本を読んでも、いつの間にか内容を忘れてしまってはもったいない。「やり方さえわかれば、『記憶に残る深い読書』は誰にでもできる」と言う樺沢紫苑さんに、人生がうまく回りだす読書術を教わった。
私の本業は精神科医ですが、年に約3冊の本を書き、講演活動も行っています。そのうえで月に20~30冊の本を読む生活を約30年間続けています。こう言うと「ただの速読家ではないか」と思う人もいるでしょうが、私は速読や多読よりも「深読(しんどく)」が大切だと思っています。
「深読」とは、本から学びや気づきを得て、自分の成長の糧にする読み方のことです。
しかし、時間をかけてじっくり本を読むこと=「深読」ではありません。内容を記憶し、人と議論できるくらいまで理解して、自分の生活に生かす。そこまで本を深く読み込むには、ちょっとしたコツが必要です。
私は精神科医として心理カウンセリングをしています。話をじっくり聞くと相手は満足しますが、本人が行動を変えない限り、問題は解決されません。読書も同じで、読んで満足するだけでは意味がありません。記憶に残る「深読」をし、本から得た知恵を活用し、現状を好転させるのが理想です。
そのためにやるべきことは3つあります。1つ目は「本選び」。自分と相性のいい本をいかに選ぶかを意識します。2つ目は「読み方」。インプットの方法を工夫して効率をあげます。そして3つ目。記憶の補強につながる「アウトプット」を実行します。この3つがそろって初めて、自分の血肉になる読書が可能になるのです。
本選びのポイント
読み終わって「大したことなかった」と思えば、内容をすぐに忘れてしまうのは当然のこと。でも果たしてそれは本のせいだろうか? 買って良かったと思える本に出合う方法とは。
▼自分のステージに合わせて選ぶ
何度も読み返したくなるほど心動かされる本を、私は「ホームラン本」と呼んでいます。ホームラン本に出合うと脳が大いに刺激され、それだけ記憶に残りやすくなります。
たくさん読んでいるのに、なかなかホームラン本に出合わない人は、本選びを間違えている可能性があります。「何かを学びたい」と思って本を読むなら、自分が今、学びのステージのどの地点にいるのかを知る必要があります。
実は初心者ほど、上級者向けの本を手にとってしまいがちです。しかし、基本的な知識もない人が上級のテクニックを知ったところで活用できるはずがありません。これはスポーツや絵を描くことと同様です。難しい内容に触れると、そのときは満足するものの、使えない知識なので、すぐ忘れてしまいます。身に覚えのある人は、買う前に目次をじっくり見ましょう。目次に並ぶ単語の意味がほとんどわからないなら、その本はあなたのステージに合いません。無理をせず、初心者向けの本で基本を頭に入れてから、次のレベルの本に移ります。そうすれば内容がスラスラと頭に入ってくるはずです。
▼SNSで友達の読書をチェック
SNSを利用すると、ホームラン本に出合う確率が非常に高くなると思います。なぜなら、SNS上には自分の友達がたくさんいるからです。友達なら、関心や趣味、好み、考え方に共通点がある場合が多く、その人の学びのステージが初級なのか上級なのかも、普段の発言からなんとなく判断できると思います。
このように、バックグラウンドを知っている人がFacebookのニュースフィードなどで「これは面白い!」と書いている本は、あなたにとって必要だったり、役に立つ場合が多いのです。
また、プロの読書家である書評家の意見を参考にするのもよい方法です。インターネット上には多くの書評サイトや書評ブログがありますので、その中から信頼できる人を見つけて、定期的にチェックするのです。
ただし、本を読む目的は、人によって異なります。誰かのおすすめ本が自分にとって必要かどうかを見極めるコツは、「なぜ、その人がその本を推薦しているか」に注目することです。理由を読んで強くひかれるなら、その本はホームラン本になる可能性が高いといえるでしょう。
▼ベストセラーに惑わされない
先ほどは「友達がすすめる本を参考にしよう」と言いましたが、多くの人が読んでいるベストセラーについてはどうでしょう。私の答えは、「ベストセラーだからといって、必ずしも読む必要はない」です。時流をとらえたいという明確な目的があるなら読んでもかまいませんし、「周囲の人に一目置かれたい」と思うなら、話題になっている本に目を通すのもありかと思います。相手もそれを読んでいた場合、大いに話がはずみますから、コミュニケーションツールとしては有効です。
しかし、単に「大勢の人が読んでいるから」という理由だけで手を出すのはおすすめしません。
トマ・ピケティの『21世紀の資本』などがよい例ですが、自分の学びのステージに合わず、「流行っているけれど自分には読みこなせなかった」となってしまったら、時間とお金のムダになります。そんな間違いをおかさないよう、あくまでも本を買う基準は「自分がほんとうに読みたいかどうか」に置くべきです。「みんなと同じことをしなければ」と強迫観念にかられて読むような本は、ストレスの種にしかなりません。
札幌医科大学医学部卒業。15万部以上配信のメルマガやSNSを駆使し精神医学や心理学の知識を日々発信。著書に『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)など。過去20年間の読書数は6000冊以上。