独身者が結婚をためらうのは、なぜか。『なぜ出会いは増えたのに結婚できないのか マッチングアプリ創業者がデータで明かす、選ぶ技術・選ばれる技術』(光文社)を出したマッチングアプリ事業家の上條景介さんは「独身者の多くが結婚に高いハードルを感じるのは、結婚を“一生もの”と捉えているからだろう」という――。
結婚式
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調査が示す結婚の“最大のハードル”

第16回出生動向基本調査によると、独身者に「1年以内に結婚するとしたら、なにか障害になることがあるか」と尋ねたところ、男女ともにおよそ7割が「ある」と答えている。

そして、その障害として圧倒的に多かったのが「結婚資金」だ。4割を超え、2位以下を大きく引き離している。「結婚生活のための住居」や「職業や仕事上の問題」といった、お金にまつわる理由も上位に並ぶ(図表1)。

本書『なぜ出会いは増えたのに結婚できないのか』の第1章でも触れたが、ここには「結婚とはお金がかかるものだ」「結婚するならしっかりしなければ」という思い込みがあるように思う。

確かに、結婚にはまとまった費用がかかる場面がある。結婚式、新婚旅行、婚約指輪や結婚指輪、引っ越し。だが、これらはどれも「やってもいい」だけで、「やらなければならない」ものではない。

結婚に踏み切れない独身男性のホンネ

経済的な理由で結婚に踏み切れないというのは、実際のところ「結婚とはこうあるべきだ」という思い込みや、親族の期待、世間体への見栄から来ていることが多い。

耳にタコだと思うが、結婚を先延ばしにすれば、婚活市場での価値も、妊娠の可能性も下がっていく。そのリスクを天秤にかけて、本当に意味のある先延ばしなのか、一度考えてみてほしい。

もっとも、この調査は独身者全体を対象にしたものだ。この本を手に取り、マッチングアプリに毎月数千円を払えるあなたは、そこまで経済的に困っているわけではないだろう。アンケートに答えた人たちも、半ば言い訳として「結婚資金」を選んだ面があるんじゃないかと、僕は思っている。

というのも、僕が恋人のいる独身者、特に男性から結婚の相談を受けるとき、本当の理由として挙がるのは、もっと別のものだからだ。

自由を失いたくない。責任を負いたくない。間違った相手を選ぶのが怖い。離婚したときのリスクが怖い。

こうした悩みを聞くたびに思うのは、多くの人が、結婚を重く考えすぎだ、ということだ。

「夫婦は一緒に食事をすべき」なのか

そもそも、結婚しても、夫婦2人で暮らしているうちは、独身時代とたいして変わらない。専業主婦になる女性は減っているし、どちらかの親と同居する家庭も今や少数派だ。

共働きの2人が、夜に同じ家へ帰ってきて、同じベッドで眠る。ただそれだけ。形だけ見れば、同棲しているカップルと何も変わらない。違うのは、「夫婦」という公の肩書きがついたことくらいだ。

僕の場合、平日に妻と一緒に食事をすることもない。妻は、夫に料理を作って一緒に食卓を囲む夫婦像を思い描いていたようだが、僕のわがままで、一緒に食事をするのは月に数回だ。仕事がある中、夕食の時間に帰宅を強制されるのがいやだったし、ドラマで描かれる夫婦喧嘩のほとんどが「食事を作って待っていたのに夫が帰ってこない」というものだったからだ。

喧嘩の火種は先に取り除く。それが僕の作戦である。

ここで言いたいのは、「夫婦は一緒に食事をすべきだ」という、当たり前に思える前提でさえ、実は自分たちで選べる変数だ、ということだ。世間の夫婦像に合わせる必要はない。

結婚に「一生の覚悟」を求める世間の常識

もちろん、子どもができてからは、毎晩遅くまで働いて夜中に帰る生活は難しくなった。だがそれは結婚したからではなく、「子どもを授かる」という別のステージに移ったからだ。

それなのに、独身者の多くが結婚そのものに高いハードルを感じるのは、結婚を「一生もの」と捉えているからだろう。

一生添い遂げる相手だと思うからこそ、重い責任や、「本当にこの人でいいのか」という迷いが生まれる。いわゆるマリッジブルーだ。僕は、婚姻率が下がっている一因は、結婚式で神父が問いかける「健すこやかなるときも、病めるときも……その命ある限り、愛することを誓いますか」という、あの一言にもあるんじゃないかと思っている。

新郎新婦の手に手を重ね、祝福している手元
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かつての日本では、終身雇用が当たり前だった。大学を出る若者は、定年まで「一生」働くつもりで会社を選んだし、その前提があるからこそ、同じ会社の中で社内政治や出世競争が生まれた。

だが、今の20代に終身雇用の感覚はない。合わなければ3年でやめて転職することを、多くの人がためらわない。だから出世にもしがみつかないし、大企業だけでなく、スタートアップへの就職や起業も、当たり前の選択肢になった。

そう考えると、結婚は人生で唯一、「一生」の覚悟を求められるイベントになってしまっている。これまでも、これから先も、一生をかけた決断を迫られるのはこの時くらいなのだから、そこに大きな恐怖が生まれても、何ら不思議はない。

「結婚は2年更新でいい」の利点

しかし、だ。その恐怖を乗り越えて、一生添い遂げる覚悟で結婚したとしても、現代では一定の確率で離婚する。だとしたら、本当に「一生の覚悟」なんて必要なのだろうか。

結婚指輪を外した手で、離婚届とペンを差し出している人
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実は僕は、プロポーズのとき、妻にこう伝えている。「残念ながら、一生の誓いはできない。2年更新のつもりで結婚してほしい」と。

たぶん、これを読んだ大半の人が引いたと思う。大丈夫、妻もちゃんと引いていた。

だが、これは僕なりに真剣に考えた末の答えだった。そもそも僕は、それまでの35年間で、一生を縛る意思決定をしたことがなかった。

30歳で起業したときでさえ、共同創業者とは「とりあえず3年、寝食を忘れてやってみよう」という約束で会社を立ち上げた。だから、残りの人生をまるごと縛る長期契約に、簡単には踏み切れなかった。

そこで苦肉の策として出てきたのが、「2年更新」という発想だった。

これが、僕にはしっくりきた。期間を区切ったことで決断のハードルがぐっと下がったし、「2年後に更新を断られないように」という意識も働くようになった。

モラルハザードを生む“無期限”契約

あれから5年以上が経つが、少なくとも今の僕に、妻と離婚する気はさらさらない。おそらくこの2年契約はあと数十回更新され、最終的には一生ものの契約になるのだろう。

上條景介『なぜ出会いは増えたのに結婚できないのか マッチングアプリ創業者がデータで明かす、選ぶ技術・選ばれる技術』(光文社)
上條景介『なぜ出会いは増えたのに結婚できないのか マッチングアプリ創業者がデータで明かす、選ぶ技術・選ばれる技術』(光文社)

唯一の気がかりは、いつか妻のほうから更新拒否を通告される可能性が、割と高いことくらいだ。

この考え方を恋人に話してどう受け取られるかは保証できないので、無理に伝える必要はない。だが、一生の決断に迷っている人には、この発想を強くおすすめしたい。

どれだけ一生の愛を誓っても、別れる時は別れるからだ。

それに、終身雇用と同じで、無期限の契約はモラルハザードを生む。一生離婚されないと思っているから、相手をないがしろにして傲慢ごうまんになる。一生離婚できないと思っているから、冷え切ったまま仮面夫婦を続ける。

それよりは、2年ごとに更新される契約だと思って、お互い努力して関係を続けようとするほうが、よほど健全だ。