医療費の負担額には上限がある
いきなりですが、問題です。
真由子さんが病気で1カ月入院し、医療費が100万円かかりました。もちろん真由子さんは健康保険に加入しており、医療費の自己負担は3割。では、真由子さんが負担するのはいくらでしょうか。
100万円の3割だから30万円……。と答えた人は間違い。正解は8万7430円です。
なぜだか分かりますか?
健康保険から、「高額療養費」という給付があるからです。
「高額療養費」とは、1カ月に自己負担する医療費の上限を定め、それを超えた分が給付されるというもの。上限額は年齢(70歳未満か70歳以上か)と年収によって決められており、70歳未満・年収約370万円~約770万円の人では約9万円です。
真由子さんの年収は500万円なので、1カ月の医療費自己負担分は約9万円。約9万円を超えた分は健康保険から給付されるため、真由子さんは約9万円負担すればいいのです。100万円かかっても、自己負担は約9万円で済むのです。
すごくいい制度ですよね。
自己負担の上限額は70歳未満の人は5段階、70歳以上では4段階に分かれており、表のようになっています。今年1月から一部の人については上限額が変更されていますので、高額療養費のことは知っている、という方も、表をチェックしてみてください。
手続きすれば支払いも上限額まで
高額療養費を受けるには、原則的には加入する健康保険(勤務先の健康保険組合や国民健康保険なら自治体など)に申請する必要があります。いったん病院などの窓口で3割負担の分を支払い、申請後に上限額を超えた分が戻ってくる仕組みです。戻ってくるまでに短くても3カ月程度かかります。
真由子さんのケースでいえば、いったんは33万円を払うことになりますから、その分を用意しなければなりません。
そこで知っておきたいのが、「限度額適用の認定証」です。
入院の際、加入する健康保険の窓口で限度額認定証を発行してもらい、それを入院先の病院などに提出しておきます。すると、病院は上限額が超える分を健康保険に直接請求してくれて、患者に請求するのは自己負担の上限額まで。つまり、窓口で上限額まで払えばOKなのです。
高額を立て替える必要もないし、申請の手続きもしなくて済むので、とっても助かります。
入院が決まったら、加入する保険に問合せて先に手続きしておきましょう。家族が申請できる場合もありますから、突然の入院でも、まずは確認です。
なお、70歳以上の人では認定証の必要がなく、自動的に窓口での支払いが上限額までにとどめられます。
また医療費の支払いが難しい場合には、無利息の「高額療養費貸付制度」を利用できる場合があります。利用できるかどうかや金額などは加入している健康保険の窓口で確認してください。
差額ベッド代や先進医療は別途負担
では、ここからは注意点をまとめます。
まず1点目は、高額療養費で給付されるのは健康保険がきくものだけ、ということ。
入院時、本人の希望で個室などに入った場合には、差額ベッド代がかかりますが、これは健康保険がききません。
先進医療にかかる費用は健康保険が使えず、高額療養費の対象になりません。
また食事負担も対象外です。ちなみに入院中の食事負担は1食260円で、3食なら780円。入院していなくてもかかるお金ですから、それほど問題ではないですよね。
真由子さんのケースでは差額ベッドを利用せず、先進医療も受けていないので、約9万円の医療費のほかに、食事代を別途支払うことになります。
2点目は、期間について。
高額療養費でいうところの「1カ月」とは、5月1日から5月31日など、その月の1日から月末までのことであり、5月15日から6月14日までの1カ月、という考え方はしません。
真由子さんは5月10日から5月31日までの入院でしたが、もしも5月20日から6月10日までの入院だったら、5月にも上限額の約9万円、6月にも上限額の約9万円を負担することになりそうです。
これは大きな違いですが、制度上、そういう決まりなので仕方ないですね。
プラスαの制度も知っておこう
先進医療を受ける場合などを除けば、高額療養費のおかげで莫大な医療費がかかるという状況を回避できますが、それでも、ちょっと心配なのは、上限額に達する月が何回もある、といったケースです。
真由子さんは1度の入院で済みそうですが、病気によっては入退院を繰り返す、また家族それぞれが病気になる、ということも考えられます。上限があるとはいえ、月約9万円の医療費負担が何度もあったら、大変ですよね。
その場合に利用できるのが、「多数回該当」や「世帯合算」です。
「多数回該当」とは、直近12カ月の間に3回以上、高額療養費の対象になった場合、4回目からは限度額が下がるというもの。真由子さんの年収(約370万円~約770万円)では自己負担の上限は約9万円ですが、4回目からは4万4400円に下がります。
「世帯合算」は、家族の医療費を合算して、合計額が自己負担の上限額を超えたら高額療養費を給付しますよ、というものです。
仮に真由子さんがシングルマザーだったとして、真由子さんに7万円、子どもに5万円の医療費がかかったとすると、それぞれの単独では上限に届きませんが、合計すれば12万円になるため、約3万円が戻ってきます。
もちろん、真由子さん自身が内科で7万円、外科で3万円など、複数の医療機関などを受診した場合も、合算できます。
ただし、合算できるのは同じ医療保険に加入している人のみ。共働きで、夫と妻で別々の健康保険に加入している場合などは合算できません。また70歳未満の場合、合算できるのは2万1000円以上の自己負担分のみで、それ以下の自己負担分は合算不可です。
高額療養費があるのに医療保険が必要?
このほか、勤務先で加入している健康保険によっては、「高額療養費付加給付」があり、自己負担は1万円までなど、高額療養費にプラスして独自の給付を行っているケースがあります。
民間の医療保険に入っている人は、「医療費が何十万円もかかったら大変だから」と考えていると思います。しかし、差額ベッド代や先進医療を除けば、一度に何十万円もの自己負担が発生することはないのです。本当に医療保険が必要か、考えてみたいですね。
最後に。高額療養費は診察を受けた月の翌月の初日から2年間が時効。逆にいえば、おおよそ過去2年前の分は請求が可能です。
請求漏れはありませんか?
1989年よりライターとして活動。資産形成、投資信託、住宅ローン、保険、経済学などが主な執筆テーマ。