「単身赴任でもしない限り無理」

この2月、認可保育園(保育所)の4月入園の選考(利用調整)の結果を発表がありました。各地からの声は悲喜こもごも。

再開発の影響でタワーマンションが続々と建設されている川崎市中原区のTさんは、昨年、認可保育園の0歳児クラスの4月入園の選考に落ち、その後、育休が満了して認可外に預けて復帰しました。今年も認可保育園の1歳児クラスの4月入園に再挑戦しましたが、あえなく「不承諾」となりました。

今年は、認可外在籍の加点(※)をもらって、少しは可能性が大きくなるのかと期待していたのですが歯が立たず、区役所に今後の可能性を問い合わせると、「夫婦のどちらかが転勤でもしない限り、認可保育園への入園はほぼ無理」と言われたと言います。

現在通っている認可外保育施設はアットホームなところが気に入っていますが、小さなテラスがあるだけで外の公園へのお散歩もなく、就学前まで通うことは考えられません。八方ふさがりの状況ですが、Tさんは「嘆いてばかりいられない」と、範囲を広げて保活を続ける決意を伝えてくれました。

※認可保育園の入園選考(利用調整)は保護者の就労時間などで決まる基準指数(就労時間が長いほど高い)と家庭の事情などを勘案する調整指数の合計点で優先順位が決められる。ひとり親・単身赴任など生活状況が厳しい場合、認可外保育施設で待機している場合、希望園にきょうだいが在園している場合などなどの場合は調整指数で加点される(詳細は自治体によって異なる)。

自治体は情報を公開してほしい

再開発計画は長い年月をかけて進められるはずです。再開発計画の中に認可保育園の整備を盛り込めなかったのか、悔やまれます。とにかく一刻も早い整備をしてもらわねばなりませんが、間に合わないとわかったら、自治体は「現在、入りにくい」ことを知らせてほしいと思います。家を買ってしまってからわかったのでは、被害甚大なのです。

保育園を考える親の会の「100都市保育力充実度チェック」(http://www.eqg.org/oyanokai/book_check.html)調査では、新規入園申請数と新規入園決定数から入園決定率(認可保育園の入園申請をした人のうち何パーセント入れたか)を算出しており、2014年度の回答70市区の平均は約7割でした。川崎市はこれらの数値を非公表としているため算出できませんが、情報を総合的に判断して5割を切っている可能性があります。

ちなみに、この調査で同様に数値の公表がないものの、状況から推定して相当に状態が悪いと思われる都内自治体は、江東区、港区、小金井市など。調査に協力して数値を公開している都内自治体で、5割を切っていることを知らせてくれたのは、杉並区、世田谷区、目黒区でした。

難関自治体にも思わぬ「空き」

ただし、上に書いた地域にも、実は認可保育園の4月入園で0、1歳児クラスに空きがある場合があります。そんな園は駅から遠く不便な立地だったりします。待機児童があふれる自治体で、保育内容も定評のある園がもったいなくも空いているという話を最近、耳にしたばかりです。

毎日のことですので、通園の負担があまりに大きいというのは現実的ではありません。でも、もしもそのすぐ近くに家を借りることができたら、どうでしょう。子どもさえ近くで預けられれば、大人はどうにでもなります。

保育園のために引越しをするということも視野に入れれば、可能性はぐっと大きくなります。待機児童の多い自治体では、ホームページに園別年齢クラス別空き情報を公開するところがふえていますので、要チェックです。

23区保育難民は都下も視野に

入園事情は、地域により自治体により大きく違っていて、しかも変化します。自治体を超えての引越しが功を奏する場合もあります。

2014年での東京都の自治体別の難易度を調べてみると、JR武蔵野線の近辺あたりの市を含め、その西側の都下自治体は、比較的入りやすくなっていることがわかりました。通勤が許すのであれば、思い切って都下に住まいを求めるのも一案です。

大規模マンション建設は要注意

自治体全体としては入りやすい状況になっていても、突然、局所的な入園事情の悪化が起こることがあります。高層マンションなど大規模マンション開発が予定されている、あるいはまもなく入居が始まるという場合は、要注意です。子育て世帯が一気にふえて、保育園希望者が押し寄せるからです。

子どもが産まれるから新築マンションを買おうと思う人は多いかもしれませんが、とりあえず保育園時代は入園優先で住民移動の少ない地域に借家住まいというのも、賢い選択だと思います。

どうやって調べるか

各園の入園事情を調べるのは、どうしたらいいのでしょう。

園別年齢クラス別空き情報を公開している自治体については、まずそのページを探して、マメにチェックするとよいでしょう。年度初めは空きが多少見られ、その後、特に低年齢児の空きはゼロになるという自治体が多いと思いますが、来年の4月入園をめざすのであれば、今年の4月時点での空き情報は重要です。

杉並区は空き情報に加え、入園選考で何点以上が入園できたかも公開していますが、そこまではわからない場合が多いでしょう。個別の入園事情は、自治体に相談すればある程度、教えてもらえます。

お目当ての自治体の窓口に電話もしくは足を運び、

「4月にフルタイマー世帯がほぼ入れている保育園はありますか?」
「このあたりの保育園で、パートタイマーも入れている園はありますか?」

などの質問をしてみましょう。未来のことは教えてくれませんが、昨年の実績なら教えてもらえる場合が多いはずです。パートタイマーが多く入れている場合は、フルタイマーは全員入れているということになります。

なお、4月入園の受付が始まる秋は窓口が忙しくなるので、早めに相談することをお勧めします。警戒すべきマンション建設計画などは、不動産情報に当たって調べましょう。

地価と保育料

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家賃と保育料の相殺現象

最後に、意外な話をひとつ。

都内は家賃が高いから、都外に住もうと考える人も多いかもしれません。

ところが、都内(23区・都下)の自治体は、世帯所得が中間層の保育料を安く抑えているので、住宅費の差を相殺してしまうことがあります。グラフは、拙著『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』でシミュレーションした大田区と川崎市の比較です。(ざっくり世帯年収1300万円程度の場合の保育料、東日本流通機構調べの2014年1~3月期家賃相場による50平米の家賃)。

なお、大田区も川崎市も入園事情はよくないので、最終的には、入園難易度に着目したピンポイントでの地域選び・園選びが重要になります。その場合も、必ず見学をして子どもが安心して過ごせる園かどうかは確かめてください。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)ほか多数。