住まいと街の解説者・中川寛子さんが教える、不動産購入の際の重要事項。人生最大の買い物で後悔しない、不動産目利きの裏ワザをご紹介。今回は「街全体の生活動線」を考えます。ずっと暮らす家だから、購入の際には街の利便性もしっかりチェックしよう。

理想の動線は“寄り道、回り道なし”

住まいの使い勝手を考える際のキーワードの1つに「動線」がある。たとえば家事動線は家事のしやすさを示す言葉で、歩く距離が短いほど家事の効率化が図れるというもの。キッチンと洗濯機置き場が近いと調理と洗濯が同時に進行できる、1人で短時間に調理するなら体の向きを変えるだけで済むL字型やコの字型キッチンが使いやすい、などが代表的な例である。

あるいは生活動線。これは朝起きてトイレに行き、顔を洗い、朝食をとって……などという家族それぞれの行動を表す動線で、こちらも短いほうが暮らしやすいとされる。最近では介護のための動線も意識されるようになっている。

一方、あまり意識されていないのが「街の動線」である。家事は住戸内で行われるものばかりではない。買い物やゴミ出し、子供の送り迎えその他、街の中を動くことで行われるものもあり、住戸内の作業以上に時間、手間がかかることもある。考え方の基本は、他の動線同様にできるだけ短くすること。理想は寄り道、回り道をせずに我が家から最寄り駅までの間で買い物やクリーニング店の利用その他の用事を済ませ、子供の送り迎えなどができることだが、子供に関しては自分の選択以外の結果になることもある。少なくともそれ以外の、外でやるべきことを中心に街の動線を考えるのが現実的だろう。

家族が増えると、街の生活動線にも変化がある。通園、通学、通勤、効率的な動線をシュミレーションできていると安心だ。

もうひとつ、街に期待したいのは不足する時間や手間を、街にあるサービスで補ってもらうということ。街に家事を手伝ってもらうと考えれば良い。分かりやすいのは調理の手間を惣菜やデリなどの“中食”で補ってもらうという手。集荷、宅配などのサービスも同様である。

家事をラクにしてくれる街を選ぶためには、まず、2つのことをやってみよう。1つは自分たちの生活に必要な施設は何かを洗い出すこと。その際には施設を3種類に分けて考えてみよう。その3種類は利用頻度で考える。

もっとも近くに欲しいのはほぼ毎日、あるいは2~3日に一度など非常によく利用する施設で、これはできるだけ寄り道せずに済む場所、遠くても徒歩5分以内、できれば2~3分のところに欲しい。次いで毎週1回くらいは利用する施設で、これは週末にまとめて利用でも問題ないだろうから、徒歩圏内にあれば良しと緩く考えよう。もう1つの、ごくたまに利用する施設は電車、車利用で行く場所で構わない。

利用頻度で考える我が家と施設の動線距離
・頻繁に利用する施設~遠くても徒歩5分以内
・週1回程度利用する施設~徒歩圏内であれば良し
・ごくたまに利用する施設~電車や車の移動で行く場所で良し

何が身近に欲しいかは、家庭によって違う。毎日の食料品程度ならコンビニで可という人もいれば、やはりスーパーが欲しい、という人もいるだろう。クリーニング店を頻繁に利用する人、しない人、酒屋と郵便局は近所に欲しいなどなど、自分たちの暮らしに合わせて考えよう。

街の使い勝手は、店の品揃えまで押さえてシュミレーション

動線の洗い出しと同時にもう1つ。住まいを探している街、希望している物件の周囲に、どのような施設があるのかをチェックしよう。現地に行く前であれば、不動産会社が用意している資料、住宅地図はもちろん、地元の商店街のホームページも見ておきたいところ。どんな店があるかを具体的に知ることができるのは当然だが、ホームページを見れば商店街のやる気も見て取れる。

地元商店の活気の有無は、生活の質にも影響がある。自分の生活スタイルに合ったお気に入りの店があれば、街との関わりも楽しい。

商店街のホームページが手抜き、大した更新がされていない、各個店の情報がほとんどない、あるいは工事中のページばかりといった街は、活気がなく商店街としてのサービスを期待できない場合がある。また現地に行った時にある店が、ホームページ等で紹介されていないことがある場合には、商店街全体としてあまりうまく機能していない可能性がある。現地に行って自分の目でしっかり確認しよう。

また、商店街とスーパーが併存している街の方が、どちらかしかない街よりも住みやすい。競争があることで価格面、品質面、サービス面で競争がない場所よりも質が高くなっていることが予想されるからである。同様にスーパーが複数ある、深夜まで営業しているスーパーが多い街も利便性が高く、お勧めだ。

次いで、自分で歩いてみる。大抵の人は不動産会社が示している地図で最短距離を歩いてしまうが、ここは忙しくても時間を確保し、丁寧に歩いてみるべき。駅から我が家だけで終わらせず、反対側なども含め、周囲徒歩10分圏くらいを歩いてみると、街の雰囲気も分かってくる。住む前にきちんと調べてあれば、その後の生活がラクになるのだ。

我が家と駅の動線上のどこに店舗、施設が位置するか、無駄な動きをしなくて済むかに加えて見ておきたいのは、営業時間、休業日に品揃えなど。酒屋があってもビールと日本酒しかない、お惣菜パンばかりが並んでいるパン屋、週末や自分がその街にいる時間は休んでいる食品店など我が家のニーズに合わない店はあっても意味はない。宅配を行っている店や、閉店時でもロッカー利用で預けられるクリーニング店などがあれば助かる。

動線が悪い場合は、他の手段を考える必要も!

こうした作業の結果、商店街があるのが駅を挟んで向う側だった、スーパーを利用するためには遠回りをする必要があるなど、最短の動線ではない物件、周囲に満足いく設備の整っていない物件も出てくるだろう。そこで他の物件にしようと思うならそれも良し、そうでないならマイナスをどうカバーするかを考えてみるという手がある。

例えば、買い物は我が家の近所でしかできないことではない。オフィス周辺、通勤途上に利用できる施設があれば日常的にはそこを利用するという手がある。宅配サービスなどをフル活用すれば自分が赴かなくても必要な品を調達することは難しくない。クリーニングも集荷サービスを使えば持ち歩く手間は省ける。特に都心近くであれば、そうしたサービスが充実しており、足りない時間をサービスで補うことができる。

働きながら毎日の食卓を考えるのは、なかなか大変。惣菜の充実した店が街にあれば、うまく活用して余力をほかに使うという手も。

個人的にお勧めなのは惣菜などの中食が充実していて、料理の手間が省ける街である。大田区、品川区や下町エリアなど、古くは周囲に中小、零細な工場などが多かったエリアでは伝統的に中食が充実しており、肉屋、魚屋、中華料理店などが惣菜、弁当などを販売していることが多い。

安価でかつ目に見える場所で作っていることが多いので、添加物等が気になる人にも安心だ。こうした商店街では1本の通りにさまざまな業種が揃っていて、通り抜けるだけでほとんどの買い物が済むことが多く、便利だ。ちなみに神奈川県では土地柄からだろうか、中華のお惣菜、弁当が多いのが特徴。店で食べるより安く、各種揃うのがうれしい。もちろん、外食が多い家庭なら外食事情も見ておきたい。

それらを総合的に判断して、自分のライフスタイルと街の利便性がマッチしているか、不動産購入のヒントにしてほしい。

中川寛子
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。