制約の中で格闘するのが面白い

富士重工業 スバル技術本部 材料研究部 材料研究第3課 担当 室井理恵さん

私は材料研究部に所属し、車の内装に使われる材料を研究開発しています。

車の中というのはご存知の通り、夏場に焼けるほど熱くなることもあれば、冬には凍るくらい寒い環境に置かれることもあります。何年も時間が経ってくると、太陽の光でシートやコックピット周りの樹脂が色褪せる可能性もあります。

6月に発売を控えたレヴォーグなどは特にそうですが、近年では内装が富士重工の社内でもとても重視され始めているんです。だから、私たちの部署も昔に比べて重要度が増しているのを感じます。高級感を抱かせる樹脂の質感とはどんなものか、触り心地をどう表現するか、汚れの目立ちにくいシート表皮、臭いをどう抑えるか――。一つひとつのテーマと格闘する毎日です。

この仕事の面白さや醍醐味は、限られた予算の制約の中でいかに「本物らしさ」を出せるか、を追求していくところにあると私は思っています。例えば、高級車のダッシュボードやコンソールを見ると、革が張ってあることが多いですよね。一方で大衆車の多くには樹脂が使われています。

内装に高級感を出すための最も簡単な方法は、コストを気にせずに良い材料を惜しみなく使うことです。でも、実際には制約があるので、革を使わずとも革に見えるような樹脂を開発したり、プラスティックを柔らかい触感に変えたりして、いかに高級に見えるかを工夫して追求していくわけです。そうすれば運転する方が肘を置くアームレストにも、コストの安いプラスティックを使うことができるようになる。「本物」に見せるためには、実際に近づけようとしている本物の素材をよく観察し、試行錯誤を繰り返しながら表現していく必要があります。

クルマ好き男子の話にはついていけず

材料研究部では約90名の社員が働いています。私が所属する第3課には約13名がいますが、女性のエンジニアは私1人だけです。部全体でも4人しかいないので、男性ばかりの職場です。

私はそこでは担当という役職、一般的には係長に当たる立場で働いています。入社してから11年が経ちました。部下は3人いますが、年上や同年代の人からなる1つの開発チームといった感じです。

自動車メーカーですから、働いている人の多くは根っからの車好き。ただ、私について言えば、もともと車がすごく好きでスバルに入社したわけではありませんでした。大学院では化学を専攻していて、研究テーマはアミノ酸でした。なので、車のことは全く詳しくなかったし、就職活動のときは化学メーカーを中心に採用試験を受けていました。富士重工の採用試験を受けた際は、グループ面接で他の男子学生がみな車について熱っぽく語っていて、話にまったくついていけませんでした。

人生を変えた青いインプレッサ

では、なぜそのとき例外的にスバルを受けたかというと、車のことはほとんどわからなかったけれど、実はとても好きな車種が1つだけあったからなんです。

こちらでの生活には車が不可欠ですが、スバルの開発部門があるからでしょう、インプレッサWRXを他の場所よりよく見かけるように思います。私が学生だった頃、スバルはインプレッサWRXでWRC(世界ラリーチャンピオンシップ)に参戦していました。特に1997年には、3年連続のマニュファクチャーズタイトルを獲得するなど全盛期でした。

私はあの青いボディのインプレッサが走る姿がなぜかとても好きで、当時、軽自動車のヴィヴィオに乗りながら、街で見かける度にいつか乗ってみたいと憧れていたんです。

なので、実際に入社してしばらくお金を貯めてから、インプレッサWRXSTIを買っちゃいました。今でも乗る度に、なんて運転する楽しさに満ち溢れた車なんだろう、と思います。ドアを開けてシートに座ると、それだけでどこかに出かけたくなりますから(笑)。

実はこの車を買って以来、知人に誘われて那須にあるコースでダートトライアルをするようにもなったんです。夫もモータースポーツが大好きな人なので、一緒に車を直したりメンテナンスを勉強したり。その経験は車づくりに携わる上で、役に立っているとも感じています。

室井理恵(むろい・りえ)
1978年千葉県出身。群馬大学院を卒業後、2003年富士重工業に入社。スバル技術本部 材料研究部 材料研究第3課に配属。スバル車 内装の樹脂材料の新規開発などに携わる。2012年に1年間の育児休暇を取得後、担当となる。