「東京ばな奈」は、バナナカスタードをスポンジケーキで包んだ、東京を代表するお土産。1991年に誕生以来、人気を維持できているのはなぜか。マーケティング戦略のプロ、黒澤友貴さんは「『東京なら、東京ばな奈』と迷わず選べる定番になれた理由は、名前・かたち・黄色を30年以上変えずに続けたこと以外にも深い理由がある」という――。

※本稿は、黒澤友貴・矢倉和雄『AI時代に差がつく マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

東京ばな奈
東京ばな奈(写真=Michael Ocampo/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

東京ばな奈の歴史と概要

基本情報理解――歴史・構想・数字を調べる

まずは、東京ばな奈の歴史を調べていきます(図表1)。

東京ばな奈は、1991年に誕生し、1990年代からは東京駅や羽田空港など、東京から地方へ移動する人の主要な移動動線に売場を広げてきたことがわかります。2010年代からは限定商品やコラボレーションを継続的に展開し、商品の幅を広げています。

このシーンを、30年以上前から押さえ続けてきているブランドであることがわかります。東京の移動インフラの進化に合わせて店舗拡大を行い、「東京土産の定番である」ための工夫をし続けています。

自分が顧客として、東京ばな奈を体験

顧客理解――自身の体験から、顧客の状況・行動・価値を捉える

歴史を押さえたところで、次は自分自身の体験を振り返ります。筆者(黒澤)は、大分県に妻の実家があり、長期休みの際には帰省をします。以前に親戚の人が集まる場があるので「東京ばな奈を買ってきてほしい」とお願いをされました。

東京のお土産を買ってきてもらいたいではなく、「東京ばな奈を買ってきてもらいたい」だったことに驚いたことを覚えています。「東京のお土産=東京ばな奈」という圧倒的なイメージが形成されていることを肌で感じた瞬間でした。

一方で、東京に住む筆者自身は、東京ばな奈を自分のために買ったことがありません。東京以外の地域に住む人にとっては、「絶対に外さない東京土産」として東京ばな奈が根づいていることを感じた実体験があり、ここからマーケティング戦略を考える仮説をつくっていきます。

東京土産そのものも変化してきた

社会の変化を理解する

ここからフレームワークの分析を進めていきます。まずはPEST分析からです。

フレームワークを埋めていく前に、外部環境の変化に関する仮説を考えていきます。ここで最初に考えつくのは、東海道新幹線の利用増加や空港インフラが整ったことによる国内旅行の拡大です。当然ですが、東京へ来る人が増えれば、東京土産を買う人も増えます。1991年に発売された東京ばな奈は、移動インフラの進化を通じた旅行・出張需要の拡大という大きな追い風を受けて成長したのではないか。

これは、もっともらしい仮説です。しかし、ここで1つ疑問が生まれます。同じ時代に、同じ東京土産市場で商売をしていたブランドはたくさんあったはずです。それなのに、なぜ東京ばな奈だけがここまで強いブランドになったのでしょうか。

追い風は同業他社にも同じように吹いていたはずです。差がついた理由は、変わりつつあった「土産に求めるもの」に応えられたかどうかにあるのではないか。この違和感も手がかりに、分析を深めていきます(図表2)。

4つの観点を比較すると、東京ばな奈にとって決定的だったのは、社会(Society)の変化だと考えられます。

「そもそも、私たちは東京土産に何を求めているのだろう?」

かつてのお土産には、その地域の名物や伝統を持ち帰るという意味合いが強くあったと考えられます。たとえば、東京であれば、雷おこしや人形焼のような商品が伝統的なお土産として有名です。

ところが、お土産売場で人気となっているものは、キャラクターとのコラボレーション、かわいいパッケージなどになっていることが店頭を観察するとわかります。

つまり、土産の価値が、「地域の名物を持ち帰る」から、「その場所で体験したことや発見を、誰かと共有する」へ広がっているのではないでしょうか(図表3)。

東京はバナナの名産地ではありません。

それでも「東京ばな奈」という名前を聞けば、多くの人は東京土産を思い浮かべます。特産品ではないのに東京土産として選ばれるということは、買う人が求めているのは「東京の名産」そのものではなく、「東京に行ってきた」ことを渡す相手に伝える手段だということです。

つまり、東京ばな奈は、地域の名物を商品にしたのではなく、「東京に行ってきた」と伝えるための商品として定着してきたと捉えることができます。

さらに、限定商品やキャラクターとのコラボレーションを継続的に展開し、その時代に合った商品を生み出してきました。

こうして考えると、東京ばな奈は、土産に求められるものが変わる中で、その時代に合った「東京土産」をつくり続けてきたブランドだと考えることができます。

東京ばな奈の競合は、菓子土産なのか?

