保育時間の2区分化を知っていますか?

いよいよ認可保育園(=保育所)の4月入園の申請受付が始まります。

2015年度からの「子ども・子育て支援新制度」で新しく始まるものの中に、保育時間の2区分化というのがあることをご存じでしょうか。

以前は、認可保育園の保育時間は11時間(標準開所時間)を区切りにして、その時間帯を超えると延長保育料がかかるというしくみでした。その基本的な考え方は同じなのですが、11時間の内側にもうひとつ保育時間区分が設定されることになったのです。「保育短時間」です。

具体的には、「保育の必要量の認定」を2区分で行って、それぞれの最大利用可能時間を次のようにするというものです。

(1)「保育標準時間」最大利用可能時間1日11時間←(認定の要件)保護者がおおむね1カ月120時間程度以上の就労をしている場合
(2)「保育短時間」最大利用可能時間1日8時間←(認定の要件)保護者がおおむね1カ月120時間に満たない就労をしている場合

あなたの保育時間はどちらになりましたか?

父母の就労時間のうち短いほうの就労時間で認定されること、休憩時間は含まないことに注意してください(ただし、細かい規定は自治体によっては違う場合もある)。

「保育標準時間」と「保育短時間」の保育料

「保育標準時間」と「保育短時間」は基本の保育料も違っています。

中間的な所得階層の保育料を例にとると、国の上限額では次のとおり。なお、実際の保育料は、これを上限額として各自治体が設定します(月額)。

<市町村民税が年額169,000円以上301,000円未満の世帯の国基準保育料>
(1)「保育標準時間」 58,000円
(2)「保育短時間」  57,100円

2つの区分の差はたったの900円です。実際にかかるコストの差に比例して決められています。所得階層が低くなると、差はもっと小さくなります。

ここで気をつけなくてはならないのは、次に説明する「保育短時間」認定の場合の延長保育料です。

「保育短時間」が「保育標準時間」よりも高負担になる?

基本保育料は、確かに「保育短時間」のほうが少し安いのですが、この認定区分は1日8時間までの保育を前提にしたものであり、それを超えると延長保育料がかかることに注意しなくてはなりません。

認可保育園の延長保育料は、月ぎめの場合で2000円~4000円、1時間当たりの料金設定では400円~600円が多いのですが、「保育短時間」認定の家庭が月に2回延長保育を利用すると、基本保育料と延長保育料の合計が「保育標準時間」の基本保育料よりも高くなってしまいます。

また、「保育短時間」の1日8時間の時間帯は、各園ごとに決めることになっています。多くの園が「保育短時間は朝9時~夕方5時」というような設定をするでしょう。月の就労時間が120時間未満でも勤務時間が午後に偏っていてお迎えが夕方6時近くなるという人がいると、延長保育料がかさんでしまいます。自治体や園はこういったケースの対応に悩むでしょう。新制度の「自治体向けQ&A」では、経過措置として、就労時間が「保育短時間」認定にあたる場合でも保護者が希望すれば「保育標準時間」として認定してもさしつかえないと書かれています。経過措置ではすまないかもしれません。

就労時間帯が夕方にシフトしている人や、日によって保育時間が変動する可能性がある人は、あらかじめ市町村の窓口などで相談することをお勧めします。「保育標準時間」か「保育短時間」かは、「保育の必要性の認定」の審査のときに決まりますので、相談は申請前がよいでしょう。

ちなみに、月120時間という就労時間は、おおざっぱに計算して、だいたい年金の第3号の対象となれる限界「130万円のカベ」のあたりに相当します。

細切れの保育にしないために

なぜ2区分なのか、介護保険のように利用した分だけお金を払うというやり方でもいいのではないかという意見もあるかもしれません。

でも保育の場合、介護保険サービスとは少し性格が違っています。

認可保育園では、1日を通して子どもの安定した生活を保障するようにタイムスケジュールが組まれています。また、その中で教育も行われています。そのための環境として、保育者や仲間との安定的な関係はとても重要になります。保護者の就労だけに着目して保育をコマ切れにすることは、子どもの安心や発達にとってプラスではないと考えられるのです。

また、保育士の雇用・就労が不安定化・不規則化することは、保育士の処遇悪化になり、保育の質を低下させることにつながるということも、ずいぶん議論されました。

「1日最大11時間の保育」を買うわけではない

最後に、園と保護者の相互理解のために大事なことを説明しておきます。

「保育標準時間」は1日最大11時間、「保育短時間」は1日最大8時間の保育を利用できると説明しましたが、実は、2区分とも保育日は月曜日~土曜日の6日間を最大としています。

ただし、制度のとりまとめのとき、こんな附帯意見がつけられています。

「新たな基準に基づく保育の実施に当たっては、保護者が、その就労実態等に応じ、子どもの健全な育成を図る観点から必要な範囲で利用できるようにすることが制度の趣旨であることを周知し、共通認識とすること」

つまり、仕事が終わったらお迎えをする、土曜日に仕事がなく特に必要がなければ子どもも保育園をお休みするという、これまでと同じお約束でお願いしますということです。

この附帯意見は、各家庭で子どもとの時間を大切にすべきという考え方を示していますが、もうひとつ、給付費(保育園が受け取る公費)は全員が最大利用可能時間をフルに利用するという想定にはなっておらず、朝夕の子どもの少ない時間や土曜日は保育士のローテーションでカバーしなければならないという運営上の事情も背景にあります。

2区分が設定されて2段階の保育料が示されると、保護者は、「週6日・11時間分の保育料を払っている」と思いたくなりますが、そうではないということです。保護者と園のトラブルをたくさん見てきた私は、上の共通認識は新制度とは関係なく、重要なものだと思っています。

それにしてもこの保育時間の2区分化、実施段階になった今、行政にとっても、事業者にとっても、保護者にとっても、ほとんどいいことがないということが明らかになってきたように見えます。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『働くママ&パパの子育て110の知恵』(保育園を考える親の会編、医学通信社)ほか多数。