女性のプレッシャーにならない目標を
団塊ジュニア世代もいよいよ40代になり、日本の少子化はこれから加速する可能性が高い。国立社会保障人口問題研究所の推計によると出生数は今世紀の中ごろには現在の半分になり、地方では多数の自治体が消滅するだろうと言われている。
内閣府ウェブサイトによると、安倍総理大臣は、3月19日に開かれた政府の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で、森まさこ少子化担当大臣に「人口減少に歯止めをかけるための目標」を含めて少子化対策の検討をするように指示した。
これを受け、4月の少子化危機突破タスクフォース会議でも数値目標についての議論が交わされ、社会的議論も起きている。私は、かねてから少子化対策にも他の政策同様に何らかの数値目標を設けるべきで、それによって国民というより国の予算配分にプレッシャーがかかることを期待していたので設定には賛成だ。
日本の少子化対応は、これまでのんびりムードで進んできた。家族関係社会支出の対GDP比は1%程度でフランス、スウェーデン、英国のわずか3~4分の1、子どもに未来を与える高等教育(大学、短大、専門学校)への公財政支出GDP比はOECD諸国中実に最低であり、どこをとってもこの国の子ども予算は真剣さがまるで感じられない。
ただし、どのような指標を数値目標として使用するのか、それをどのようにして達成しようとするのかは非常に気になる。
目標値は、人口置換水準「合計特殊出生率2.07」ではいけないのだろうか。長期計画になってもやはり最終ゴールはそこであろうし、この値は、出生だけではなく、死亡や人口移動なども加味してはじき出される。日本はその値と現実の隔たりが大きいことが当たり前になってしまったので、その意識を変えることは重要だ。
しかし、都道府県によっては、すでに「この年には出生数を何人にしよう」といった形で毎年の到達目標をもうけているところもある。それは、あまりにも直接的で女性にプレッシャーがかかるのではないだろうか。
産みたくない人は少数派
数値目標は、国、自治体や企業の対策に設けることはできないだろうか。出産ではなく、出産支援にノルマを設ける。例えば「家族関係社会支出の対GDP比を何年かかけてフランス等と同程度にする」などだ。あるいは、雇用形態による格差が結婚、出産ができない若者を増やしているのなら、非正規雇用で働く人の賃上げに数値目標を設ける。
日本では、産みたくないという人はまだそんなに増えていないので、しっかりと求められている対策がとれれば出生数は回復するはずだ。国立社会保障人口問題研究所の「第14回出生動向基本調査」(2011年)によると理想の子どもの数は2.42人で人口が増えていた時代とさほど変わらない。
産みたい人が産めていない理由は何かというと、ほとんどの調査で、経済的不安がトップになっている。
今年3月に内閣府が報告した「家族と地域における子育てに関する意識調査」も、結婚したい未婚男女に今後結婚する条件を聞いた質問では、出会いと並んで「経済的に余裕ができること」がトップ(47.7%)になり話題となった。
「第14回出生動向基本調査」では、予定子ども数が理想子ども数を下回る人の理由として6割(60.1%)の人が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を理由にあげ、他より圧倒的に多かった。特に20代夫婦では8割を超えた。
内閣府の調査も繰り返しおこなわれているが、こちらもいつも経済的不安が圧倒的に大きいという結果になっている。男女が回答している「子ども・子育てビジョンに係る点検・評価のための指標調査」(2013)では、子どもを持つ不安で一番多かったのは「経済的不安の増加」で全体の7割(70.9%)を占め、最も大きな経済的不安は高等教育の費用だった。2位以下には「仕事と生活・育児の両立」(45.9%)、「不安定な雇用、就業関係」(42.2%)、「保育所などの保育サービスの不足」(35.3%)、「出産年齢、子どもを持つ年齢」(33.5%)など、さまざまな理由が並んだ。
3人以上産みたい人が6割
一方、「男女アンケート 何が少子化に効くか」(http://president.jp/articles/-/11912)でも以前に紹介した「助産雑誌」編集室と私のインターネット調査では、国の調査のように回答者属性を調整していないので、働く女性の声が多く集まりまた違う様相を見せた。
有効性が強く感じられている少子化対策は、雇用形態、性別、そして子どもの人数で大きく違った。
まだ子どもがいない人、正規雇用の人、女性だけで見てみると、「保育所」「長時間労働の緩和」「育休制度」など仕事と育児の両立支援が経済的支援より重要だと感じられていた。「長時間拘束、休日返上が当たり前で、とても子育てできる時間がとれるように思えない」といった時間の問題や、出産後の職場における立場の変化を悩んでいる人が多かった。
派遣・契約社員の人は、「雇用形態による差別がない対策をしてほしい」と育休制度を求める声が非常に強かった。正社員以外の人はパートの女性も含め女性でも経済的支援を求める声が強かった。
その一方、男性、現在の子ども数が多い人、欲しい子どもの数が多い人では「高等教育無償化」「児童手当の高額化」「税制の優遇」などが上位になり、前出の国の調査のように経済的支援が重視されていた。「児童手当」はそれが有効だと感じている人に「少子化対策として効果がある金額の最低水準は」と聞いてみたところ、92%が現在を上回る2万円(月額)以上の金額を選び、最多は3万円(38%)だった。
子どもへの壁はみんな違うので、支援メニューは多様でなければならない。
もし、自分が求める支援が得られたら子どもは何人欲しいかという質問では、「3人」という答が最多になり、4人、5人以上と答えた人も合わせると全体で6割の人が3人以上欲しいと答えた。現在の状況下では「2人」が最多だったが、増やした人が多かった。
子どもたちのためにも早く本格的な支援を開始し、産みたい人数を安心して産める国になってほしい。
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com