女ひとり、グループ会社に乗り込む

私が勤めている大京は、「ライオンズマンション」の開発・分譲をしている会社としてご存知の方も多いと思います。過去には新築分譲マンション供給戸数で29年間連続第1位となるなど、世の中に一番多くのマンションを供給してきたデベロッパーです。

大京 グループ経営企画部企画室 田中香名子さん

ただ、かつて新築マンションの供給戸数を追いかけていた弊社も、近年は時代の変化のなかで、既存マンションの管理や仲介、資産価値を向上させるための改修工事など、住宅ストックの維持・再生に向けたビジネスに力を入れています。

そのため、私が所属するグループ経営企画部も、新築分譲が中心だった以前とは比べものにならないくらい様々な業務を行うようになりました。

特に近年はグループ会社の業務改革に関連した仕事が多いですね。今年4月には17社あったグループ会社を14社に組織再編したばかりです。不動産業界はまだまだ男性が多く、経営陣や幹部全員が男性のグループ会社に私が1人で乗り込んで、仕事のやり方や仕組みを変えてもらうために議論を重ねることもよくあります。

業務改革は「こうあるべき」「こうすべき」という会社のあるべき姿を考え、それをきちんと説明し理解してもらい、シナリオに沿って実際に会社を変えていくところにやりがいを感じます。

そのためには、グループ役職員の皆さんに、これまで慣れ親しんできた仕事のやり方を変えてもらい、様々な視点で業務を効率化していく必要があります。一方、仕事のやり方を変えることに抵抗感を持つ方もいます。あるグループ会社に半年間にわたって常駐し、外注コストの削減と品質向上をテーマとする業務改革に取り組んできましたが、現場では厳しい局面の連続でした。

当時はAさんを説得したらBさんから不満が噴出した――というように、火消しに奔走する日々。「このやり方でよくなるとは思えない」「上司を通してから言ってくれ」「それはやりたくない」という声が鳴り止まない中で、少しずつ社員に浸透しお客様にも評価されるなど、実績を積み重ねて根気強く経営陣を説得していくしかない、と学びました。

転職を思いとどまった出来事

今こうした仕事に私がやりがいを感じているのには、1つの大きなきっかけがありました。

それは2006年のこと。会社の財務状況が厳しかった時期に一度だけ本気で転職を考えたことがあったのです。

ところが、ある大手企業の選考で、部門の責任者から「今の会社でやり残したことが本当にないのならうちに来てほしい。今の会社であなたは活躍しているし、まだやり残したことがたくさんあるんじゃないか。一生のキャリアを考えたとき、本当に後悔しないかをもう一度考えて欲しい」と言われました。

それで一晩考えてこう思ったのです。入社後の10年間で、大京は金融支援を2度も受け、周囲にはいつ潰れるのかと言われて続けてきました。そんななか、同僚が次々と辞めていくのを間近で見るのはつらいことでした。

そんなことをふと思い出し、自分も同じようにこの会社を去っていいのか。そう改めて考えていると、これまでお世話になった人たちの顔が浮かび、失墜してしまった大京ブランドの信頼を回復させることが、本当は自分がやりたいことではないのかと気付いたのです。それで最後の最後に転職を思いとどまりました。

転職を断念したからには、もう後には引けないという気持ちになりました。これからはブランド価値を高めるために力を尽くしたい。思えば、私が「野心」を持つようになったのは、この決意がきっかけだったという気がします。「大京っていい会社だよね」とステークホルダーに言っていただくためには、会社を変えられる業務に携わり、経営に関わっていたいと思ったからです。

田中香名子(たなか・かなこ)
1997年慶應義塾大学卒業後、一般職として入社。2000年、総合職に職種転換。住宅企画部でマーケティング、事業企画等を経験し、08年産休。10年、グループ経営企画部。12年より、担当課長に。