生活が厳しくなるときこそ先取り貯蓄

とうとう消費税が5%から8%に上がってしまった。この3月に、欲しかったコートやバッグをあれこれと買い込んだ春美さん(34歳)は今、決意を新たにしている。

「今月からは節約して、月末になったら余ったお金をしっかり貯金しよう!」

春美さんの決意には大賛成。消費税は来年10月からさらに2%増税されて10%になる予定だし、それでなくても政府の目論みどおりに物価は着々と上がっている。これって、「インフレの足音が聞こえる」っていう感じ!? 給料を上げる会社も増えてはいるものの、物価上昇分をカバーできるほど給料が増えるとはとうてい思えない。ここは財布のヒモを引き締めて、将来への備えを固めることが大切だ。

ただ、春美さんのように「月末に余ったお金を貯金しよう」とは考えないほうがいい。給料がそう増えないのに物価はだんだん上がるのだから、少しぐらい節約しても月末には「やっぱりお金が残らなかった」となるのは必至。そこでお勧めしたいのは、頑張らなくてもお金が貯まる仕組みをつくること。その方法は「先取り貯蓄」だ。

先取り貯蓄とは、給料から貯蓄分をあらかじめ引いて積み立てていく方法のこと。毎月振り込まれる給料は、すでに貯金を引いた後の金額なので、全部使っても大丈夫。こうした強制的に貯める仕組みをつくらないと、ここから貯金を増やすのは難しい。先取り貯蓄の方法のうち、特に会社員に最適なのが「財形貯蓄」だ。

会社員なら財形貯蓄を利用しよう

財形貯蓄は、法律に基づく福利厚生制度の一つで、勤務先がこの制度を導入していれば利用できる。この制度のある会社は多いから、一度ぐらいは案内を目にしたことがあるのでは? 「覚えがない」という人は、とりあえず周囲の人に聞いてみよう。

財形貯蓄をひと言でいえば、会社経由で金融機関に積み立て貯金をする仕組み。会社は毎月の給料から積み立て額を天引きして、金融機関に払い込む。申し込みも解約も会社を経由して行う。積み立てする金融機関は、会社が提携している銀行、保険会社、証券会社などの中から自分で選ぶ。会社によっては利子に上乗せしてくれることもあるので、詳しいことは会社の総務部などで聞いてみるといい。

なお、財形貯蓄と混同しやすいのが「社内預金」。給与天引きで積み立てるところは似ているが、社内預金は積み立てたお金を会社が預かる形だ。だから、会社が倒産したら社内預金は返ってこないこともある。財形貯蓄は会社経由で金融機関に預ける仕組みなので、もし会社が倒産しても、貯金がなくなることはない。その点で、社内預金より財形貯蓄のほうが安心だ。

「財形住宅」「財形年金」「一般財形」どれを選ぶ?

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3つの財形貯蓄の違い

財形貯蓄には、表のように「財形住宅」「財形年金」「一般財形」の3種類がある。このうち「財形住宅」と「財形年金」は目的限定タイプ。この2つを合わせて残高550万円までは利子が非課税になるメリットがある(目的に合わない解約のときは過去5年間分の利子に課税)。また、どちらも一部引き出しはできない。一方、「一般財形」は目的自由のタイプで預け入れ限度額はない。利子非課税のメリットはないが、始めてから1年経てば自由に引き出せる。なお、3つのうちどれを選んでも、住宅購入時に融資を受けられる仕組みがある。

30代の春美さんが選ぶなら「財形住宅」か「一般財形」。「財形住宅」は利子が非課税になるものの、現状の超低金利では魅力が薄い。とはいえ、5年、10年といった長期で積み立てるものなので、先々のことを考えれば特典はないよりあったほうがいい。一方、「一般財形」は一部引き出しができるので、ほかに貯金があまりない人は、まずこちらから始めてもいいだろう。

積立貯蓄は早く始めた人の勝ち

勤務先に財形貯蓄制度がない人は、銀行の積立定期預金を利用するのがお勧めだ。給与振込口座のある銀行なら簡単に手続きできる。実際のところ、利子非課税のメリットが少ない今は、財形貯蓄と銀行の定期預金との違いはほとんどない。また、財形貯蓄のメリットの一つである住宅資金融資にしても、今はもっと有利な銀行ローンを探すこともできるので、魅力が少なくなっている。

だが、財形貯蓄の最大のメリットは「手間がかからないこと」にある。会社で申し込むから昼間に金融機関に行かなくていいし、引き出すのも会社経由なので、ちょっとためらうのも隠れたポイントだ。つまり、財形貯蓄は「預けやすく下ろしにくい」。だからこそ、今までなかなか貯められなかった人や、これから本格的に貯金を始めよう、という人にピッタリなのだ。

「もっと得な預け先があるのでは」「投資信託のほうが有利じゃないの」と考える人もいるだろう。もちろん、自分でもっと有利な商品を探して迅速に動ける人なら、財形貯蓄を選ぶ必要はない。また、すでに貯金をたくさん持っている人なら、一部を投資信託で積み立てるのも有効だ。ただ、あれこれ迷っているうちにちっともスタートできないようでは、結局お金は貯まらない。積立貯蓄は、何より「早く始めた人の勝ち」だ。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。