日本は出産施設の種類が多い

欧米ではほとんどの人が巨大な病院で出産しているが、日本にはいろいろなタイプの出産施設がある。選択肢があるのはよいが、初めて妊娠した人は、一体どこを選べばいいのか迷うことが多い。

出産施設は、対応可能な医学的リスクによって次のように分けられる。

・総合周産期母子医療センター

「周産期」とは出産の前後という意味で、ここは母親を診る産科、赤ちゃんを診る新生児科の2科が一体となりハイリスク出産に対応している。地域からの紹介や救急搬送の受け皿としての役割を担っているので、病院によっては、紹介のみの受け入れとなっている。大学病院や日赤などが指定されている都道府県が多い。県庁所在地に1か所はあり、都市部には多くて東京都では12施設もある。「総合周産期母子医療センター」を補う病院として「地域周産期母子医療センター」がある。どちらも、病院のホームページをよく見ると、指定されていることが記載されている。

・一般的な病院

中程度のリスクまで対応する、クリニックと周産期センターの中間的存在。

・個人開業医のクリニック

院長の方針が色濃く反映し、リスク対応については、かなり対応できるところから、ローリスク妊娠のみ扱うところまで幅がある。

・助産院

開業助産師が営み、ローリスク出産のみ受け入れる。

「妊娠リスクスコア」でセルフチェック

年齢が高い人の産院選びは、自分の医学的条件に合った範囲内で手堅く選ぼう。

妊娠の時点でわかる主なリスク要因には子宮の疾患や手術経験、高血圧、糖尿病などがある。出産経験者であれば過去の妊娠・出産で大きな問題が起きたかどうかも重要だ。

産婦人科に行って妊婦健診が始まると、これに胎盤の問題、早産など何らかの産科トラブルが加わるかもしれないし、胎児側のリスクも少しずつわかってくる。

自分では、希望の産院が医学的に見て自分に合っているかどうかわからないこともあるだろう。そんな時は、厚労省の研究班が作成したセルフチェックがインターネット上に掲載されている。「妊娠リスクスコア」で検索してみよう。具体的に推奨病院が示されるわけではないが、リスクが3段階で示されるので参考になるはずだ。

年齢が高いことが気になる女性は、周産期センターを選ぶ人が多い。でも、妊娠経過が順調な場合は、必ずそうしなければならないわけではない。ただし、厚労省研究班のリスクスコアによると、40代はそれだけで最もリスクが高いグループに入るようになっている。少し余裕をもった選択をしておいた方が、あとで楽かもしれない。

医学的リスクは妊婦健診の所見や突発的な症状などで刻々と変わるので、そのことも承知しておくこと。周産期センターにかかっている人は、何かあった時に医師から「うちでは対応できない」と言われて転院する心配はない。でも小規模な施設になればなるほどその可能性は高くなる。

「ここに来ると安心できる」と感じられるか

医学的条件がクリアできれば、あとは、行ってみた時に「ここは安心できる」と感じられることが大切だ。分娩中は心理的なものの影響も強く受けるからだ。

信頼できる産科医がいることは一番重要だが、高齢出産の場合は、特に説明がていねいな医師と出会いたいもの。高齢出産は医療行為が多くなりがちだが、その時には、納得できる説明をしてほしいからだ。

出産方法はできるだけ自分から積極的に考えたいが、実際には医療者の協力なしには実現は難しい。つまり、施設選びで決まる面が大きいということ。「こんな出産がしたい」というイメージがある場合は、最初の段階で聞いておこう。

助産師さんのケアにも注目

助産師さんのケアも、産院選びの大切な鍵だ。分娩は、ついてくれるのは医師ではなく助産師さんだ。また最近は「助産師外来」などの名称で、助産師さんが妊婦健診を担当する出産施設が増えてきたので、ますます濃いお付き合いになってきた。

高齢出産で最もたくさんの人が「大変だった」と言うのは、実はお産よりも、産後の生活だ。これも、助産師さんのケアしだいで大変さが変わる。産後生活のポイントは、母乳がうまく軌道に乗るかどうか。飲ませ方、抱き方の実地指導に左右されることが少なくない。母乳、特に初乳は赤ちゃんにとって天然の抗生物質なので、大切にしてあげたい。

忙しい人ほど産院選びを大切に

最近は高齢出産が全国的に増えてきて、不妊治療による妊娠や40代の妊娠、責任の重い仕事を続けながらのマタニティライフも都市部では珍しいことではなくなった。出産施設も対応に慣れてきている。

ただ妊娠中には、わが身・わが子を守るため、どうしても仕事を犠牲にしなければいけないこともある。無理は禁物だ。そのためにも、忙しい人ほど、きちんとコミュニケーションがとれる医療者と出会ってほしい。手間をかけた分は、必ず返ってくる。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com