人、社会、自然環境に配慮したジュエリーブランドを日本で初めて手掛け、社会起業家の代表的存在としても注目を浴びる白木夏子さん。
HASUNAの白木夏子さんは、製作過程に倫理的な問題がないエシカル・ジュエリーの先駆者である。
「社会貢献に興味を持ったのは学生時代ですが、具体的にジュエリーブランドの立ち上げを志したきっかけは、ファッションデザイナーであった母の影響が大きく、自分でも10代の頃からジュエリーづくりをしていたことがあります。そのうえで、学生時代、2003年にNGO活動でインドを訪れたさい、貧しい村の子どもたちが鉱山で働かされているのを見たこと。小さな体で10kg、20kgもありそうな石を運び、絶望的な表情をしていて、とてもつらい気持ちになりました」
採掘も危険な作業だ。美しい宝石がこんなふうに採掘されているなんて。ジュエリー好きだった白木さんにとって、とりわけショックな光景だった。何か自分にできることはないか、と考えても何もできない。帰国後も無念の思いを抱き続けたが、まずは投資ファンドに就職。ビジネスを学んでから戦う準備を整えた。
そして、09年、採掘側、着用側、双方がハッピーになるジュエリーブランド、HASUNAをスタート。鉱山労働者や職人の労働環境に気を配り、フェアな取引を遵守し、14年には日本の企業では初めて「責任あるジュエリー協議会」から認証を受けた。志の具体化を猛スピードで実現させている。
もちろん、ジュエリーとは古来、人間が身に着けてきた贅沢品で、業界の商慣習に立ち向かうのはやさしい道ではない。しかし、社会状況が白木さんの志を後押しした。白木さん自身が胸を痛めたように、ビジネスの過程で社会貢献できる商品を買い求める「エシカル消費」を選択する消費者が増えてきたからだ。
「とはいえ、エシカルという商品であるだけで、ジュエリーとしての価値がなければ、選んでいただけません。ですから、HASUNAがエシカルな製作過程を踏んでいるとご存じないお客さまにも、素敵ね、と選んでいただけるブランドにならなければいけない。その意味で、13年に伊勢丹新宿本店に出店できたことは大きな自信になりました」
「ファッションの伊勢丹」の新宿本店ジュエリー売り場は、多くのジュエラーが出店を希望する垂ぜんの的。バイヤーから声をかけられたとき、HASUNAの次のステージが開けたのだ。
「おしゃれでジュエリーをよくご存じのお客さまにデザインや素材の使い方が新しくて面白い、とご購入いただき、その後に私たちの社会貢献の取り組みを知っていただくケースも増えてきました」
自社の商品をきっかけに、その背景にある人や自然への敬意を伝えること。身に着ける人がハッピーになること。これこそ、白木さんが自分に課したミッションである。ただし、それだけではダメだ。持続可能性を目指すなら、ビジネスとして成立させないと一過性の成功で終わってしまう。
「世界を本気で変えたいなら、グローバルなジュエリーブランドとして育てなければいけません。エシカルが空気のように当たり前な世の中にならないと採掘現場の現状も変えられない。デザイン、品質、サービスすべての面で価値の高いジュエリーブランドとして育て上げ、世界に笑顔の輪を広げていきたいです」
株式会社HASUNA(ハスナ)代表取締役社長・チーフデザイナー。1981年鹿児島県生まれ。ロンドン大学キングスカレッジにて開発地理学を学び、国連でインターンを経験。投資ファンド会社勤務を経て、2009年4月に会社設立。