業界構造と価値競合を理解する

次に、東京ばな奈の競合について考えていきます。5Forcesは、既存の競合・新規参入・代替品・買い手・売り手の5つの力で業界を見る枠組みですが、本書では「選ばれる理由」を読み解くために、同じカテゴリーの競合(業界競合)と、同じ目的を別の手段で満たすもの(価値競合)の2つに絞って見ていきます。

競合として最初にイメージしやすいのは、「東京の代表的なお菓子ブランド」です。東京たまご、N.Y.キャラメルサンドなどは有名ですよね。一方で、先ほど触れたお土産に求めることとして「その場所で体験したことや発見を、誰かと共有する」ことがあるとしたら、比較対象は東京限定の雑貨、キャラクターグッズ、そして東京駅で撮った写真のSNS投稿などまで広がります。

東京ばな奈は、「東京土産菓子市場」の中だけで競争しているわけではないと捉えることができます(図表4)。

こう捉え直すと、東京ばな奈が限定商品やキャラクターとのコラボレーションに力を入れ続けている理由も見えてきます。競争相手は、ほかのお菓子だけではありません。「東京の思い出をどう持ち帰り、誰かと共有するか」という視点で考えると、キャラクターグッズや限定商品なども、選択肢に入ってきます。

「誰が買っているのか」を具体的にしてみる

市場を分類し、重点顧客を定義する

では、東京ばな奈の重点顧客は誰なのでしょうか。

「観光客」「出張客」など、東京に来る人すべてが顧客となり得そうですが、もう少し詳細まで掘り下げていきたいと思います。

ここで、どの軸で顧客を分けるかを考えました。最初に思いついたのは、地域(東京在住か、地方在住か)で分けることです。ただ、この軸で分けても、東京ばな奈の選び方の違いまでは見えてきません。

そこで、2つの軸を置いてみました。

1つは、年齢層。もう1つは、商品の選び方(定番を選ぶか、限定・コラボを選ぶか)です。

2つの軸を置いたのは、売場で並んでいる商品を見ていて気づいたことがあったからです。定番の「見ぃつけたっ」と、キャラクターとのコラボ商品が、同じ棚に並んでいる。この2つは、明らかに違う人に向けて置かれているように見えました(図表5)。

顧客セグメントを4つに分けてみると、それぞれの顧客層が求めているものの違いがはっきりします。

① 初めて東京へ来た若い人にとって、東京ばな奈は「名前を知っているから外さない」選択肢です。

② 同じ若年層でも、コラボや限定目当ての人は、目的を持って売場へ足を運びます。買う相手は自分や親しい人で、SNSで発信することもあります。

③ ミドル層で職場や親戚へ配る人は、個包装と箱のサイズで選びます。誰に渡しても外さないことが、何より大事です。

④ 同じミドル層でも、子や孫に渡す人は、相手が喜びそうな柄や季節限定を選びます。

ここで気づいたのは、同じ東京ばな奈を選ぶ人でも、誰に渡すのか、何を求めるのかによって、お土産の選び方が大きく異なることです(図表6)。

年齢層や選び方が異なる顧客に向けて、ブランドや商品ラインを分けるという考え方もあります。たとえば、若者向けのサブブランドをつくったり、贈答用の商品ラインを設けたりする方法です。

一方、東京ばな奈は、同じブランドの中で、異なる顧客の選び方に対応しています。

なぜ、1つのブランドで幅広い顧客に選ばれることができるのでしょうか。

1つの答えは、バナナという素材の選択にあったと考えられます。「バナナが選ばれたのは、大人にとっては子どもの頃に憧れた舶来の味であり、子どもにとっては遠足などで親しんだ味だった」とのことです(※)。つまり、バナナは世代を問わず、それぞれの思い出と結びついている食材でした。

