都市部では、認可保育所(=認可保育園)への入園はいまだに厳しい状況が続いています。

昨年あたりから「待機児童数ゼロ」を高らかに発表する自治体が続出し、その自治体の認可保育所は「全入」かと思って引っ越したけれどやっぱ入れなかったという話も聞こえてきました。

なぜそんなことになるのか? 今年4月から開始した新制度ではどうなるのか? 気になる待機児童数のナゾに迫ってみましょう。

入れなかった子どもがいても「待機児童数ゼロ」とはいかに

このからくりについては、すでにご存じの方も多いかもしれません。

待機児童とは、そもそも、認可保育所を希望したのに定員超過で入れず空きが出るのを待機している子どものことでした。ところが、東京都に認証保育所制度ができた2001年から国は待機児童数の定義を変更し、認証保育所などの自治体単独事業の保育施設(自治体が単独で補助金を出している認可外)で認可の空き待ち(待機)をしている子どもや、第1希望以外の入園を辞退している家庭については、待機児童数に含めなくてもよいという通知を出しました。

それから十数年の月日がたち、待機児童数の定義は徐々に緩められ、自治体によってもバラバラになっていきました。

2013年に「待機児童ゼロ」を宣言した横浜市は、上記のほかに、求職中の家庭、育児休業中の家庭なども待機児童から除外していました。このカウント方法を「横浜方式」と呼んで見習う自治体も現れました(本当の「横浜方式」は横浜市独自の認可保育園の増設方法やコンシェルジュという利用者支援のことを指します)。

しかし、実態とは違う「待機児童数」の公表に、自治体はもっと慎重であるべきです。それを見て引っ越してしまった家庭にとっては、大損害になってしまうからです。

「待機児童ゼロ」の待機児童内訳

今年4月に待機児童ゼロを宣言した川崎市の例で見るとおり、待機児童数からは、相当数の自治体単独事業の認可外保育施設利用家庭、認可保育所に入れず育児休業を延長している家庭、希望園以外を辞退している家庭、求職中の家庭などが除外されています。

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待機児童ゼロの川崎市の「待機児童」の内約:2015年4月、川崎市の認可保育所の利用申請をして利用できなかった子どもの数は2231人。そのうち、市単独事業の認可外(川崎認定保育園等、おなかま保育室)を利用している子どもの数は1347人。

これを見ると、「いったい誰が待機児童になりうるのか?」という疑問さえわいてきます。1年前、私は本連載で「安倍さんが知らない『待機児童数』のナゾ」と題してこのようなカラクリを解説し、これは待機児童数の空洞化だと書きました。

「なぜ認可保育所でなければならないのか。自治体の補助する認可外に入れているならいいではないか」と考える人もいるでしょう。でも、保護者の希望は圧倒的に認可保育所に集まっています。それがなぜかは、また別の機会に。ただ、わが子にお庭のある園でのびのびと育ってほしいというのは、親の素朴な願いではないかと思います。

新制度の待機児童の定義は?

さて、新制度ではどうなるのかについて、すでに厚生労働省は通知を出しています。それによれば、新しい待機児童数は、次のような計算方法になります。

 総申込児童数 
認可保育所・認定こども園(2号・3号定員部分)・地域型保育(小規模保育・家庭的保育ほか)の申込児童数(継続も含む)

 総利用児童数 
認可保育所・認定こども園(2号・3号定員部分)・地域型保育(小規模保育・家庭的保育ほか)・幼稚園の利用児童数(継続も含む)

 除外してもよい児童数 
自治体単独事業の認可外利用者(認証保育所等、認可を受けない保育ママなど)
認可化移行支援を受ける認可外の利用者
幼稚園の長時間預かり保育の利用者
★求職中のうち求職活動を休止している者
保護者の私的な理由により待機している者(特定の保育所を希望するなど)
★育児休業中の者


 総申込児童数-総利用児童数-除外してもよい児童数=新制度の待機児童  

新制度の待機児童数

これまでは認可保育所についてだけ待機児童数をカウントしていましたが、新制度では、認定こども園や小規模保育なども含めた認可全体での待機児童数を合算で算出することになりました。これは大きな変化です。たとえば、認可保育所に入りたいのに小規模保育に決まったという場合も「認可に入れた」ことになります。

また、認可に入れなかった児童数から自治体単独事業の認可外を利用している児童数を除外してよいというのは従来どおりですが、育児休業中の家庭を除外してよしとしたのは、国としては新たな変更(緩和)でした。

「求職中のうち求職活動を停止している者」という項目は、以前は「状況把握に努め適切に対応する」という文章になっていたので、少しは正確を期す方向になったのかもしれません。しかし、子どもを預かってもらえなければ求職活動もできないので、「鶏が先か卵が先か」の矛盾ループに陥っているようにも見えます。

というわけで、新制度の待機児童数定義は以前よりも緩くなり、保護者にとって、認可保育所の入園難易度を把握することはますます難しくなってしまったようです。

新制度について定めた子ども・子育て支援法は「潜在ニーズも調査して必要な保育を整備する」ことを市町村の責任としたはずでした。この待機児童数の定義は本当にこれでよかったのか、キツネにつままれたような気持ちがしています。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)ほか多数。