なぜ女友だちとは、こんなに離れがたく、それでいて付き合いづらい存在なのか? プレジデント社新刊『女友だちの賞味期限』の出版にちなみ、各界で活躍する方々の「女友だち」についてのインタビューを再掲載いたします。第4回目は、ファッション通販会社、DoCLASSE代表取締役の林恵子さん。48歳で起業し、ウォール・ストリート・ジャーナルの「アジアで最も注目すべき10人の女性」にも選ばれた、今日本で最も輝いているビジネスウーマンの一人です。そんな林さんの、「女友だち」観は……。
――女友だちは、ご自分にとってどんな存在ですか?
なくてはならない存在ですね。いちばん古い友だちと言えば、18歳のとき以来の、大学からの友だちでしょうか。彼女は今は京都にいるので、距離はありますが、電話で話したりたまに会いに行ったり。
――けんかしたり、ぷつんと関係が切れたりしてしまったことは?
そういうことはあまりないですね。なんとなく前ほど頻繁に会わなくなるとか、そういうことはありますけれども。本気でけんかをするのは妹だけ(笑)。
――仕事や結婚で人生のいろいろな出来事があるなかで、同性友だちとの関係を維持するのが難しいと感じている若い女性が多いのですが。
友人関係も結局は縁だと思います。必要な人が、必要なときに登場するものだと思うんです。もし縁が切れたら、それはそれで、それぞれのお役目が終わっただけなんじゃないかと。たとえば、20年以上も、仲がいい人がいるんですが、その人とは、あちこちの仕事先で会うんです。ビジネスウーマンとして、同じように苦労しながらがんばってきている人で、仕事仲間でありながら、個人的な友人にもなっています。
「縁」といえば、30代の頃ずっと仲がよかったのに、たまたまその頃、少し疎遠になっていた人と、偶然、ある温泉場で出会ったことがあります。湯煙の向こうにいる裸の人に、どうも見覚えがあって、「ひょっとして……?」と。もう、びっくりしましたよ! 彼女とはかつて頻繁に会って食事をしたりしていたんですが、お互い新しい仕事の波に巻き込まれて、最近では、電話しても、「忙しいのね、がんばってね」なんて言い合うだけになっていました。それが温泉で、裸で出会っちゃった。
――ビジネスでできた友人と、個人的な友だちとの間に線を引きますか?
私の場合、友人関係には、公私の区別が全くないですね。生きるということは働くこと、そして生きるということは助ける、助け合うということですから、お仕事もしかり、友人関係もしかりだと思う。仕事がきっかけで知り合っても、親しくなれる人とは友だちになる。それを、仕事で知り合ったからって区別するのは、もったいない、というような気持ちですね。
友だちとの付き合いはどうしても仕事の合間を縫ってになりますから、いつも、話せるわけじゃないし、予定が合わなかったり、ずれちゃうこともある。でも、ある友だちのことをふっと思って、どうしてるかな、と思いついたら、すぐ電話するんです。「元気?」「たまにはみんなで会わない?」と。私はメールよりも電話ですね。
――それが上手な友だち付き合いのコツでしょうか。
コツ、というふうにはあまり考えないんです。ただ、私は人が好きなのかな。友だちの声が聞きたいと思ったら電話する。でも、一人でいるのも好きなんですよ。今日は誰にも電話しない、って決める日もあって、そういう日はたまにしかないから、すごく嬉しくて、本を読んだり、音楽を聞いたり。音楽さえ聴かないでぼーっとしたり。
――いわゆる「人脈づくり」みたいなことは気にかけていらっしゃいますか?
ビジネスのためには人脈作りをしないと! と思う方も多いようですが、私はあまり必要ないと思います。何かを教わりたいと思うとき、私に会ってくださる方は、教えてくださる気のある方、ご縁のある方なんですよね。必要なときに必要な人が、目の前に必ず出てくると思っているので、人脈を作ろうとがんばるより、目の前にいる、もう出会っちゃった人を大事にすることのほうにエネルギーを使います。
私は「今」というコンセプトをすごく大事にしています。今日一日を生き切る、ということは死に切る、ということでもあるでしょう。今という時間は本当にかけがえのないものなんです。だから、まだ会ったことのない人にがんばって会おうとするより、今、目の前にいる人との時間を大事にすることに専念したい。過去にも未来にも執着しないで、一瞬一瞬を大事にするのが理想ですね。難しいことですが。
――いつ頃からそういう哲学をお持ちですか?
私自身が苦しんだときです(笑)。40代前半で離婚をしまして、一人になって、考える時間ができたんですね。もちろん経営者ですから、会社では悩んでいるなんて顔に出しませんが、家に帰ると、私はいったい何のために生きているんだろう、と悩んだときがありました。その感情を整理するのに2年ぐらいかかったのですが、その過程で気がついたんです。過去と未来ばかり見ていてもだめなんだな、心のエネルギーのかけ方が間違っていたんだなって。そのときに、助けてくれる女友だちが出てきて、横にいてくれて、助けられました。これもご縁なのかなと思います。
人生の大きな流れが変わるときがあるでしょう? 私はランズエンドに入社した直後がそうでした。個人的なことがいろいろ変わったんですが、その頃に出会った女性たちとは本当に仲がいいんです。思えばあの時期は、私の人生に新しい人が現れてくる機会だったのかな、と思います。
――同じ目標に向かって進む友だちを見て、「あの人はうまくいってて羨ましい」と感じることってありますよね。
妬みや執着、怒りというのは、自分の心の中にある不安の裏返しじゃないでしょうか。成功している人がうらやましい、と思うとき、実際に見ているのは成功した人ではなく、自分自身なんですね。ということは、そういう気持ちを振り払うためには、自分の心の中を見てお掃除をするしかないわけです。
他人のことを「いいなあ」「羨ましいな」という気持ちが出るのは、自分の心の中に何か心配ごとや悩みがあるとき。そんなときは「ちょっと待って」と心を落ち着かせて、「私の花を咲かせればよくて、彼女は、彼女の花を咲かせて欲しい」と思うようにするんです。そうすれば豊かな気持ちになれますよ。
でも、聖人ではないから、怖いと思うときもある。そういうときは、なるべく、ひとりの時間を持つようにします。心を落ち着かせて、瞑想して、「今」に集中します。「あの人出世していいな、それに比べて私はこの先どうなるのかしら」と先のことを心配すると、あせる気持ちがでてしまう。そういうときは、今できることを考えて、彼女を助けてあげよう、という気持ちに切り替える。
実際に友だちに何をしてあげられるか、と考えると、必要なときに、誠意を持って話を聞いてあげることぐらいかな。あとは当たり前のことですが、自分がやってほしいと思うことを他人にもする、自分がやられたくないことはしない。そして、愛情をけちらないこと、ですね(笑)。
※このインタビューは『女友だちの賞味期限』初版発行時の2006年に収録した内容の再掲です。
1959年愛媛県生まれ。津田塾大学卒業後、アメリカ・オレゴン州立大学心理学部へ転入。1985年に帰国し、マテルジャパン、ディズニーストアジャパンを経て、1999年、米国最大手通販アパレルブランド、ランズエンドの日本支社長に就任。2007年、通販会社、DoCLASSEを立ち上げ、代表取締役に就任。現在カタログ会員数約80万人、首都圏を中心に8店舗の直営店を展開。日興アセットマネジメント社外取締役。キリン株式会社取締役。2005年、ウォールストリートジャーナル・アジア版で「アジアで最も注目すべき10人の女性」に選出される。