世間には投資を勧めるムードがいっぱい

「お金関係のライターをしています」と言うと、最近、よく聞かれることがあります。

「やっぱり投資ってしたほうがいいの?」

銀行預金はあいかわらずの超低金利。一方、テレビでは毎日のように株価上昇のニュースが流れるし、銀行に行けば投資信託のポスターがいっぱい。また、新聞や雑誌では「投資しないと老後資金が足りなくなる」といった記事を見かけることもあるでしょう。こうなると、なんだか投資しないといけないような気分になるのも無理はないかもしれません。

でも、簡単に「投資したほうがいいですよ」と答えることはできません。それはもちろん、投資にはリスクがあるから。たとえ預金をたくさん持っていても、投資していい人もいれば、投資しないほうがいい人もいるのです。

今回は、投資しようかどうか迷っている人のために、まず知っておきたい投資の超基本を説明しましょう。

銀行預金と投資はどこが違う?

「今、預金ではほとんど利息がつきませんからね。もっと殖やせる投資信託はどうでしょう?」

最近は、銀行でも投資商品を扱っていて、こんなセリフをよく聞くようになりました。では、銀行預金と投資はどう違うのでしょうか。

銀行預金は「預けるお金」と書くものの、預けるというより「銀行へお金を貸す」と考えればいいでしょう。私たちは銀行と、「お金を貸すから、決まった利息をつけて返してね」と約束をするのです。だから、お金は必ず一定の利息がついて戻ってきます。このため、銀行預金は「元本保証」といわれます。(もし銀行が潰れても、「元本1000万円+その利息」は預金保険から支払われます)。

一方、投資は「利益を得るために資金を投じる」こと。お金を「預ける」のでも「貸す」のでもなく、お金を払って株や外貨、不動産といった“値段が上下する商品”を「買う」という形です。お金を使いたいときは、買った商品を売って、お金に換えなくてはなりません。いくらで売れるかは状況次第で、利益が出ることもあれば損することもあります。このように、結果がどうなるかわからないのが「投資リスク」というものです。

利息はほとんどつかないけれど、元本保証があって、いつでもお金を使えるのが銀行預金。大きな利益が出ることがあっても大きく損することもあり、売らないとお金を使えないのが投資。一口で金融商品といっても、2つはまったく別物です。

だから、単純に「銀行預金より投資のほうがトク」と考えるのは間違い。まったく違うものの損得を同列に比較することはできません。それぞれの特性を知った上で、それに合った使い方をするべきなのです。

投資していいお金、投資してはいけないお金

たとえば、夫と合わせて1000万円の貯金がある裕子さん(35歳)の場合で考えてみましょう。1000万円のうち600万円は数年以内にマイホームを買うための資金で、200万円は将来、子どもの教育資金にする予定です。

「マイホームを探している間、投資してお金を増やしてはどうかしら?」

投資して資金が増えたら、予定より広いマイホームを買いたい――そう夢見る裕子さん。でも、マイホーム資金を投資するのはNG! もし気に入った家が見つかったときに資金が減っていたら、買えるはずだった家が買えなくなってしまうかも。使う予定のあるお金は投資せず、預金で確保しておくのが資産運用の原則です。

では、もう200万円も貯まっている教育資金はどうでしょう? 教育資金は絶対に減らしてはいけないお金。たとえ使う予定が10年以上先でも、投資はNGです。

となると、残りの200万円は投資していいでしょうか? いえいえ、それも考えもの。家族の生活で予定外にお金が必要になるときに備えて、生活費3~6カ月分は「生活予備費」として、いつでも使えるようにしておきたいところです。もし生活費が毎月30万円なら、6カ月分だと180万円。つまり、裕子さんの家庭で投資していいお金は、200万円から180万円を引いた20万円程度ということです。

30~40代の家庭では、目の前で必要なお金が次々と出てきます。このため、投資できるお金は少ないのが普通。でも、将来のことを考えれば、マイホーム資金や教育資金のほかに老後資金だって貯めなくてはなりません。使うのが何十年も先になる老後資金は、貯金のほかに投資も取り入れ、時間をかけて大きく殖やすことを考えたいお金です。

老後資金を本格的に貯めるのは、教育費のヤマ場が過ぎてから。今は可能な範囲で投資して、投資経験を積んでみてはどうでしょう。また、毎月の積立貯金のうち一部を投資商品にして少しずつ老後資金を貯めるのも、おすすめの方法です。

必要のない投資はしなくていい

一方、独身で専門職として働く明日香さん(38歳)の場合。貯金額は裕子さんと同じ1000万円、いずれは親の家をもらうのでマイホームを買う予定なし。結婚するつもりはあまりなく、将来の老後資金が気になりだしたところです。

そんな明日香さんの場合なら、預金のうちかなりの部分を投資しても大丈夫。老後資金を増やすなら、1000万円のうち半分の500万円ぐらいまでなら投資してもいいでしょう。もし今後10年間投資した結果、年平均利回りが3%だったとすれば、500万円は約670万円になっている計算です。万一、投資に失敗して投資額がゼロになってしまったとしても、現在38歳の明日香さんなら、それから頑張って挽回する時間があります。

とはいえ、38歳で1000万円ものお金を貯めた明日香さんなら、投資する必要は特にないかも。それだけ貯める力があれば、投資しなくても60歳までに3000万円以上の貯金ができそうです。専門職の明日香さんなら、60歳以降も十分に働けるし、老後の住まいも心配ありません。老後資金に十分な余裕があるなら、あえてリスクをとる必要はないでしょう。

投資は趣味か実用か

ハマる人はどっぷりとハマってしまうのが投資の世界。あなたの回りにも、仕事そっちのけで投資に夢中の人はいませんか?

値上がり、値下がりがつきものの投資には、多かれ少なかれギャンブルの要素が含まれていると思います。そんな魔力にとらわれて、信用も財産もなくしてしまった人をこれまでたくさん見てきました。だからこそ、みなさんには投資と上手につきあってほしいと思うのです。

仕事そっちのけでデイトレードに励むのはただのギャンブル。それで仕事を失ったら何にもなりません。ギャンブルがダメとは言いませんが、あくまで趣味と割り切って、おこづかいの範囲で楽しむべき。

一方、将来、必要になる資金を殖やすための投資なら、ある程度は勉強もしなくてはいけないし、タイムリーな行動や、こまめな管理も欠かせません。こうした投資は楽しむのが目的ではなく、生活するために必要な家事のようなものでしょう。

投資を経験することで、社会や経済への関心が深まり、新しい世界が広がるということもあります。

ただ、「値段が下がったらドキドキして何も手につかない」「お金が減るのは絶対にイヤ」という人は、無理に投資することはありません。その分、仕事に力を入れて、収入を増やしたほうがずっといいと思います。

無理してお金を殖やすより、少ないお金で楽しく暮らす方法を考えてもいいのです。少なくとも、周囲のムードに乗せられたり、金融機関で勧められるままに投資するのはやめておきましょう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。