なぜ女友だちとは、こんなに離れがたく、それでいて付き合いづらい存在なのか? プレジデント社新刊『女友だちの賞味期限』の出版にちなみ、各界で活躍する方々の「女友だち」についてのインタビューを再掲載いたします。トップバッターは、精神科医の香山リカさん。多数の著書を通じて独特の観点から現代を切る香山さんにとって、「女の友情」とは。
香山リカさん
――大学教授として身近に見る「今の大学生の友だち付き合い」を、どう分析しますか。

恋愛のことはこの子に相談する、学校のことはこの子と話す、という感じで、ちょっとずつ付き合って、すべてを分かち合うことを友だちに求めない。テーマごとに友だちを変える学生が多いですね。私の若いときとは違うなと。私は友だちができたら、親のことでも学校のことでも、なんでもその人と悩みを話し合いましたから。

――今の子がそういう友だち付き合いをするわけは?

ある人と全人格的な付き合いをすると、その人とうまくいかなくなったら、全部を失ってしまう。それは大変な痛手です。その人に傷つけられて、全否定されたように感じる。それを回避するために、たくさんの受け皿というか、友だちを用意している。そうすれば、「全部話したのに裏切られた」という痛手が少ないでしょう。お互い傷つけたくないし、傷つけられたくないという今の若い人の人間関係の典型です。

友だちの数が100人いるとか言う子もいますが、友だちの定義も変わってきています。プリクラを一緒に撮っただけとか、ワンテーマだけの付き合いですね。友だちと言ってもお互いの家族構成も知らないとか。

――人格の形成途中である若いときに、そういう人間関係ってどうなんでしょう。

人間同士ぶつかりあってという経験が乏しいですね。ちょっとずつ付き合ってぱっと離れる。男性との恋愛を通して初めて他者と深く向き合ったという人がけっこういます。すると、彼に自分のことを全部話せるのが心地よくて、彼氏に、友だちの役割、お母さんの役割まで求めるようになり、全面依存になってしまうこともある。

それまで自分のすべてをさらけ出す経験がないから。恋愛でなく、子育てしていて、子どもに全面依存になってしまう人もいます。そうなる前に、深いコミュニケーションの取り方を、先輩とか友だちとかとトレーニングしておかなくちゃいけないんじゃないでしょうか。だから女性にとって女友だちは重要だと思いますね。

――女性誌などでは定期的に「友だち特集」を組みますよね。友情の大切が見直されているのでしょうか。

従来は、多くの日本人にとって「企業」が家庭みたいなもので、同僚が友だちでもあり、家族でもありだったのが、今は壊れている、そういうことじゃないでしょうか。それに、ホリエモン事件のようなことが起きると、彼に友だちはいたのか、彼の以前の同僚が、彼の悪口を言ったりするのを見て、お金があってもむなしいんじゃないかと、みんな気がついてきている。

――ホリエモンには、「お金で買えないものはない」という有名なセリフがありましたが……。

友だちは買えないってことにみんな気がついたんです。あれだけ華やかで、なんでも持っているように見えた人が、傍から見れば友だちがいなくてすごく孤独に見える。本当のところはわかりませんけどね。そういう中で、恋愛の対象とか仕事の関係じゃない、同性の友だちとの友情が必要なんじゃないか、という。

――どうしたら価値のある友情を築けるんでしょう。

女性は、社会的にはマイノリティというか、弱い立場にあるわけですから、女性同士で助け合って、一緒に乗り越えていかなくてはならない問題がたくさんあると思うんです。それなのに、お互いの間の微妙な差異を、ものすごく深刻に受け止める。

たとえば、私も取材して書いたことがある、不妊治療を受けている女性たちは、同じ悩みを抱えた仲間同士で、仲良く励まし合っていると思うかもしれませんが、彼女たちの間では競争があります。「私はできたけどあなたはできない」とか、「1人目不妊」と「2人目不妊」の違いとかで、警戒しあって、冷たい視線を送りあって、足を引っ張り合ったりしていて、そういう状況では友情はまったく生まれないという現実があります。

雅子さまと紀子さまも、民間から皇室に嫁いだたった2人の女性という共通点があり、協力しあいそうなものなのに、報道されている限りでは、仲良くやっているようには見えなません。むしろ、お二人の違いが際立っている。それが象徴していますよね。

