンテンツを技化する鉄則は、「ツカミとオチ」です。お笑いのように感じられるかもしれませんが、相手の興味関心をしっかりツカみ、相手が腹オチするまでメッセージを浸透させる内容にするという意味です。前回で述べたように「資料作成9割」になって失敗してしまう人は、ツカミとオチを考えずに、必要と思われる情報をひたすら文書化していってしまうため資料枚数ばかりが増え、「それで言いたいことは何?」と思われてしまうのです。ツカミとオチのシナリオをきっちりとデザインできれば、必要でない情報もしっかりと見えてきます。場合によっては、たった1枚のスライドで変化を起こせることもあります。まずはツカミとオチを徹底的に意識してコンテンツを考えましょう。

成功の要素3:女性特有の弱みが出やすい「デリバリー」を徹底的に矯正する

3つ目の要素は【デリバリー】です。デリバリーは「ボーカルインパクト」「ビジュアルインパクト」という2つの要素で構成されます。ボーカルインパクトとは、声の大きさやスピード、間(ま)や抑揚など、聴覚に与える効果です。ビジュアルインパクトは、ジェスチャー、アイコンタクト、表情、姿勢など視覚に与える効果です。残念ながらデリバリーは、後述する女性特有の動作が仇(あだ)となることが多いのですが、これもしっかりとメカニズムを理解すれば恐れるに足らず、です。

まずボーカルインパクト。声が小さい、抑揚がない、間が少ないのは男女問わずプレゼンの場数を踏んでいない人に多いのですが、特に話し方の語尾に女性特有の悪い癖が出がちです。例えば「○○ですぅ。」と語尾をのばしたり、「○○なのですが……」と結論を言わず語尾が落ちてしまう話し方です。“語尾のばし”は幼く、“語尾おち”は頼りなく聞こえてしまいます。また、話し慣れた人でも「○○の可能性があることを否定できないと言わせていただきます」など語尾にいくつも言葉を重ねて曖昧な印象を与えてしまう人もよく見かけます。

ビジュアルインパクトでも同様に、女性特有の仕草がマイナスに作用することが多くあります。例えば、首が傾いている、必要以上にうなずいて首振り人形のようになっている……などの仕草があります。また折角アイコンタクトをしているのに、それが上目使いでは、媚びているような印象を与え非常に残念です。このような動きは本人が気付いていないことが多く、自分の動画を撮って弱点を矯正するなど訓練が必要です。

とはいえ、無理してTED (Technology Entertainment Design)に出てくるような著名人、政治家、外国人のようなデリバリーを目指す必要はありません。話し方の基本動作に加えて、自分のプレゼンスとあったスタイルは何かを考えることで技化につながります。必要以上に上手に話す必要はありません。聞きやすく、誠意や信頼感がある伝え方を技化しましょう。

 ■デリバリーを技化する鉄則:「ノイズカットとフォーカス」 

デリバリー技化の鉄則は、「ノイズカットとフォーカス」です。ノイズカットとは、ムダを取ること。フォーカスとは、強調することです。

意識せずに話していると、「え~」、「あの~」など“言葉のヒゲ”と呼ばれる口癖や前述の語尾の癖のようなノイズが入りがちです。体の動きも同様に、相手が不愉快、もしくは頼りないと感じるノイズが含まれていることがあります。まずはボーカル、ビジュアルのノイズカットをして、その後に間や抑揚、ジェスチャー、アイコンタクトなどそれぞれのフォーカスのテクニックで自分らしさやインパクトを出しましょう。

ノイズがあるままだと、いくらフォーカスのテクニックを駆使しても、効果がありません。「まず徹底的なノイズカット、次にフォーカス」と覚えてください。プレゼンスの技化と合わせて、デリバリーのスタイルを確立すれば無敵です。

次回以降は、プレゼンスを技化するにはどうすればいいのか、具体的な方法を紹介していきます。

清水久三子

お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティング
を設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。