世の中が、すさまじいスピードで大きく変わっています。お金を取り巻く環境についても同様。「私の老後は大丈夫?」なんて不安もよく耳にします。でも心配し過ぎることはありません。社会と会社に責任感をもち、真面目にコツコツ働き続ける女性と相性ばっちりの「お金との付き合い方」を、セゾン投信社長・中野晴啓さんに教わる連載がスタートします。さぁ、知的かつエレガントにお金を育てましょう!

「大人の女性とお金」の理想の関係

セゾン投信の中野晴啓と申します。今回から、主体的・能動的に自分の人生を選択して、「自分の未来をデザインする」プレジデントウーマンオンライン読者の皆さまに、これからの日本社会を生き抜くためのお金との付き合い方、そしてステキでカッコいいお金の育て方を、易しくお伝えしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

セゾン投信株式会社 代表取締役社長・中野晴啓さん

まずは簡単に自己紹介から。僕は8年前に「セゾン投信」を創業して、今は約1300億円のお金を運用する投資信託会社の代表をやっています。そのお金は9万人を超える普通の生活者の方々の、各々の思いが込められた投資マネーの集積です。

そして9万人の長期投資家の皆さんが当社のファンド(投資信託)に参加する目的は、自らの将来に向けた「経済的自立」です。つまり自分の生き方を、今だけでなくまさに人生軸で捉えて豊かで幸せな生活を自ら実現すべく、自ら行動を起こした方々で、男女を問わず30代・40代の現役生活者がその主役なのです。

自分の人生は、自身で行動して自ら切り拓く! 国や政治や或いは他人にも頼らず、自助自立で動き始めている生活者が、いま僕の周りでどんどん増えていることを、ウーマンオンライン読者の皆さんにまず知っていただきたいと思います。

「預金は正義」ってほんと?

雑誌「PRESIDENT WOMAN」の読者を対象としたアンケートに、「今もしくは今後も利用したい金融商品サービスは?」という質問項目があって、結果はぶっちぎり第1位が円預金で37.8%というデータが挙がっています。

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「今後もしくは今後も利用したい金融商品・サービス」人気第1位は円預金。株式、投資信託、NISAがその後に迫る。雑誌「PRESIDENT WOMAN」vol.1(2014年12月7日号)読者アンケート結果より。

ウーマン誌読者の意識レベルに鑑みれば、きっとお金に対する考え方は十分に真剣であろうと推察します。そして真剣に考えて選んだ答えが円預金だったことに、僕は全く違和感を覚えません。それはウーマン誌、およびウーマンオンライン読者世代のみならず、日本人全体に浸透しているのが、「預金は正義」だからです。

私たちはみんな、子供の頃お年玉をもらった時、お母さんからこう言われたはずです。「そのお年玉はお母さんが預かって銀行に預金しておいてあげるから。銀行に預けておくのはとても良いことで、あなたのためになるのよ!」

どうでしょう、皆さん。憶えがありますよね? 私たちはこのように、預金は良いこと、正しいこと、と当たり前のように教えられて育ってきました。実は日本には、明白な理由で前世紀から「預金は正義」の文化が根付いていて、今でも社会の常識化しています。

その理由は後述するとして、結論から言えば、もはや預金は正しい行動規範ではなくなっています。もっと強調するなら、これからの時代は、預金絶対崇拝志向の生き方では豊かな人生も安心な老後もおぼつかない、更にはっきり申し上げて、ウーマンオンライン読者の目指す「自分の未来をデザインする」ことは到底困難だ! とさえ断言できるのです。

「預金は安全」という思考停止

僕は2014年に、預金一辺倒な日本人の生き方への警鐘を鳴らすため、『預金バカ』という本を書きました。それは親から教わった、預金は良いこと、正しいことという常識を盲信せず、世間の常識を真理と信じて疑わない思考停止状態な多くの日本人生活者に、改めて自分の頭で考えて、お金の意味を、お金の社会的役割を意識していただきたい、との強烈なる想いからです。

預金だけを絶対視することを止め、成長力ある投資対象にお金を回すことで、みんなで成長する。そんな新しいお金との付き合い方を説いた『預金バカ ─賢い人は銀行預金をやめている』(中野晴啓著 講談社刊)

いささか痛烈なタイトルですが、“預金バカ”とは言葉のとおり、馬鹿の一つ覚えよろしく、ひたすらお金を銀行預金で抱え込んで、それで不安を解消しようという人達のことです。

僕は毎週末、全国で長期投資の考え方について講演して回っていますが、どこへ行っても必ず、“投資は怖い”、“投資はリスクがあるから嫌だ”、“投資で元本を減らしたくない”といった人たちにたくさん遭遇します。

その人たちは決まって、「だから私は地元の○○銀行に預金していれば、元本は減らないし安心」と言います。大変申し訳ないのですが、こういう人達を僕は“預金バカ”と定義しています。

時代に合わせて常識を変えよ!

「預金は正義」の常識が決して間違っていたわけではありません。20世紀の高度経済成長時代においては、預金は確かに正しい行為だったと思います。

ところが1990年代をピークに、日本経済は成長が止まってしまいました。そこからこの国は、デフレという経済の病気に冒されていくわけですが、この時期を節目に、日本は高度成長経済から成熟経済へと、抜本的な構造転換を余儀なくされたのです。

日本全体が成熟社会へと、社会構造のみならず考え方や価値観の転換をも怠ったままで今に至ったために、変わるべき様々な常識もそのまま温存されてしまったのです。

その代表的なものが、「預金は正義」の常識であり、とりわけ2012年11月にアベノミクスにより大構造転換が始まった時から、明白にこの常識は非常識へと、オセロゲームのようにひっくり返ったと僕は考えています。

この大転換の意味をしっかり理解して、まずは「脱“預金バカ”のすすめ」という観点からウーマンオンライン読者の皆さんに、お金に対する新たな気付きと、負け組にならないための行動規範をこれから具体的にお伝えしていきます。

次回は、なぜ私たちは「預金は正義」と教わってきたのかを日本経済の歴史を遡って紐解いていきたいと思います。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。