人と人とが集まる場所にはトラブルがつきもの。職場だって例外ではありません。これってどうなの!? と思いつつ、誰に聞けばいいかわからないモヤモヤやイライラの種。そんな職場の“あるある”な問題について、会社勤め女子代表の働なの代(どう・なのよ)が弁護士と一緒に考えます。
[質問]業務時間中には、職務に専念しなければいけないという義務がありますが、たばこ休憩などで席を外し、なかなか戻ってこないという人もいますよね。たばこを吸わない人からすれば業務時間内なのにズルい! と感じる場合もあるかと思います。そもそも業務時間中に行っていても労働時間として扱われる範囲とはどの程度なのでしょう。下記の選択肢の中に、実労働時間として実際に扱われた判例があります。それは一体どれでしょう!?
Q 業務時間中に……
1. ビールを飲んでいた
2. 眠くて寝ていた
3. テレビを見ていた
4. 入浴していた
A 全て労働時間として扱われる
<解説>
【岩沙】初めまして。アディーレ法律事務所弁護士の岩沙好幸です。事務所では不当解雇や未払い残業代など主に労働トラブルを担当しています。
【なの代(以下、なの)】先生~! 今回から始まります「職場のあるある! リーガル相談」、よろしくお願いします。私達迷える子羊に、法律についていろいろと教えてくださいね。
【岩沙】お任せください。できるだけ分かりやすく説明していきたいと思います。こちらこそよろしくお願いします。
【なの】それにしても、今回の質問の答えってA、B、C、D全部実労働時間として扱われたんですか? 意外過ぎます! 特に入浴していたって驚きです。
【岩沙】職場にシャワールームがあったんでしょうかね。
【なの】ということは……結構何でも許されちゃうんですね。
【岩沙】いえいえ、もちろん全部が全部、実労働時間として扱われるわけではないですよ。今回の場合、労働者がA~Dの行為をしていた日時を、会社がきっちり特定して、タイムカードと実労働時間が違う! と証明することができれば、労働時間と扱わないこともできたのですが。会社は日時を特定できなかったので、労働時間と扱われたんですね。
【なの】なるほど。証明できないとダメってことですね。でも、いつ寝ていたかとか、いつ入浴していたかなんて、どうやって証明できるんですか?
【岩沙】他の従業員の目撃証言や記録や監視カメラなどですね。例えば「B. 眠くて寝ていた」のケースでいうと「何月何日の何時から何時まで仕事をさぼって寝ていた」と特定できていれば、実労働時間にはならず、給料カットや職務専念義務違反で懲戒もありえたでしょうね。
【なの】会社側も何か根拠があって訴えたと思いますけど、その証拠が弱かったってことですかねぇ。
【岩沙】そうですね。でも、その他にも労働時間と扱われる要素があってこの判決に至ったと思いますので、くれぐれもまねはしないようにしてくださいね(笑)
スタンバイ状態なら「休憩」ではない!?
【なの】そういえば、質問の冒頭にもありましたけど、業務中にたばこ休憩に行く人っているじゃないですか。休憩に行ったきり、全く戻って来ない人とか! 私はたばこを吸わないので基本的には昼しか休憩は取ってないんですけど、たばこを吸う人たちはそのたばこ休憩中も休んでいるわけですよね? 同じ労働時間なのに納得がいかないんですけど……法的にはどうなんですか?
【岩沙】たばこを吸わない人からの納得できないという声は、よく聞きますよね。でも少し難しい問題で、グレーな部分もあるんですよ。
【なの】どういうことですか?
【岩沙】実は、仕事中のたばこ休憩を労働時間と判断した判例もあるんです。
【なの】えっ! どんな場合ですか?
【岩沙】その判例では、一斉に休憩がとれない飲食店の従業員が、規定の1時間の休憩もちゃんと取れない中で、店舗内の更衣室兼倉庫で喫煙していたというケースで、喫煙中でもすぐに仕事に戻れる状況だったという事情もあり、たばこ休憩=労働時間と扱われました。
【なの】でも、通常の1時間休憩も取れていない人の話ですよね? それなら仕方ない気もします。
【岩沙】また法的には、例えば電話待ちのように、仕事をしなければならなくなったら、すぐに仕事にとりかかれる状態で休んでいる時間は「手待時間(てまちじかん)」と呼ばれ、「休憩」ではないとされているんです。
【なの】へぇ! 初めて聞きました。
【岩沙】このような特殊な状況での判断なので、一律にたばこ休憩=労働時間とはいえず、ケースバイケースの判断にはなると思います。休憩が満足に取れないような会社で、デスク近くの喫煙所で1日数分のたばこ休憩を数回とっていたにすぎなければ、労働時間として扱われる可能性はありますね。
義務違反で懲戒の可能性も!
【なの】でも! しっかり1時間の休憩が取れているのに、何度もたばこ休憩に行くのは許せません!
【岩沙】ちゃんと規定の休憩時間が取れているのなら、たばこの回数が多すぎるとか、たばこに行くと長時間戻ってこなくて仕事に影響しているとかいう場合、いつどのくらいの時間、たばこ休憩に行っていたなど証明できるものがあれば、たばこ休憩は労働時間とはいえず、遅れた分の残業代が出なかったり、業務中は職務に専念しなければいけないという義務違反で懲戒を受けたりすることもあるでしょうね。
【なの】そうですよね!
【岩沙】ただ、現実的には、社員全員のたばこ休憩の時間をきっちり記録することは難しいですよね。受動喫煙防止の意味でも、会社として、規定の休憩を社員にきっちり取らせて、さらに就業規則などで勤務時間中の喫煙を制限するルールをつくるなど、たばこを吸う人も吸わない人も気持ちよく働ける職場をつくっていきたいものですね。
【なの】ちなみに、先生はたばこを吸わないんですよね?
【岩沙】実は……喫煙者です(笑)先程から少し心苦しい気持ちでいました。
【なの】えっ!? それは失礼しました(汗)
【岩沙】いえ、でも適度な喫煙を心がけていますよ! 吸い過ぎは体にもよくないですからね。
【なの】お体は大切にしてくださいね。岩沙先生、ありがとうございました。
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払い などのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』(http://ameblo.jp/yoshiyuki-iwasa/)も更新中。
【文・監修】アディーレ法律事務所(http://www.adire-roudou.jp/)