この秋、あなたの家に、「マイナンバー」を記した通知が届くことをご存知ですか?
マイナンバー(社会保障・税番号)とは、日本に住む人全員に割り当てられる12ケタの番号のこと。赤ちゃんからお年寄りまで、国籍に関係なく、住民票のあるすべての人に番号がつきます。この番号は原則として一生変わらず、亡くなった人の番号はもう使いません。いわば「一生モノ」の番号というわけ。
なんだか人生を番号で管理されるみたいでイヤ~な感じもしますが、マイナンバー導入の目的は「行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現すること」(内閣官房HPより)だそう。利用目的は「社会保障」「税」「災害対策」の3分野に限る、とされています。
今、一人ひとりの情報は、住所や家族については自治体、年金は日本年金機構、健康保険は健康保険組合、といったように各機関が別々に管理しています。これを共通する番号で結びつければ、事務の効率がアップしてサービスの向上が図れます。また、共通番号を使って一人ひとりの所得をもっと正確に把握すれば、税金逃れを防げるし、社会保障の不正受給対策にもなる、ということです。
マイナンバーについて定めた「マイナンバー法」は2013年5月に成立しました。今年10月から一人ひとりへマイナンバーの通知が始まり、来年1月から年金、雇用保険、健康保険の手続きや生活保護、児童手当などの給付申請手続き、確定申告など税金の手続きといった場面で、マイナンバーの記載が必要になります。
また、来年1月から、希望者に身分証としても使える「個人番号カード」が交付されます。2017年1月からは各行政機関が管理するデータの共有化がスタート。同じ時期に、ネット上で自分専用のページ「マイナポータル」が開設可能になり、自宅のパソコンで自分の情報を確認したり利用したりできるようになる予定です。
会社員はマイナンバーを勤務先に提出する
会社員の場合、社会保険や税の手続きを会社が代行していることはご存知ですね。マイナンバー制度が始まれば、会社はこうした手続きの際、書類に社員のマイナンバーを記載することになります。このため、会社員は勤務先から「通知されたマイナンバーを提出してください」という指示があるはず。このときは、自分自身のマイナンバーと共に、扶養している家族のマイナンバーを提出します。
このほか、株や投資信託に投資していたり、生命保険の保険金を受け取るといったときは、税務署への提出書類に記載するため、金融機関からマイナンバーの提出を求められる場合があります。また、原稿を書いたり講演をしたりして報酬から源泉徴収を受ける場合も、支払元からマイナンバーの提出を求められることになりそうです。
マイナンバーは、住民票のある市区町村から各世帯に簡易書留で届きます。だから、住民票と住んでいる場所が違っている人は注意が必要。いずれにしても、「なんだかわからないから捨てちゃった」「どこにしまったかわからない」といったことのないよう、10月以降は気をつけておきましょう。
児童手当や年金の手続きが簡単になることも
さて、ここまでマイナンバーの概要を説明しましたが、「なんだかピンとこない」という人が多いのでは? そこで、実際にマイナンバーが使われるようになったら、どんなシーンでどんなことが起きるのか考えてみましょう。
まずは社会保障から。たとえば、児童手当を受け取る場合、児童手当には所得制限があるため、毎年6月に現況届けを提出します。もし引っ越して1月1日の住所地と6月1日の住所地が違うときは、元の住所地から所得証明書を取り寄せて添付しなければなりません。マイナンバーが使えるようになれば、自治体同士で連絡を取り合えるので、所得証明書の添付が不要になります。
このほか、高額療養費制度の申請や厚生年金の受給手続きなどでも、提出書類が少なくなることが考えられます。とはいえ、日常生活で、そう頻繁に起きることではなさそう。
税金の申告漏れは今まで以上に要注意
では、税金面ではどうでしょう?
