2012年の社長就任から3年。スウォッチ グループ、カルバン・クライン ウォッチ&ジュエリーを牽引してきたラウラ・ブルデゼ。タフでスマート、かつ冷静沈着なビジネススタイルの原動力とは? インタビューを通して、そのパワーを保つ秘訣に迫ります。
ファッションウエアを中心に、フレグランス、コスメティック、アンダーウェア、インテリアなど、多彩なアイテムを世界に向けて発信する「カルバン・クライン」。その幅広い展開はライフスタイルすべてをコーディネートするトータルブランドと言えるだろう。
中でも、注目されているのが、1997年、スイスの名門時計メーカー、スウォッチ グループとのコラボレーションにより誕生した「カルバン・クライン ウォッチ&ジュエリー」だ。
現在、同社の社長を務めるラウラ・ブルデゼは、イタリア生まれで3カ国語を操る才媛。2人の子供の母であり、スポーツをこよなく愛する力強い印象の女性だ。1999年にスウォッチ グループに入社以来、マーケティングの分野でキャリアを積み上げてきた。
社長に就任して3年。どのような実感を持って采配を振るっているのだろう。
「まず、強く感じているのは時代の変化です。私がスウォッチ グループに入った90年代は、国や地域ごとのローカル市場が需要を喚起していました。それが、現在はツーリズムの発達により世界中に人々が動くため、消費行動を1つの国や地域では捉えにくくなっている。当然、販売戦略は広い視野でグローバルに考えなければなりません」
ファッショントレンドから時計をデザインする
変化著しいグローバルマーケットにおいて、「カルバン・クライン・ウォッチの強味」とラウラが強調したのは、そのバックグラウンドである。
「世界的なファッションブランドが歴史と伝統を持つ時計メーカーとライセンス契約を結ぶのは、世界初といえる画期的な試みでした。それが他社の時計との差別化につながっています。
私たちがつくる時計には3つの大きな特徴があります。1つ目はカルバン・クラインによる美しいデザイン。2つ目は、スイスメイドであること。これは高い品質と優れた性能を意味しています。そして3つ目は、買いやすい価格帯であること。こうした要素が融合している時計は、カルバン・クラインだけと言っていいでしょう」
ブランド力も大きな武器となっている。ラウラによれば、カルバン・クラインの知名度は先進国で85%に及ぶという統計もあるそうで、「コカ・コーラやナイキに匹敵するレベル」と胸を張る。
「もちろん、我々のような結びつきは、容易にできることではありません。しかし、両者をバランスよくマッチさせれば、大きなパワーになるのです」
こうした画期的なコラボレーションを象徴するのが、毎年行なわれる新作発表会だ。ニューモードの発表はファッションでは当たり前のことだが、時計メーカーとしては珍しい。新作にはファッションでの流行も敏感に取り入れられる。
「新商品の開発は、カルバン・クライン本社から伝達されるトレンド情報がベースになります。それをもとに色や素材などデザインを練っていく。一方で、時計としての品質や性能も進化させます。その中で、カルバン・クラインらしさをどのように表現するのかがポイントになるのです」
FACE TO FACE ポジティブな場を共有する
当然のことながら、経営も2つの大きな車輪をコントロールする必要がある。決して容易なことではないはずだ。リーダーシップについて質問を向けると、「一番、大切なのはビジョンを明確にすること」とラウラは即答した。
「企業として何を求め、どこに向かっているのか。それを常に伝え続ける努力が必要です。そうしなければ、社員全員が足並みを揃えて同じ方向に進んでいくことはできませんから」
そのためには、まず経営陣の意思疎通をはからなくてはいけない。現在、マネジメントチームのメンバーは5人。それぞれが忙しく世界中を飛び回っている。メールや電話では伝えきれないことも多いため、ラウラは2~3週間に一度、スイスに全員を集めてトップミーティングを行なうことにした。
「すでに10回以上開いていますが、顔を合わせて話し合うことの大切さを実感しています。ただ、個々に懸案事項を抱え、それを報告し合うだけで3~4時間はあっという間に過ぎてしまう。『これからはポジティブなニュースばかりの会議にしましょう』と言っていますが、できるかどうかはあやしいわね」
明るくそう言って笑いを誘うラウラは、初対面でもファンになるほど魅力的な女性だ。その点からもリーダーとしての資質は十分といえるだろう。
大切なのは、向上心と自己鍛錬
彼女自身、リーダーには天性の資質が必要と言うが、「求められるものはそれだけではない」とこう言葉をつないだ。
「大事なのは、向上心を持って、日々、成長していくこと。そして、自分の弱点を認識して、克服するよう努力することだと思います。私は自分に厳しい人間なので、自分が行なっていることに100%満足することはありません。これまでたくさん勉強をしましたし、今も継続しています。
とはいえ、仕事は1人の力ではどうにもならないのも事実。社内外のたくさんの人たちの協力をもとに達成していけるのです。そのことにはいつも心から感謝しています」
ラウラが会社のことを話すとき、「私たち」と言うのはそのため。理想のリーダー像が体現されている。
そんな彼女がこれからどのようなビジネスを展開していくのか。注目である。(文中敬称略)