※ 出所:地球の歩き方ウェブマガジン「お土産の定番! 銘菓『東京ばな奈 見ぃつけたっ』誕生秘話と秘密のレシピを公開!」

1991年当時、東京土産の中心は、雷おこしや人形焼のような昔ながらの和菓子でした。一方で、子ども向けの商品もありましたが、幅広い世代が一緒に楽しめる東京土産は、まだ多くありませんでした。

そこに登場したのが東京ばな奈です。誰もが知っている「バナナ」をモチーフにすることで、特定の世代に限らず、幅広い人が親しみを持てる東京土産になったと考えられます。

この親しみやすさが、渡す相手の世代や購入目的が異なっても、「東京ばな奈」という1つのブランドが選ばれる理由の1つなのではないでしょうか。

東京ばな奈は「定番」なのに、なぜ古くならないのか

選ばれる理由と、価値の届け方を確認

ここで4P(マーケティングミックス)まで踏み込んで見てみると、選ばれている理由の仮説をより具体的に理解することができます。4Pは要素を並べるだけでは、「定番商品も出しているし、限定商品も出している」という当たり前の話で終わってしまいます。

そこで、先ほどの4つの顧客層ごとにどのような価値提供をしているかをまとめて整理し直してみました(図表7)。

4つの顧客層の4Pを比較すると、年齢による違いよりも、「定番を選ぶか」「限定・コラボを選ぶか」によって、商品や売り方に違いがあることが見えてきます。

そこで、ここからは「定番」と「限定・コラボ」の2つに分けて、4Pを見ていきます。

商品(Product)では、定番の「東京ばな奈『見ぃつけたっ』」が、個包装で配りやすく、誰に渡してもわかりやすい商品として設計されています。一方、限定フレーバーやIPコラボでは、味だけでなく、パッケージやキャラクターとの組み合わせ自体が選ぶ楽しさになっています。

価格(Price)でも、定番では「何人に配るか」を考えて箱の大きさを選びますが、限定商品では「この商品を買いたい」という一箱の体験として価格が判断されます。

売場(Place)は、東京駅・羽田空港・品川など、旅行や出張から「帰る直前」に買いやすい場所を押さえる一方、限定商品では、旗艦店や期間限定店など、わざわざ足を運びたくなる売場をつくっています。

プロモーション(Promotion)も同じです。定番商品は「東京ばな奈」という名前を見ただけで東京土産だと伝わる安心感があります。一方、限定商品はSNSやファンの発信を通じて、「今しか買えない」「こんな東京ばな奈もあるんだ」という話題を生み出しています。

つまり東京ばな奈は、4つの顧客層の異なる「選ぶ理由」に応えながら、4P全体で2つの価値をつくっています。定番商品では、「外さない安心感」。限定・コラボ商品では、「ちょっとした発見」。この2つを同じ「東京ばな奈」というブランドの中で両立させていることが、幅広い世代や目的で選ばれ続ける理由の1つだと考えられます。

東京ばな奈の強みは、定番商品で「外さない安心感」を保ちながら、限定商品やコラボによって、新しく選ぶ理由をつくり続けていることです。

東京駅や空港では、いつもの東京ばな奈の隣に、限定フレーバーやコラボ商品が並んでいます。定番を買いに来た人が限定商品を見つけ、限定商品を目当てに来た人が定番商品にも触れる。顧客に合わせて商品や売り方を分けながら、売場では互いが行き来できるようになっているのです(図表8)。

競合と比べると、この特徴がさらにわかりやすくなります。昔からある東京土産は、誰もが知っている「定番」である一方、大きく変わらないことにも価値があります。新しく登場するスイーツブランドは、「こんな商品があるんだ」という新しさがありますが、東京土産として広く知られるまでには時間がかかります。

