不妊治療のはじめ時は?

最近、「妊活」という言葉をかかげたメディアやイベントに関わる仕事がとても多い。そこでひとつ気になっていることがある。それは、妊活に励みたいと思う人の中には、本来は不妊治療が必要なのに、なかなか受診できない人が多いということだ。

「妊活」をうたったお洒落な特集記事には、食事やサプリメント、エクササイズなど治療以外のメニューがずらりと並んでいる。そうした記事はきれいで楽しいけれど、これは、既婚で避妊をやめて長く経っている人にとっては第一選択ではない。妊娠に向けた身体作りはとても大切に違いないが、もし、すでに妊活歴があるのに授からないなら、不妊治療の「はじめ時」を改めて知ってほしい。

「どれくらい妊娠しなければ医師にかかるべきか」について不妊治療専門医たちがどうアドバイスしているかというと、数カ月から1年のいずれかを挙げる医師が多い。

妊娠に関する代表的な学会である日本生殖医学会がウェブサイトで示している目安を見てみよう。

99%のカップルは1年以内に妊娠する

◆一般社団法人 日本生殖医学会 一般の方へ http://www.jsrm.or.jp/public/index.html

ここで「Q2.不妊症とはどういうものですか?」を見ると「「不妊症」とは、なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態」と書かれており、次に「一定期間を過ぎても妊娠しない場合、その後いくらタイミングを取っても自然に妊娠する可能性は低くなる」とある。

では、その「一定期間」の長さを知るために「Q6.どのくらい妊娠しないと不妊症の検査を受けたらいいですか?」を見てみよう。すると、ある研究によれば、排卵日とその前2日ぐらいを狙って性生活をもっているカップルは89%が半年以内に、99%が1年以内に妊娠したそうだ。この結果を受けて、アドバイスは「1年を経過した時点で妊娠していなかったら、不妊症の検査を受けることを勧めます」となっている。さらにウェブサイトでは、もっと早く受診した方がよいケースも提示していて、全体をまとめると次のようになる。

【不妊相談に行くべき場合】

・妊娠しやすい時期を意識した性生活があるのに1年妊娠しない。
・子宮内膜症、子宮筋腫、極端な月経不順などがあるなら、もっと早めに受診。特に35才以上の場合は半年程度で受診
・40才以上の場合は、リスク因子がなくても半年程度で受診。

35歳以上なら、すぐにでも

もちろん受診はこれより早くてもよく、医師によっては「女性が35歳以上ならば、妊娠したいと思ったらすぐに来て検査だけでも受けてほしい」と言っている。

「検査で何かがわかるのがこわい」と言う人が多いが、授からない月日が長引くとわからないこともつらくなってくるはず。産婦人科を受診したある女性は「なぜ妊娠しないのか」とあれこれ考え続けることが耐えがたくなったので出かけたところ、排卵日の勘違いをしていたことがわかった。「何か理由が見つかったらしめたものだと思って受診した」という人もいる。原因がわかれば、治療できるかもしれないからだ。

長期間、自然妊娠を待って妊娠する人もいるのは事実だが、その場合はひとりで長く悩むことになったり、「本当は2~3人欲しかったけれど結局1人になった」という風に子どもの数をあきらめるケースもある。

「できれば自然に授かりたい。不妊治療は避けたい」という気持ちは、誰でも持つ自然な気持ちだ。でも、信頼できる施設での不妊検査、不妊治療にはそれなりの意味がある。必要に応じて医療を使いつつ、「妊活」ですすめられる心身のケアや子宝の湯への2人旅も楽しむ。そんな妊活をしてほしいと思う。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com