若い世代に役立つ年金制度

「年金」と聞いて誰でも思い浮かべるのが老後の年金。でも、みんなが加入している国民年金や厚生年金などの公的年金には、老齢年金のほかに2つの年金がある。それは、亡くなったときに遺族が受け取る「遺族年金」と、障害状態になったときに受け取る「障害年金」だ。

少し前、あの“偽ベートーベン”氏が「聴覚障害を装って受け取っていたのでは?」と疑われて話題になったのが、この障害年金だ(本人は受け取りを否定)。

病気や事故で思いがけず障害を負ったとき、頼りの綱となるのが障害年金。老齢年金と違って、むしろ若い世代向けのセーフティネットといっていい。では、この年金はどんな場合に、いくらぐらい受け取れるのだろうか?

初診日に公的年金に加入していることが条件

障害年金は、障害状態になって日常生活や仕事が制限されるようなときに、金銭面で暮らしをサポートする制度だ。障害はケガによる場合だけではなく、がんや糖尿病などの病気によるものや、うつ病や発達障害といった精神疾患による場合も対象になる。

障害年金を受け取る条件は、障害の原因となった病気やケガの初診日に、国民年金や厚生年金などの公的年金制度に加入していること。ただし、初診日の前に決められた月数(被保険者期間の3分の2)以上、年金保険料を払うか免除を受けていることなども条件とされている。

障害と認定されるのは、初診日から1年6カ月経過したとき(その間に治った場合は治ったとき)に障害の状態にあるか、65歳に達するまでの間に障害の状態になったとき。そして定められた障害等級に認定されることが必須条件だ。障害等級は、障害の重い順に1級、2級、3級に分かれている。その認定基準の考え方は基本的に下のようなもの。

【1級】日常生活のほとんどに他人の介護が必要な状態。家庭内の生活でいえば、活動範囲がほぼ就床室内に限られるような程度。
【2級】必ずしも他人の手を借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働ができない状態。家庭内の生活でいえば、活動の範囲がほぼ屋内に限られる程度。
【3級】労働が著しい制限を受けるか、制限を必要とする程度。

このほか3級より障害の軽い場合には、障害手当金として一時金が支払われるしくみもある。

日本年金機構による障害等級の例では、「両上肢、または両下肢の機能に著しい障害のある状態」は1級、「1上肢、または1下肢の機能に著しい障害のある状態」は2級。また「両眼の矯正視力の和が0.04以下」は1級、「両眼の矯正視力の和が0.05以上0.08以下」は2級とされている。このほかにも、聴覚、脊柱機能、精神や神経系統、心臓、腎臓、肝臓、高血圧など広範にわたって、細かく障害認定基準が定められている。

ベースとなる年金額は障害等級1級で100万円弱

では、障害年金はいくらぐらいもらえるのか? 年金の受取額は、加入している年金が国民年金か厚生年金かで大きな違いがある。これは、老齢年金の場合と同様だ。

自営業者や学生、サラリーマン家庭の専業主婦などが加入している国民年金の場合、障害年金を受け取れるのは障害等級1級または2級に該当する場合のみ。この場合の障害年金(障害基礎年金)の額は下のとおり(2014年4月以降。以下同)。

<障害基礎年金額>
【1級】96万6000円(月8万500円)+子の加算額
【2級】77万2800円(月6万4400円)+子の加算額
※子の加算額とは高校生以下の年齢の子がいる場合に加算される額で、第1子、第2子は各22万2400円(月1万8533円)、第3子以降は各7万4100円(月6175円)。

30代独身会社員なら年金額は約160万円にアップ

障害基礎年金は、障害年金のベースとなる部分だ。会社員の加入する厚生年金では、これに上乗せ部分(報酬比例の年金額)があり、さらに、配偶者に対する加算もある(配偶者には収入制限あり)。また、国民年金にはない障害等級3級や障害手当金の給付もある。

<障害厚生年金額>
【1級】(障害基礎年金額)+(報酬比例の年金額)×1.25+配偶者の加給年金額
【2級】(障害基礎年金額)+(報酬比例の年金額)+配偶者の加給年金額
【3級】(報酬比例の年金額)→最低保障額57万9700円(月4万8308円)
【障害手当金】(報酬比例の年金額)×2年分

※配偶者の加給年金額は条件に合う配偶者がいる場合に加算される額で22万2400円(月1万8533円)。

報酬比例の年金額は、厚生年金に加入していた間の収入や勤務期間によって違い、計算も非常に複雑。そこで、ざっくりとした目安を示すと、35歳会社員(厚生年金加入12年)、勤務期間の平均月収30万円程度の場合で、およそ50万円といったところ。

この例で独身の場合だと、障害基礎年金との合計額は障害等級1級で約160万円(月約13万円)、2級で約127万円(月約11万円)、3級では最低保障額の57万9700円(月約4万8000円)となる。

同じ例で条件に合う配偶者と子ども2人がいる場合には、障害等級1級と2級では子の加算額と加給年金額がプラスされる。年金額は1級で約226万円(月約19万円)、2級で約194万円(月約16万円)という計算だ。

保険料を払っていないと受け取れない場合も

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厚生年金と国民年金の障害年金額

障害年金では前述したように、年金保険料の納付状況が所定に満たないと年金を受け取れない場合があるので注意が必要だ。

ずっと会社員という人ならまず大丈夫だが、たとえば新入社員で学生時代に国民年金保険料を払っていない場合や、会社員に転職する前にフリーやアルバイトで働いていて年金保険料を払っていない場合などでは問題になることがある。

障害年金は、障害状態が続く間はずっと受け取ることができるありがたいしくみだ。自分や家族の万一のときのためにも、公的年金にこの制度があることを頭に入れておこう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。