東京ばな奈は、その間にいます。

「東京土産といえばこれ」という高い認知を持ちながら、限定フレーバーやコラボによって新しさをつくり続けている。

つまり、東京ばな奈は「変わらないから定番」なのではありません。変わり続けながら、定番であり続けている。

組む相手はディズニー、ポケモン、ちいかわ…

そこで今回、東京ばな奈のポジショニングを、「更新され続ける、東京の定番」と捉えてみました(図表9)。

では、東京ばな奈は何を変え、何を変えずに残してきたのでしょうか。

新しさを出し続けると、築いてきたブランドらしさが薄れる可能性があります。一方、何も変えなければ、新しく選ぶ理由が生まれにくくなります。そこで、歴代の商品やコラボレーションを並べ、「変わったもの」と「変わらなかったもの」に分けてみました(図表10)。

見てみると、変えている部分の大胆さに驚きます。味はキャラメルから白桃、抹茶まで広がり、組む相手はディズニー、ポケモン、ちいかわ、ドラえもんと変わり続けています。

2020年には全国のセブン‐イレブンで販売し、近年はコアラのマーチやフルグラなど、他社の商品の中にまで入っていきました。「東京みやげ」という前提すら、一度は外しているわけです。それでも、変えていないものがあります(図表11)。

「東京ばな奈」という名前。バナナのかたち。黄色を基調とした売場と箱。バナナクリームという中身。そして「見ぃつけたっ」という、開けるまで柄が分からない体験。

変えない軸がはっきりしているから、変える部分が「ブレ」ではなく「発見」として受け取られる。「変えないもの」と「変えるもの」をはっきり分けるやり方は、ほかのブランドが簡単には真似できません。新しいブランドには、「これが東京ばな奈らしさ」と多くの人に覚えてもらえているような要素がまだなく、何を変えずに残すべきかが定まりません。

一方、歴史のある老舗は、味や見た目を変えること自体が「昔と違う」と受け取られ、ブランドを傷つけやすい。守るものがはっきりしていて、なおかつ変え続けられるブランドは、実は多くないのです。

東京ばな奈が選ばれ続けている理由

施策同士のつながりを理解する

東京ばな奈が選ばれ続けている理由を整理していきます(図表12)。

つまり、東京ばな奈が人気であり続けている理由は、「ネーミングが良い」「主要な駅に売っている」「コラボが上手」といった個別の要因だけでは説明ができません。

定番が売れ続けているから、新しい商品にも挑戦できる。その挑戦が、東京ばな奈を「昔からあるお土産」で終わらせない。この循環そのものが、選ばれ続けている理由なのではないか――ここまで考えると、街で目に入る定番のお土産が、いくつものマーケティングの工夫から顧客に選ばれる理由につながっていると考えられます。

東京ばな奈が「ど定番」になった3つの理由

今回のトレースから見えてきた、東京ばな奈がど定番になった理由を3つに整理します(図表13)。

1つ目は、バナナという素材が持つ「全年代への親しみ」です。

名前・かたち・黄色を30年以上変えずに続けてきたことで、「東京なら東京ばな奈」と迷わず選べる定番になりました。バナナという素材も、大人には子どもの頃に憧れた舶来の味、子どもには遠足で親しんだ味として、渡す相手の年齢を選ばない安心につながっています。

2つ目は、定番なのに飽きさせない仕掛けです。名前や形、黄色を基調とした見た目は守りながら、味やパッケージ、コラボレーションには新しさを加えてきました。定番らしさを守りながら、飽きられない工夫を続けているのです。

黒澤友貴・矢倉和雄『AI時代に差がつく マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版)
黒澤友貴・矢倉和雄『AI時代に差がつく マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版)

3つ目は、「東京土産」としての意味をつくったことです。東京ばな奈は、東京で採れた食材を使った商品ではありません。それでも、「東京」の名前を掲げ、東京駅や空港などで販売を続けることで、「東京に行ってきた」と伝える土産として定着していきました。

もともと東京の特産品ではなかったバナナを、「東京ばな奈」という商品を通じて東京土産として定着させた。その積み重ねによって、東京を代表する土産ブランドの1つになったと考えられます。

この3つが重なって、「誰に渡しても外さない、それでいて古びない」土産になりました。「30年をかけて、東京土産の新しい定番の形をつくってきたブランドである」といえるのではないでしょうか。