まず、確定申告が簡単になる場合があります。たとえば「医療費控除」を受けるときは医療費の領収書を提出しなければなりませんが、自分専用のサイト「マイナポータル」を使って健康保険のデータを税務署に提出すれば、医療機関の領収書の提出が不要になることが考えられます。といっても、薬局で買った薬や交通費については領収書などの提出が必要なので、それほど楽にはならないような気もしますね。
一方、税金を徴収する側のメリットはかなり大きくなりそうです。たとえば、税務署ではこんなことになるのかもしれません。以下、勝手な想像ですが……
「○○町のマイナンバー×××××の△△さん、会社員で確定申告してないけれど、配当金をずいぶん受け取っているね。このナンバーで検索かけてみようか……おや、ほかにも株の売却益があるし、生命保険の満期金もあるようだな。それに、セミナーをして講演料も受け取っているね。この人について、もう少し調べてみようか」
実は、株の利益や生命保険の満期金、それにセミナーの講演料については、多くの場合、現在も税務署に支払調書などの法定調書が提出されています。でも現状では、税務署は届いた膨大な数の法定調書を住所や名前を手がかりに仕分けするので、全員分を正確に把握するのは困難なはず。もしマイナンバーも含めた情報をデータベース化すれば、一人ひとりの収入を簡単に一覧できて、申告漏れを見つけやすくなるはずです(もっとも、法定調書の提出されない収入は今までと同じですが)。
収入が給料だけの会社員は何も問題ありませんが、副収入がある人は、税金の払い漏れがないよう、これまで以上に注意が必要になりそうです。
金融資産がガラス張りになる可能性も
マイナンバー制度の利用範囲は今後、さらに広がっていくことが考えられます。
この6月初め、マイナンバー法は改正案が成立する目前でした。その内容は、「金融機関の預金口座もマイナンバーの対象とする」というもの。ところが、そこに日本年金機構のデータ漏洩事件が起きて、改正案の成立は当面、先送りになっています。
でも、今回は先送りになったものの、いずれは預金口座もマイナンバーの対象になるように思います。それは、一人ひとりの資産を簡単に把握できるようになれば、行政側にとって、活用範囲は格段に広がるからです。
たとえば相続税の場合。亡くなった人の預金口座が簡単に一覧できたら、「この人は相続税がかかりそう」ということがすぐにわかります。また、収入のない人の預金残高が急に増えていたら、「贈与を受けたのでは?」とチェックできるかもしれません。実は、こうした預金情報については、現在でも税務署は調べることが可能です。でも、マイナンバーを使えれば、効率はずっとアップするはずです。
さらに、資産と社会保障を結びつけることも簡単になります。たとえば、介護保険施設を利用する際、所得が少ない人は負担が軽減されますが、今年からは資産が一定以下であることも条件に加わりました。今は通帳のコピーなどの提出を求めていますが、マイナンバーで資産が把握できれば、調査はもっと容易になるでしょう。
こうした動きは、今後ももっと増えるかもしれません。思いつくままに挙げてみれば、「一定以上の資産がある人には社会保険料をたくさん払ってもらう」「一定以上の資産がある人は年金額を減らす」「一定以上の資産がある人は税金を増やす」などなど。あくまで想像にすぎませんが……。
また、ICチップのついた「個人カード」の利用範囲を広げる動きもあります。たとえば、健康保険証や運転免許証を兼用したり、クレジットカードの機能をつけたり、カードだけで住所変更も可能にして電力・ガス会社と結びつけたりと、民間利用も含めてさまざまな利用法が検討されているようです。
利用範囲が増えるほどデータ流出のリスクが高まる
マイナンバーがこれほど重要な個人情報とつながっているなら、怖いのは情報漏れ。たとえば、マイナンバーが知られるだけですべての情報が筒抜けになったりしないのでしょうか?
内閣官房の説明によれば、マイナンバーは各行政機関等や自治体が、法律で定められた行政手続きを行うときだけしか使えないとのこと。たとえば勤務先にマイナンバーを教えても、勤務先は書類に記載するだけで、個人情報にアクセスすることはできません。また、これまで各機関が管理していたデータを必要に応じて利用する「分散管理」のしくみになっているとのこと。共通のデータベースを作るわけではないので、個人情報がまとめて漏れることはないそうです。
とはいえ、日本年金機構のデータ管理のずさんさが明らかになったばかりです。どんな形でデータ流出が起きるか、そのときどんなデメリットがあるか、想像のつかないところがあります。
民間利用も含め、マイナンバーの利用範囲が広まれば広まるほど、データ流出や悪用の可能性もどんどん高まっていくはずです。今後はそんなことも頭に入れて、マイナンバーとつきあっていくことにしましょう。
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。