全3回でお届けする、ジェーン・スーさんの“JS流 平成サバイブ術”の第1回。――働く女性が、厳しい社会を生き抜く一番の秘訣は、戦うための剣や矛を身につけるのではなく、自分に向けられた攻撃を受け流す、柔軟な心身づくりにある、とジェーンさんは言います。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして多方面で活躍するジェーンさんから、自分らしく働き続けるための知恵とエールをお届けします。

“したたか”だけでは生きづらい

女性が社会で生き抜くためには、いい意味でのしたたかさって必要だと思うんですよね。プレジデントウーマンオンラインの読者は、すでにある程度のしたたかさはお持ちのはず。

“未婚のプロ”ことジェーン・スーさん。自意識に対する考察と抜群の言葉のセンスで、こじらせがちな「女子」を牽引する。多方面で活躍する多忙な時間を割いて、プレジデント ウーマンオンライン読者に働く極意を語ってくれた。(取材協力:ウェスティンホテル東京 龍天門)

でも、したたかさだけを頼りにしては、生きづらいでしょう。どんなに立派な武器を持って攻撃力があろうとも、自分を防御する力がないと、思わぬダメージを受けることってあるじゃないですか。その時、ダメージを正面から受け止めるのではなく、「かわす力」を身につけて、戦っていく必要があるんです。

それは決して、怒らないようにするとか、我慢をするというように、自分を抑えることじゃない。嫌なことはハッキリ主張しながらも、大きいダメージを受けないように振る舞うこと。例えば自動車の揺れを吸収する“ショックアブソーバー”のような能力を上げるってことですね。自分に向かってくる痛みのようなものをうまく逃がしたり、自分にかかる負荷を軽くしたり。そんな力が必要なのかなと思います。

無責任を許す、ということ

そうした力を身につけるためには、適度に無責任になることです。といっても自分にかかる職責に対して無責任になることではないですよ。例えば、あるプロジェクトの自分には手の届かないところのクオリティや、他人の仕事に対する姿勢などに、ある程度は目をつぶるという感じ。

私自身、昔は何をするにも「こうでなければならない」と頭でっかちに考えていました。一緒に働いているスタッフにも「何で自分と同じペースで働いてくれないんだろう」と不満を感じたり、「もうちょっと頑張れよ」などとギャーギャー言いがちだったんです。でもある時、それは私のエゴだと思うようになりました。

適度に無責任を許せばいいんですよ。責任感が強すぎちゃうと「なんで、あたし1人だけ、こんなに頑張っているんだろう」という状況に陥りかねない。「黙って見ていられない」、「やっぱり私がやらなくちゃ」と何にでも手を出しちゃうと、そのやる気を利用しようとする小狡い人がどんどん仕事をふってくる。仕事は1人で抱え込むもんじゃない、自分だけでまわすものじゃない、という気づきが必要だと思うんです。

机の上を転がって玉が落ちる様子をぼんやり見ている、くらいの図々しさは必要ですよ。その玉に手を出しちゃうと、「あいつ、これもできるな」と周囲に思われて、みんなが玉を転がしてくるようになるから。手が届くことにも、時に無責任を決め込む。それも「かわす力」なんだと思います。大丈夫。自分が放っておいても、誰かがきっとその玉、拾いますから!

己のスペックを過大評価するべからず

一方で、自分の領域は責任感を持って働かないと、自分自身が気持ち悪い。中途半端にやっちゃった仕事って、どこか心残りが生まれるでしょう? それに時間は巻き戻せないし、仕事のやり直しってできないですから。

だから、眠くても辛くても、やらなきゃいけないってことはありますけど、やっぱりそこでも「かわす力」が大事。間違えたり、うまくできなかったりして、落ち込むことはもちろんあります。でも大体こんなもんだと思うことも必要。何事も塩梅ですね。

がっかりするのって、自分に対する期待度が高いというか、ある種のうぬぼれだと思うから。そう考えるようになってから、私自身、少しくらい失敗しても「私の機能に、これくらいのヒューマンエラーはつきものでしょ」と自分を許せるようになりました。

そう思えるようになったのは、40歳を過ぎてからかな。以前、働く女性の先輩方に「40を過ぎたら楽になるわよ」って言われましたけど、本当でしたね。それこそ体力の減退と反比例してくるというか(笑)。体力が衰えてくると、いろんなことに対する塩梅というか、上手にかわす、匙加減のようなものが自然と分かるようになってくる。

若いころは、そうした先輩のアドバイスも「若さに対する負け惜しみ」くらいに思っていたけど、いざその年齢を迎えたら、先輩の言うことは比較的当たっていた。だから、アラフィフやもっと上の先輩たちが、すごく楽しそうに仕事をしているのを見ると、私も「まだまだ行ける」と思うわけです。

ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの、生粋の日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 相談は踊る」をはじめとしたラジオ番組でパーソナリティーやコメンテーターを務める。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)がある。TBSラジオの番組をまとめた『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社 編者/TBSラジオ ジェーン・スー 相談は踊る)は、ラジオリスナーでなくとも、ジェーン節を堪能できる内容になっている。