「いい人がいない」マッチングアプリ時代
マッチングアプリの最大の功績は「たくさんの人に出会えるようになったこと」であり、同時に最大の罪は「出会えすぎてしまうこと」だ。
マッチングアプリなど存在しなかった、もしくは使ったことがなかった高校生の頃を思い出してほしい。僕は共学の学校しか知らないが、同じクラスや部活動に好きな人がいた人は多いはずだ。付き合っていた恋人と将来結婚することを夢見て、同じ大学を受験したり、一緒に上京した人もいただろう。
考えてみれば不思議な話だ。1クラスはせいぜい40人程度。恋愛対象になる相手は極めて限られている。それでもあの頃は、ほとんどの人が誰かに恋をしていた。中には3年間で複数の恋人ができた人もいる。好きな人を体育館の裏に呼び出して、玉砕したあの頃が懐かしい。
一方で今はどうか。
マッチングアプリを開けば、条件を入力しただけで数百人の相手が画面に並ぶ。少し努力をすれば、週に1回は違う誰かと食事デートができる。あの頃は好きな人と一緒に下校するだけでも一大イベントだったのに。
それなのに、結婚しない・できない理由を聞くと、皆が口を揃えて「いい人がいない」と答える。飲み会の席では「誰かいい人いない?」という言葉が、今でもそこら中で飛び交っている。
「いい人がいない」とは一体何なのか? 選択肢は十分すぎるくらいあるはずだ。本稿では、この本『なぜ出会いは増えたのに結婚できないのか』の最大の目標である「結婚」について、その実現方法を検討していく。
「ご縁任せ」は余裕があるときの話
「いい人」を見つけるために、最も大事なことは、自分の中でルールを持つことだ。この点について詳しく解説する。
最初に断っておくと、これから言うことは、あなたが20代前半で、結婚にまだ焦りを感じていないなら、今すぐ実践する必要はない。若いうちは、自由にいろんな人と出会って恋愛経験を積むこと自体に価値がある。
それに、正直に言うと、僕自身は恋人を決めるとき、本来は直感を大事にするタイプだ。理屈で相手を選んだことはあまりない。しかも不思議なもので、「別に恋人なんていらないな」と思っているときほど、いい人に出会ってきた。肩の力が抜けているから、相手のよいところが素直に見えるし、こちらにも余裕があるから魅力的に映るのだろう。だから本当は、ルールだのと言わず、ご縁に任せて生きろ、と皆さんにも言いたい。
ただ、それは余裕があるときの話だ。
「期限」か「人数」で区切れ
「そろそろ結婚したい」「この歳までには」と思い始めた瞬間、人は焦り出す。焦ると、あれだけ機能していた直感が、途端に鈍くなってくる。目の前の相手のあらばかりが気になったり、逆に条件だけで飛びついたり、判断がブレ始める。
だからこそ、あなたが20代後半以上で、本気で結婚を目指しているなら、自分の直感を過信せず、あらかじめ「ルール」を決めておいたほうがいい。
ルールといっても、難しいものではない。要は「付き合う相手をどのタイミングで決めるか」を、婚活を始める前に考えておくということだ。
選択肢は2通りある。「3カ月以内に付き合う人を決める」のように期限で区切るか、「10人会ったら、その中から決める」のように人数で区切るか。どちらか一方でいい。自分の性格に合うほうを選べばいい。
では、なぜわざわざ区切る必要があるのか。
「秘書問題」理論が示す大事なプロセス
意思決定の世界に「秘書問題」という有名な理論がある。
1人の秘書を採用するのに、応募者10人を順番に面接し、その場で採否を即決しなければならない。一度断った人は呼び戻せない。さて、何人目で決めれば最も優秀な人を採れるか、という問題だ。
数学上の答えは、最初の4人(正確には全応募者の37%)は基準を測るために見送り、それ以降で、それまでのベストを超える人が現れたら迷わず決める、というものだ。
ここで大事なのは答えそのものより、この理論が成り立つ前提のほうだ。秘書問題は「応募者の総数が決まっている」からこそ解ける。前提条件があるから、どこで決めるべきかを計算できる。
ところが現代の婚活には、この前提条件がない。アプリを開けば相手は無限に湧いてくるように見える。終わりが見えないから、いつまでも「まだ途中だ、もっといい人がいるはずだ」と基準を確定できず、スワイプが続く。
僕は定期的にマッチングアプリユーザーにインタビューをしているのだが、過去に数十人と会っているのに、いまだに結婚できていないという人がたくさんいる。中には、100人や200人の相手と会ったという人もいた。
加齢で“商品価値”が下がる事実
期限や人数を決めるというのは、要するに、問題を解くための前提条件を設定する作業なのだ。終わりを設定して初めて、人はまともに決められるようになる。
本書の第2章で先述した、永遠に次の候補を探し続けてしまう「青い鳥症候群」に陥らないためにも、極めて大事なプロセスである。
ここで、こう思った人もいるだろう。「区切ったら、その先にいるかもしれない運命の人を逃すんじゃないか」と。
気持ちはわかる。だが、それは違う。見送り続けて基準を上げすぎると、その基準を超える人が次に現れる保証はなく、結局誰も選べないまま終わるリスクのほうが高い。しかも、婚活においては、加齢とともに自分の商品価値が毀損していくという、抗えない事実もある。
決めないことは、慎重なのではない。ただ、選ぶことを先延ばしにしているだけだ。そうして決めきれずにいるうちに、条件を上げるどころか、選択肢そのものが年々狭まっていく人を、僕はこの10年でたくさん見てきた。
結婚ピークは平均初婚年齢を下回る
最後に、参考となる数字を二つ提示しておきたい。日本の平均初婚年齢は、男性31歳、女性30歳。この数値を一つの基準にしている人も多いと思う。
ところが、厚生労働省の人口動態統計を見ると、2024年に初婚を迎えた人が最も多かった年齢は、男性27歳、女性26歳だ。平均が30歳前後まで上がっているのは、40代以降の初婚が全体を引き上げているからで、「一番多くの人が結婚する歳」は、実はもっと若い。
平均が30歳前後だからといって、30歳以降の結婚を目指していては、すでに旬の時期は過ぎているのだ(図表1)。
また、IBJ結婚みらい研究所の分析によると、婚活において10人を超えるお見合いしたとしても、成婚率に変化はないという。つまり、これ以上の人数に会うのは、時間の無駄になる可能性が高いことを示している。
もしあなたが初婚のピーク年齢を過ぎているなら、あるいは1〜2年のうちにその年齢を迎えようとしているなら、「いつか、いい人がいたら」という待ちの姿勢から、そろそろ抜け出したほうがいい。期限、もしくは人数を決め、自分の手でゲームの終わりを設定する。さもなければ、永遠にクリアできない未来が待ち構えている。
