未知の能力を発掘する知恵
宇野千代は“能力”を信じ続けた人でした。自分の才能はもちろんのこと、人はだれしも無限の能力を持っているのだと、著書の中でたびたび語り続けました。
そうしたポジティブな考え方のはじまりは、千代が女学校卒業後に最初の仕事とした小学校の代用教員の頃からといえるでしょう。
千代は成績がふるわない子どもたちのことも全力でほめ、それぞれのよい特性を引き出して伸ばすという教育を実践しました。このときの心持ちを述懐して後年言葉にしたのが、「今、あなたの上に現れている能力は氷山の一角。真の能力は、水中深く深く隠されている」という名言です。
おそらく千代はこのように読者に呼びかけながら、自分にも言い聞かせて、自身を鼓舞してきたのではないでしょうか。仕事の報酬が目的ではなく、働くこと自体が目的だったと記しています。
仕事を通じ、自分で自分をポジティブでクリエイティブな人間に「育て」続けたのでしょう。
才能は自分で作り上げるもの
結婚やビジネスの失敗、3度におよぶ大病。波乱万丈な人生の中にあっても、いつでも千代の生きる力となったのは仕事でした。
作家として、デザイナーとして、経営者として、自分の無限の可能性を信じ、常に新たな「物づくり」に挑み続けた千代。才能は生まれつきではなく、自分で育て、作り上げるもの。「あなたが今、三十歳であろうと、六十歳であろうと、八十歳であろうと」年齢は関係なく、すべての人、すべての年齢の人について言えることだと勇気づけます。
39歳で日本初のファッション誌『スタイル』を創刊し、最先端のトレンドと華やかな誌面づくりで大ヒット。52歳のとき、着物デザイナーとして活動を始めると、今度はその斬新なデザインが大反響。心を動かされたものを見過ごさず、的確にキャッチし、自らの手で新たな価値を生み出すことこそ、千代の真骨頂でした。
感動を行動に移し、夢中になって取り組むことが、新たな喜びと可能性をもたらすという信念が、千代の創作活動を貫いていました。
人の能力は無限である
だれもが与えられた使命を持って生まれてきたと固く信じた千代。才能の花は手当て次第でどこまでも伸びるのだと説きました。
日の当たるところへ出してときどき水をやり、栄養分を与えることで、どこまでも無限に人の能力は伸びていく。勝負はここで決まるのだ、と。
〈宇野千代の言葉〉
私には能力があるのだ、力があるのだ、とそう信じて、ひたすらに努力する、精進する。そういう人にこそ、才能の花は開くのですね
〈宇野千代の言葉〉
人の中には、ダメな人は一人もいないものである。人と人との相違は、その人が自分のよい芽をひらかせるような気でいるか、あるいは摘み取ってしまうような気でいるか、その違いである
「親しき仲こそ、礼儀あるべき」が信条
宇野千代は、コミュニケーションの達人でもありました。だれと接するときも、相手を決して否定せずフラットに応じ、やさしくやわらかい言葉をかけるのが常でした。
「親しき仲こそ、礼儀があるべき」を信条とし、家族や親友、恋人、夫、周囲の人に対しても「お互いに相手の傷にさわらない」配慮の人。「何もかもあけすけに見せたり、ありのままの気持ちを隠さぬのが親しき仲とされていますが、これは、まったく別のことであるべき二つのことを一緒にしている」とバッサリ。
「自分と相手は別の人間である」という確固たる自他境界の線引きを忘れませんでした。「男女の仲のことは五分五分である」とし、男女間においては未練や恨みつらみ、執着を捨て、冷静さが肝要だと説きました。
また、人間関係ははかなく壊れやすいことを知っていた千代。人づきあいにプライドは不要、どんなに悔しいことを言われても、その場では感情をおさえるよう戒めています。
「人間関係というものは一度、こわれてしまえば、修復するエネルギーは、いっとき我慢するエネルギーの何十倍も必要」と信じ、よい人間関係を続けることに心を砕いた人生でした。
人づきあいの最低限のルール
ふだんから「時間を守ることは、人づきあいの上での最低のルールである」とも。常に相手を尊敬し、配慮を忘れず、楽しいことや幸福をシェアし続けた稀有な人。だれもが宇野千代という「愛のあるところ」に集まり、心やすらぎ、安心感に包まれたのです。
長寿を全うした千代は、弟や妹、元夫たちに先立たれましたが、最期まで孤独ではありませんでした。36年間秘書を務め、心を通わせた藤江淳子をはじめ、70歳で設立した会社のスタッフたちを、千代は「家族」と呼び、大切にしました。
また、千代は若い頃から面倒見がよく、周囲の女性たちの幸福を自分のことのように喜ぶ温かさを持ち合わせていました。女性同士が競い合うのではなく、互いを尊重し、支え合い、喜びを分かち合うシスターフッドの精神が息づいていました。
華やかな恋愛遍歴が注目されがちですが、そんな女性たちの連帯が、肉親を失った後も千代の人生を豊かに彩り、晩年まで人とのつながりを育み続ける力になったのです。
相手は自分を映す鏡である
「男と女のことは五分五分である」と説いた千代。人と人同士の相互関係において、相手は自分を映す鏡である。しかし、自分とは別個の他者に対して、わかった気になってはいけない。このモットーを千代は生涯貫き、くり返し読者に語りかけました。
Q. 相手が受け入れてくれない
A.〈宇野千代の言葉〉
相手があなたを信じてくれない、と思うのは、あなたが相手を信じていないからなのです。
どんなに愛し合った恋人同士でも夫婦でも、相手には相手の領域というものがあります。この「他者領域」に敬意を払うことが、健全な人間関係を築くコツであると、千代は何度も綴りました。これは千代自身が経た数多くの苦い経験から生まれたモットーです。
Q. パートナーの浮気を疑っている
A.〈宇野千代の言葉〉
ヤキモチで気持ちがこんがらがって、整理がつかない。私が冗談に、「愛の交通整理」と名前をつけていることは、お互いに「一方通行」を守ることである。
Q. 相手の秘密を知ってしまった
A.〈宇野千代の言葉〉
せんさくしてよい結果が得られることはほとんどありません。傷口をひろげるだけです。傷口は突っつかないようにすることが肝腎。突っついている間は、傷はいつまでも生きているのです。
