最近、料理をしていませんでした。

頑張って仕事をした後、帰宅する頃には気力・体力ともに「夕ごはん作るぞ!」という元気は消え失せてしまうばかり。オリジン弁当でおかずを買うか(主食を食べる元気もない)、気休めにスーパーの煮物用カット野菜を購入し、即席煮を作るのが精いっぱいです。休日だって、気が付いたら、家族の作ったごはんを食べているか、外食が多くなっています。

別に料理が嫌いなわけではありません。むしろ、レシピサイトや料理本はよく見ていたし、テレビの料理番組も好きでした。

『小林カツ代と栗原はるみ』という本を知って、単純に「私の好きな料理の先生はどんな位置付けなんだろう」という興味を持ち読み始めました。本屋として勉強不足かも知れませんが、料理研究家論の本なんてなかなかお目にかかることもありません。

『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』阿古真理著/新潮社刊

また、友人の家でごはんをいただく時に、彼ら彼女らの好きな料理研究家の影響を見て取ることがあります。家族や友達の作る料理を思い浮かべながら、この本を読み始めました。

本書の構成は、各料理研究家の人物評と、彼女たちが紹介してきた料理を通してレシピの特徴を見ていくというものです。戦後間もなく登場した料理研究家から、外で働く女性が増えた時に時短料理を紹介してきた小林カツ代、そして「主婦のカリスマ」栗原はるみ。あるいは、ハレとケに表現される、行事料理やパーティ料理などが得意な料理研究家と、毎日のおかずを中心に紹介してきた料理研究家との比較。

著者の阿古真理さんは、生活史研究家のライターということもあり、数々のレシピ本を読み込まれたそうです。それぞれの料理研究家のレシピを解読し、時には再現されているので、読書中、どうにもスーパーに行きたくなるかも知れません。

料理研究家が登場したのは明治時代ですが、戦後、『きょうの料理』などのテレビ番組で活躍する料理研究家が出てきました。その歴史を見てみると、外交官の妻の飯田深雪、ロシア貴族の妻の入江麻木など、セレブリティが教える西洋料理、というのが初期の傾向です。裕福な家に育ち、海外で料理を学んだという点で共通している江上トミは、江上料理学院を設立し、また地域に根差した家庭料理をも伝えようとしています。

書店でも人気の有元葉子もその系譜です。ヴェトナムとイタリアがベースにある有元さんの料理は、未知なる海外のおいしいごはんを身近なものにしてくれています。

“飲み会”“忘年会”という名のホームパーティーで、いつもみんなに料理を振る舞ってくれる友人がいます。彼も有元さんの本を読んでいるようで、一緒に参加した友達は「あの料理、さすが有元葉子の本を読むだけあるね!」と帰り道に思い出したようによく言っています。

読んでいて偉大だな、と思ったのが小林カツ代です。家族の食事は大事。でも、働く女性が毎日料理をするのはハードです。カツ代さんは、時短テクを駆使し、思いもよらなかった方法で、しかもおいしいレシピをたくさん教えてくれました。昔からの教科書通りの作り方ではないことも多く、半信半疑だったこともあるのですが、「こうしたら火の通りが早かったのか!」「ベチャベチャにさせずに上手に作れたぞ!」と、実際に真似してみて感動したものです。

この本では、各料理研究家の比較に、それぞれが作るビーフシチューのレシピが出てきます。料理をしたことがある人ならば、一度はビーフシチューを作ったことがあるでしょう。同じメニューのレシピを比べてみることで、それぞれの料理の特徴がより分かる構成となっています。因みに小林カツ代のビーフシチューでは、缶詰のドミグラスソースを使用します。

母親世代に絶大な人気を誇るのは、栗原はるみでしょうか。もちろん、若い世代にもハルラーはたくさん存在しますが、料理のテクニックに苦労などしないであろう、母親たちになぜはるみさんは支持されるのでしょうか。それは、長年台所に立ち続けている経験から、ふと試してみた「工夫」の数々を基にしたレシピが多いことにありました。切り方や調味料の使い方をちょっとだけアレンジし、皆が気付いていなかったおいしいメニューを提案されています。毎日、料理をしている人にこそ響く、レシピの数々なのです。

料理研究家たちのスタンス、レシピに対する思いなどを想像しながら読んでいたら、久しぶりに、無性に料理がしたくなりました。

新潟出身の母に教わったことのあった、のっぺ(のっぺ汁)を作ってみました。
レシピのポイントは、里芋やニンジン、こんにゃくの下茹でと、しいたけや白かまぼこなど、だしの出る材料を先に煮ることです。ベースとなる鰹節のだしが薄くなってしまったので、気を取り直して、調味料を足して完成させました。

若干いまいちの出来でしたが、おいしく食べることができました。レシピ本や料理番組を観ているばかりの毎日ですが、料理って楽しいものだったな、と思える瞬間でした。