『女友だちの賞味期限』プレジデント社刊
――この本には、女友だちが自分に同化して、同じ服を着たり、人に自分が言ったのと同じことを言ったり、しまいには彼を取ろうとするので、気持ち悪くなってくる、という話があります。

同一化、あるいは、心理学では凝集化というんですけれども、自分一人では自信が持てないので、似たもの同士で集まり、同じファッションとか、同じ化粧をすることで、社会に対していくということがあります。そうしながらも、個性化したいという欲求もあり、個性化しながら他の人と比較する。だから自分が上に立てる材料を探す。みんなのお父さんの車はカローラだけどうちはBMWだとか、そういうつまらないことで、違いを見つけようとしたりします。

でも、これから、シングルのまま都会で働いて暮らす女性がますます増えて、そういう女性が高齢になって、家族や親戚もいないままで、病気になったり、入院したら、遠くの親戚より近くの女友だちが、お互い助け合わなきゃならない時代になります。

――香山先生の理想の友だち像は?

出入り自由の関係かな。お互いの人生の中で、時期によっては、異性に気持ちがいくとか、仕事で忙しいとか、そういうことで一時、疎遠になることってありますよね。でも、また、いつでも戻れるような、そういうゆるい関係でしょうか。そのために大事なのは、私が友だちとすごく会いたいと思っても、相手が忙しくてちょっと会えないと言われたら、「嫌われた」とか極端に考えない、一喜一憂しない、という態度。

そして、独善的にならないことです。たとえば、子どもがいる女性といない女性の関係は難しい。先日ある人が、一緒にケータイを買った友だちが、毎日、自分の子どもの写真を送ってくると言ってました。嫌がらせのつもりでもなんでもなくて、本当にうちの子がかわいいから見せようという、ただそれだけ。それはわかるけど、毎日だから、返す言葉も「かわいいね」のバリエーションが切れて、困っている。

子どものいないほうも、お返しに、「私はこうやって楽しく毎日働いて、飲みに行ってるのよ」「今日もこんな男と会っちゃった」、という写真を毎日撮って送ればいいと思うんですけど(笑)、それはやっぱり、社会的に許されないでしょう(笑)。

――どうすればその溝が乗り越えられるんでしょう。

長い目で見ることができれば。子どもだってかわいいばっかりじゃなくて、母親が悩む時期が来るかもしれないし、仕事だってリストラにあうかもしれない。そのときに「前にあんなことをしちゃったから、恥ずかしくて前の友だちにいまさら連絡できない」なんて言わないで、素直に連絡する。もう1人のほうも受け止める。寛容であることが、友情には大切だと思います。

――香山先生ご自身は、女友だちとの関係で難しいと思ったことはありますか。

大学のとき、医学部だったので女性が少なくて、勉強は大変だし、女性同士力をあわせて、という感じで仲良くなりました。でもその中で、2人の友だちが1人の男性を取り合って……。私はその両方に、いい加減に相談に乗ったりして、いづらくなったことがあります。今は普通に、どちらとも連絡取り合っていますけど。時間がたつというのがありがたいことなんですね。卒業して20年以上して、お互い年をとると、人生いろいろというか。

心理学者の小倉千加子さんが前にエッセイにこんなことを書いておられました。同窓会に行くと、30代ぐらいまでは、結婚して子どもがいる女性が勝ちという感じで、子どもを連れてきたりする。でも、50代になったら逆転して、「独身なんでしょ、いいわね」「いい仕事してるんでしょ」、なんて言われて羨ましがられる、と。

20代の女性に、「人生長いんだから、50代になるまで待ってごらん」、と言っても、実感がないでしょうけどね(笑)。

※このインタビューは『女友だちの賞味期限』初版発行時の2006年に収録した内容の再掲です。

香山リカ(かやま・りか)
1960年北海道生まれ。東京医科大卒。豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心に、政治・社会評論、サブカルチャー批評などさまざまなジャンルで発言を続けている。専門は精神病理学。『ぷちナショナリズム症候群』(中公新書ラクレ)、『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)、『なぜ日本人は劣化したか』(講談社現代新書)など、著書多数。近著は『できることを少しずつ』(毎日新聞社)、『若者のホンネ』(青春出版社)など。