「紅一点」を意識したことはない

富士重工業 スバル技術本部 材料研究部 材料研究第3課 担当 室井理恵さん

職場は男性ばかりとはいえ、入社以来、そのことをそれほど意識したことはありません。

確かに最初の頃は、取引先の年配の方に信用してもらえなかったり、上司と話をしたいと言われたりすることもありました。

でも、しっかりとコミュニケーションをとろうと心がけているうちに、そうしたことはすぐに起こらなくなりました。むしろ今では、女性エンジニアだから相手に覚えてもらえるというメリットの方が大きいと感じています。

仕事について言えば、女性ならではの視点はあると思います。特に走行性能を重視した車づくりの文化があるスバルでは、どちらかというと内装よりも走りを重視する傾向にありました。だから、以前はスバル車といえば内装は黒ばかり。明るくて広さが感じられるベージュを基調とした内装が増えてきたのは、私が入社して少し経ってからのことでした。

内装に明るい色を使うと、お客様の中には「汚れそうだな」と感じる人も多いでしょう。そのために最適な色合いを探すこと。それからタバコやペット、生活臭といった臭いを抑えること。シートの耐久性を上げることや変色のし難い素材の開発……。走り重視のスバルにあって、そうした視点を特に強く持つようにしてきたつもりです。

材料研究部は基本的に信頼性を開発する部署なので、車づくりのなかではあまり目立つことはありません。でも、以前にフォレスターの特別仕様車「エアブレイク」が販売されたとき、そのために中心になって開発した消臭ルーフトリムがカタログに載ったことがありました。そのときは嬉しかったですね。消臭の機能を天井に張る布に持たせたのですが、その際は実車にトリムを取り付けて煙草を吸ってもらい、一晩おいて効果を確認することを繰り返したものでした。

報告書を読み漁ってキャッチアップ

そうした中で私が女性社員であることを強く意識した時期を挙げるとすれば、やっぱり結婚後に産休と育休を取ったときです。

1年間取得した育休中はとても不安でした。車の開発は世界的にもスピードが速くなってきていて、1年間のブランクがあるとやり方そのものが変わってしまうこともあります。内装の分野がまさにそうであったように、以前は重要視されていなかった箇所が重要になっていることもあるでしょう。

だから職場に復帰してすぐは、過去1年間の報告書の束を読み漁ったり、周囲に状況を聞いたりして仕事の雰囲気を取り戻すのに必死でした。時短勤務という選択もありましたが、私は一度やり始めるとのめり込むタイプなので、復帰するのであればしっかりと仕事をしたいという気持ちがありました。それに時短勤務で思いっきり仕事ができないことを、制約があるのは子供がいるからだと子供のせいにしてしまうのは嫌だったのです。

同じ業界で働く夫からも「仕事を続けてほしい」と言われていましたから、夫婦で月の初めにスケジュールを調整し合って、残業できる日、できない日をあらかじめ調整しています。子供が熱を出したような日は、午前中と午後で調整し合っていますね。

もっと責任のある立場になりたい!

子育てしながら働くようになって、仕事を自分で抱え込まないように心掛けるようになりましたが、そのことで、周囲と進捗状況や課題を伝え合ったり、情報を共有し合ったりという同僚とのコミュニケーションが増えたと感じています。

将来はもっと責任のある立場になって、課や部のマネジメントを担えるような仕事ができるようになりたいです。その中で誰が見ても「スバルらしいね」と言ってもらえるような内装を、素材の開発を通して実現していきたいと思っています。

例えば、アウディやBMWといった欧州車はあまりデザインを大きく変えませんが、エクステリアにもインテリアにも確立された世界観があります。スバルの車もやっぱりそうあってほしい。同じ車種であってもグレードによって安っぽくなるのではなく、それぞれにとって味や良さを感じられる素材があるはず。そうした素材開発を意識した仕事をすることを目指していくつもりです。

●手放せない仕事道具
プラスティックの材料を切るための特殊なハサミなどの道具、そして実験で荒れがちな手にぬるハンドクリームは欠かせない。

●ストレス発散法 スキー

●好きな言葉 一つ一つをやり遂げる

室井理恵(むろい・りえ)
1978年千葉県出身。群馬大学院を卒業後、2003年富士重工業に入社。スバル技術本部 材料研究部 材料研究第3課に配属。スバル車 内装の樹脂材料の新規開発などに携わる。2012年に1年間の育児休暇を取得後、担当となる。