人生を旅ととらえれば前向きに挑戦できる

ビッグ4を自分の中の経営陣とすると、その経営陣の職務を監査する役にあたるものが必要です。その監査役を私はトランスフォーマー(変革者)と呼びますが、その中に3つの要素があります。

原題『Winning From Within』。人間の内面には4つの人格があり、その特徴と役割を熟知することで自分を改革できるというフォックスさんの研究成果をわかりやすく伝える。講談社刊。

ひとつは【旅人】の面です。人生を【旅】としてとらえ、人生を通じて成長し、学び続けるということです。

人はよく特定の目的を達成することと、豊かな意義ある人生を生きることを混乱します。目的を達成した後、何をしたらいいかわからなくなる人は、人生を旅としてとらえていないのです。ある特定の目的を達成するかしないかを人生の尺度にすると、多くの点で不幸になるリスクが非常に高くなります。

しかし、人生を【旅】として考えると、どれほど苦痛を伴う経験をしてもそれは【人生の1つの章】としてとらえることができ、失敗しても次のステップに進むことができるのです。この生き方の方がはるかに健全な生き方です。仕事で行き詰まり、結婚生活もうまくいかないとなると絶望的になってしまいますが、それを絶望ととらえずに、次のステップに進むための試練だと考えるのです。

私自身、結婚相手がオランダ人であったために、ボストンとオランダの二重生活を強いられました。オランダでの生活はボストンでの生活とあまりにも違ったので、最初はイライラすることが多かった。でもオランダ人が間違っているのではありません。何が正しいとか間違っているとかいう見方をしてはいけません。いやな経験をしたら、それを異なるものとして受け入れ、その違いから学ぶようにするのです。

今あなたにとって最も重要なことは?

アメリカでもキャリアをまっしぐらに進んできた女性が突然辞めることはよく見られます。それにはトランスフォーマーの、あと2つの要素が関係しています。1つは【見張り】で、もう1つは【船長】です。【見張り】は自分に何が起きているかを注視する役割をします。たとえば、自分がイライラしていることに気づいたときに、それを無視しないで自分にメッセージを送ります。そのメッセージを無視すると、限界を超えて突然辞めてしまうということになります。

Erica Ariel Fox(エリカ・アリエル・フォックス)
プリンストン大学を経て、ハーバードロースクール修了。現在、ハーバードロースクールで交渉学の教壇に立つ。また、McKinsey Leadership Developmentのシニア・アドバイザーとしても活躍中。

多くの女性はそういう警告を無視して、自分をさらにプッシュしてしまうことが多いですが、そうすると片頭痛が生じていずれ爆発します。ここで重要な役割を果たすのが【船長】です。【船長】の役割は、ビッグ4のコーディネーター役で、全体像を把握して、次に取るべき行動を決断することです。

私は経営陣を対象にしたセミナーを時折開催し、そこで【船長探し】の作業を行いますが、セミナーに参加した経営者は船長を見つけたときに「もう1人」の自分が存在することに気づかされることが多いのです。

誰でも自分の中に必ず【船長】がいます。ビッグ4が大声で話しかけてきても、彼らと少し距離を置く訓練をしてください。するとそこに静かに立っている船長の姿を見ることができるでしょう。船長は全体像を俯ふ瞰かんしながら、リラックスした状態で決断します。人生は楽しむためにあるのであって、決して恐怖を感じたり、疲労したりするためにあるのではありません。

ビッグ4のバランスをとることや船長を見つけることは一見難しいように見えますが、日々の生活の中での意識の問題です。重要なことはほかの選択肢がなくて身動きがとれないと感じるのではなく、全体像の中でいま最も重要なことは何かを自問することです。これは非常に欧米的な考え方に聞こえるかもしれませんが、最終的には日本の働く女性が自分を見失わないで生きていくベストの方法であると確信します。