子ども・子育て支援新制度で広がる「認可」の枠組み

「認可」の保育施設というと、2014年度までは認可保育園(保育所)だけでした。2015年度からの子ども・子育て支援新制度では、「認可」の範囲が広がります。正確にいうと、給付制度という新しい制度が始まり、その中に認定こども園、小規模保育事業(新設)、家庭的保育事業、事業所内保育事業などが含まれることになって、これらをみんな認可施設・事業と呼ぶことになったのです。

単に、呼び方が変わっただけではありません。入園申込は認可施設・事業の保育についてはすべて市町村が受付をし、入園選考(利用調整)を行います。保育料も、原則として、認可施設・事業については世帯の所得に応じた額を市町村ごとに決める、つまり従来から認可保育園で行われていたような応能負担の統一価格の保育料になります。

これまで認定こども園は、独自の入園選考があったり、保育料が認可保育園よりも割高になる場合があったりしましたが、2015年度からは、認可保育園と同じ入園手続き、保育料となるわけで、働く家庭としては助かる部分が大きいと思います。

認可外が認可になることのメリット

新制度では、認証保育所などの認可外保育施設が認可に移行しやすくなります。基準を満たして自治体に認められれば、定員が20人以上の施設は認可保育園、3歳未満児のみで定員が19人以下の施設は小規模保育の認可を受けられ、認可施設に移行できます。

これらの施設が認可されたら認可保育園と同じ保育料で利用できるし、指導監査など行政の指導も受けるようになって質が向上する可能性もあります。これらは、保護者や子どもにとっていいことに違いありません。

※認証保育所とは、東京都が独自の基準を設けて認可外を助成するしくみ。同様に、自治体が独自に認可外を助成するしくみは各地にあり、名称はそれぞれで異なっている。

3歳以降の幼児期にふさわしい環境は保障できるか

一方で、戸惑いもあります。

これまで認可保育園というと、園庭があって外見が幼稚園と比べても遜色のない施設を連想しました。でも、認可外保育施設が認可保育園になった場合、やはり園庭はない場合が多いでしょう。

園庭がなくても、近くの公園などによくお散歩に行って、子どもたちに戸外遊びや自然とのふれあいを十分にさせてくれている施設もありますし、立派な園庭があっても「子どもが遊んでいるのをめったに見ない」という認可保育園もありますがから、園庭の有無だけで質を語ることはできません。でも、園庭があるほうが、子どもや保育者にとって、より健やかで豊かな保育環境が整いやすいことは確かなのです。

また、認可保育園や幼稚園では、幼児に対して、集団遊びや共同的な活動を通して社会性が培われるように保育(教育)が行われています。従来、低年齢児中心だった施設の場合、同様のクラス編制や活動が可能かどうかという課題もあります。

つまり、認可施設・事業の範囲が広がるのはよいことなのですが、その質、保育の実態はこれまで以上に多様になっていくことが予想されるのです。しかも、待機児童が多い地域では、保護者は「質で選べない」切羽詰まった状況に追い込まれています。

「保活」の常識が変わる?

待機児童の多い地域の自治体では、入園選考(利用調整)で、認証保育所などの認可外で待機する児童に加点をつけて、認可保育園に移りやすいように配慮してきました。そのため、保護者の間でも、まず認証保育所にお世話になって、その加点をもって認可保育園に転園するというコースが一般化しています。

ところが、認証保育所が認可保育園になってしまうと、このコースには異変が生じます。なぜなら、通常、認可保育園から認可保育園への転園は優先順位が低く、認可外からの転園に比べて不利だからです。

今、保護者の間で密かにささやかれているのは、「気が進まない認可に入ってしまうよりは、認証保育所に入って点数を上げて、本当に希望する認可への転園を狙うほうがいい」というアドバイスです。

とはいえ、認証保育所で待っているうちに希望の認可に入れないまま子どもが成長してしまう可能性も大いにあります。低年齢児にまじって同年齢のお友だちと遊べないわが子に心を痛めることになるかもしれません。2人目がほしいのに2人の子どもを認可外に通わせる経済力がないという家庭もあるでしょう。保護者の迷いは深くなるばかりです。

移りたい認可はない……という現実も

新制度以前から、超激戦区の自治体には、認可保育園をビルの中につくって待機児童対策をしてきたところがあります。そんな自治体では、すでに多くの認可保育園が施設環境的には認可外と大して変わらないように見えます。もちろん、認可保育園のほうが有資格者を多く配置するしくみになっているので、新しく保育施設をつくるなら認可保育園として整備されたほうがいいし、保育料の点からも保護者は助かります。ただ、自治体がそこに安住してはならず、本当に就学前まで安心して通える保育を追い求めてほしいと思います。

在園する認可外が認可になったら?!

認証保育所が認可保育園になるとき、在園児はどうなってしまうのかという相談も「保育園を考える親の会」にはありました。

認可保育園の入園事情が厳しい地域の入園選考では、指数の1点を争う状況になっています。認証保育所の在籍児童が、認可への移行に際し、「がらがらぽん」でこの選考にかけられてしまうと、園を出されてしまう恐れがあります。そんなことになったら、親子の生活は激変してしまいます。

結局、相談のあった自治体では、保育の必要性の認定が受けられる区民であれば移行後も継続して在籍できることになりました。もちろん、違う立場からの意見もあるかと思いますが、各家庭が想定している生活の継続性を配慮すれば、激変緩和は必要だと思います。

その一方で、いずれ園庭のある認可保育園に移りたいと思う人の中には、今いる認可外が認可になることを歓迎できないという人もいるはずです。保護者はしっかり情報を集め、現地を見て選ぶ必要があります。

こんな屈折した世の中に誰がしたのか。早くストレートな待機児童対策が行き渡ることを願うばかりです。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『働くママ&パパの子育て110の知恵』(保育園を考える親の会編、医学通信社)ほか多数。