1980年代の大ヒット作『東京ラブストーリー』に描かれるのは、働く女性のリアルな姿。あれから25年。仕事や恋愛はどう変わったか。作者の柴門ふみさんがプライベートでも仲のいい作家の林真理子さんと語り合った。
マンガ家 柴門ふみさん

【柴門ふみ】『東京ラブストーリー』の赤名リカって典型的なバブル期のOLなんです。マンガでは小さな広告代理店に勤めていて、まるで真剣に働いてない。

【林真理子】帰国子女だったよね。

【柴門】そう。だから語学は堪能で、エネルギッシュな分、縛られるのを嫌う。当時、リカみたいな自由気ままな女性が多かったですね。

【林】バブルの頃って、世の中全体が浮かれていたことも。

【柴門】アフターファイブは、毎日のようにボーイフレンドの車で六本木に遊びに行くとか。あの頃は適当に仕事をしていても食べていけたけれど、今はそんな甘くないですよ。

【林】女性もクタクタになるまで働いてるよね。うちの姪は毎日、終電帰りみたい。

【柴門】うちの娘も晩ご飯は決まってコンビニ弁当。今は会社に余裕がないから、仕事しない人はすぐに切られちゃう。でも、みんな仕事に対して真剣だし、当時よりもできる女性は増えている気がする。国際感覚の豊かな女性も多くなってますもんね。

【林】そうそう、しかも、みんなおしゃれだし。ネイルも凝ってたりして。

【柴門】ただ、きれいでいようと思うと化粧や洋服選びなどに時間がかかるでしょ。そこよね、女性が不利なのは。

【林】不利ってことでいえば、出世もそうよね。「ガラスの天井」という言葉があるように、女性が組織で上にいくには見えない障壁がある。能力を認めて育てようとする上司に出会えるかどうかに左右される気がする。

【柴門】女に嫉妬する男は多いから。

【林】組織で働くには、うまく立ち回ることも大切。NHKで女性初の局長になった小林由紀子さんがおっしゃるには、女性はどんなに仕事ができても、若いうちは周りにかわいがられるウサギちゃんでいるほうが得だと。その間に人間関係を築き、自分が部下を持つ頃からトラに変身していけばいい。

【柴門】それは賢いかも。そもそも組織って、女性には生きにくい場所なんですよ。男は上下関係や命令・服従を好むけれど、女は苦手。まして、管理職になると部下や売り上げの管理で重圧は増えるし。うちの娘も管理職を嫌って退職することにしたみたいです。

【林】出世を望む女性ばかりじゃないってことね。

作家 林真理子さん

【柴門】恋愛観も、昔と今では変わってますよね。私たちの時代はトレンディードラマのようなセリフを、普通の男子が平気で使っていたでしょ? それが、最近は「男性に口説かれたことがない」ってこぼす女性が多い。

【林】わかる、わかる。知り合いの男子が、彼女がほしいというので紹介したら、携帯の番号すら聞いてない。「ちゃんとしなさい」って叱ったところで。

【柴門】女性のほうも仕事が忙しくて、恋人を見つけて、デートして、という時間をつくるのが、すごく重荷になっちゃうんじゃないかな。

【林】かといって、不倫にも走らない。バブルの時代って、妻子ある男性と若い娘の不倫が多かったでしょ?

【柴門】確かに。リカは勤務先の妻子持ちの社長と付き合っていたし。

【林】今だと妻子持ちの男は家庭を持つおばさんと付き合う。あるいは、私の小説『不機嫌な果実』のように、人妻と独身男性とか。

【柴門】私のマンガでは、昨年、ドラマ化された『同窓生』がそう。人妻が高校時代に付き合っていた同級生と再び恋に落ちる話なんです。40歳って人生のリセットをしたくなる年齢で、実の折り返しと思っていたんだけれど、後ろにずれてる感じがするんですよね。際、まだやり直しができる。『Age,35』という作品を描いた20年前は、35歳が人生の折り返しと思っていたんだけれど、後ろにずれてる感じがするんですよね。

【林】ともあれ、不倫は面倒なので、独り身の男性といい恋愛をしてほしい。

【柴門】恋愛すると毎日が楽しくなりますよね。仕事への活力もわいてくる。

【林】相手が見つからないなら、とりあえず週1回、ご飯を食べてセックスする男性がいるだけで違う。仕事のガス抜きになって、心に余裕ができるから。

【柴門】リカなんてまさにそうね。男性のうわさが絶えず、「セックスしよ!」とカンチ(永尾完治)を誘う。当時、このセリフがものすごく話題になって。対照的なのは関口さとみ。男性関係には潔癖で、そこそこ働いたら家庭に入っていい奥さんになりたいと思っている。さとみのような生き方は普遍的なのかも。

【林】ドラマでさとみ役を演じた有森也美さんが言ってましたよ。あの役をやっているとき、「あなたの生き方は嫌い」と同性からよくなじられたって。

【柴門】自分と重ねてしまうのかな。もっとも、働く女性だって結婚願望はあると思うので、相手がいないなら婚活パーティーにどんどん行きましょう。ノーベル賞をとった天野浩教授夫妻は、お見合いパーティーで出会ったんですってね。

【林】宇宙飛行士の毛利衛さんも結婚相談所で知り合ったと聞いたわよ。理系の男性はまじめで、浮気しなさそう。

【柴門】そうよね。それに女らしさを押し付けない感じもあって、仕事に理解がありそうだし。結婚相手にいいかも。

【林】あと、私たちぐらいの年上の女性を頼るのも手よね。知恵も人脈もあるし。私だったら、相手を見つけて、デートの段取りもしてあげる(笑)。

【柴門】仕事との関係でいうと、悩むのは出産でしょうね。子育てしながら仕事を続けるのは本当に大変だから。

【林】仕事をバリバリしたいなら、イクメンを選ぶのが一番でしょうね。この前、小島慶子さん(元TBSアナウンサー)と対談したら、「旦那に主夫をやってもらってる」って。

【柴門】そういう相手が望めないなら、仕事のやり方は変えないと。子どもって病気やケガなど突発的なことが起こるから、ギリギリの仕事はしにくいですね。

【林】子どもが生まれて痛感したのは、自分の時間がなくなること。後ろ指をさされたくないから、運動会や保護者会などの行事はすべて行くようにしていたら余計に大変だった。

【柴門】そうやって苦労をしても、やっぱり子どもがいてよかったと思わない? 仕事でくたくたになって帰宅したときに、「ママー」って駆け寄ってくると、疲れが一気に吹っ飛んじゃう。

【林】本当、そうね。それに、年を取るのって辛いことだけれど、成長する子どもを見ていると、その辛さが緩和される気もする。仕事で出産を後回しにしていたら、いざ、つくろうとしたときになかなかできないという話を聞くので、あれこれ考えず、自然に任せたほうがいいと私は思うな。

【柴門】子育てと仕事の両立は大変なものと腹をくくって、少しでも楽しむ気持ちでいるといいのかも。

【林】もちろん、出産を機に家庭に入るのも選択の一つ。ただ、専業主婦で豊かな生活をさせてくれるようなお金持ちは少ないですよ、と言っておきたい。

【柴門】家庭に入った友人は、食卓におかず5品が並んでいないと、旦那さんに文句を言われるんですって。腹は立つけれど、離婚したら今の生活水準は維持できないから、5品をつくるしかないと愚痴ってますよ。

【林】愚痴を言うくらいなら仕事は続けたほうがいいと思う。逆に、仕事のために結婚・出産を諦める必要もない。

【柴門】人間って自分がイメージしたことしか実現できないんですよね。だから、諦めたらおしまい。

【林】私だって結婚したくて、子どもがほしくて、ものすごい努力をしたから。特に出産はタイムリミットがあるので、子どもだけ産んで結婚は後回しにするのだってありかもしれない。

【柴門】そういえば、リカは結婚せずにシングルマザーの道を選んでいる。

【林】働く女性には、今こそ赤名リカのエネルギーを! ってことね。

【柴門】そう、欲張りになってほしいわ。

柴門ふみ(さいもん・ふみ)
1957年、徳島県生まれ。79年「少年マガジン増刊号」にてデビュー。『あすなろ白書』などのヒット作を世に送り出す一方、『恋愛論』などエッセイも評判に。「サンデー毎日」で連載中の「解剖恋愛図鑑」では働く女性のリアルをルポ。3月に単行本を発売予定。81年、漫画家の弘兼憲史と結婚。1男1女の母。
林 真理子(はやし・まりこ)
1954年、山梨県生まれ。コピーライターとしてスタートを切り、初のエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞を受賞。作品のテーマは幅広く、2月には『小説源氏物語 Story of Uji』を上梓予定。90年に結婚。44歳で長女を授かる。