実りの秋には危険もある
気象庁の「時に関する用語」によれば、秋は9月・10月・11月の3カ月間を指すそうだ。これに従えば、今はまさに秋本番と言うことになる。
そして、秋本番ともなれば、さまざまな美味しい秋の味覚を楽しむことができる。たとえば、サバ、サンマ、サケ、ブドウ、ナシ、栗など枚挙にいとまがない。
しかし、いくら美味しい秋の味覚とはいえ、食べ過ぎると、健康を害する危険性があるものもある。たとえば、ぎんなんだ。
東京都保健医療局の「食品衛生の窓」の「ギンナン(イチョウの実)(イチョウ科)」によると、一度に大量のぎんなんを食べ過ぎると、おう吐、下痢、呼吸困難、けいれんなどの中毒症状が現れることがあるという。同ページには、ぎんなんを約7時間かけて50個ほど食べた3時間後に全身性けいれんを起こした1歳男児のほか、60個食べた4時間後からおう吐・下痢・両腕のふるえを起こした41歳女性などの具体例が挙げられている。
食べ過ぎると、健康を害する危険性がある秋の味覚はぎんなんだけではなく、他にもある。それは“柿”だ。近年の研究によっていくつかの健康効果をもつことが明らかになってきた一方、食べ過ぎると健康を害する恐れがあるとされている。詳しく見ていこう。
血糖値やコレステロールにも…柿の健康効果
柿に健康効果があるのか? と意外に思われる方も多いかもしれない。しかし、実は、柿に含まれる柿ポリフェノールや柿タンニンなどには、健康効果があることが近年の研究によって明らかになってきている。
まず、近畿大学の研究チームが柿に含まれる柿ポリフェノールに食後血糖値の上昇を抑制する効果があることを明らかにした研究成果を紹介しよう。
柿ポリフェノールを与えたボランティアと与えなかったボランティアに、糖の1種を与え、血糖値を測定した。すると、柿ポリフェノールを与えたボランティアは、与えなかったボランティアに比べて、血糖値が低かった。
この結果から、研究チームは、柿に含まれる柿ポリフェノールには食後血糖値の上昇を抑制する効果があることが確認されたとしている。そして、研究チームは、柿に含まれる柿ポリフェノールは糖尿病の予防に有益であることが示唆されるとしている。
また、柿の収穫量全国1位の和歌山県では、JAと大阪公立大学、近畿大学の研究チームが、柿に含まれる柿タンニン(ポリフェノール成分の1種で、柿の渋み成分)に、悪玉コレステロール値(LDLコレステロール値)を低減する効果があることを実証している。
研究によると、コレステロール値が高めのボランティアに、柿タンニンを1日2.1g、4週間にわたって摂取してもらったところ、悪玉コレステロール値が低減したという。この量は和歌山県産のたねなし柿で1日1個分にあたる、という。
しかし、このような健康効果をもつ柿も、食べ過ぎれば健康を害する危険性があるという。
1日5〜6個食べた女性の胃に“石”が
柿を食べすぎると、まれにだが胃に“石”ができることがあるというのだ。
たとえば、「古賀総合病院の症例報告」では、干し柿を1日に5個から6個食べていた69歳の女性に最大3.7cmになる複数の柿胃石ができた症例が報告されている。
しかも、このような柿胃石が、腸に落下し、腸閉塞(イレウス)などを合併すると、手術が必要になる場合もあるという。
「三豊総合病院の症例報告」では、5カ月前に柿を連続して摂取した82歳の男性に、嘔気(吐き気)や腹痛などの症状が現れたという。原因は柿胃石が腸に落下したことによる腸閉塞(イレウス)と考えられた。そこで、手術となったが、退院20日後に、今度は別の柿胃石の落下によると考えられる腸閉塞が再発。再手術となったという。なお、この男性はその後無事に退院したそうだ。
“渋みの成分”が胃の中で固まる
では、このような柿胃石はどのようにして形成されるのだろうか。
「香川県立中央病院の症例報告」によると、柿に含まれる渋み成分であるタンニン酸が、胃酸の作用を受けて、水に溶けにくくなり、消化しづらくなって、周りの食べ物の残りカスなどを取り込んで固まり、柿胃石が形成されるという。我が国ではこのような柿胃石が胃石全体の60%から70%を占めるという。
同症例報告書によると、その自覚症状としては、心窩部(みぞおち)の不快感、腹部膨満感、悪心(吐き気)、嘔吐などがあるとされている。
では、どんな人が特に注意すべきなのか。「徳島大学大学院などの症例報告」によると、糖尿病による神経の障害や胃の切除などで、胃の中身が腸へ送られにくくなっている人に、柿胃石はできやすいという。ただし、柿を大量に食べた場合には、健康な胃でもできることがあるので注意が必要だ。
そして、このような柿胃石の治療にはコンビニやスーパーでよくみかける、あの炭酸飲料が医療現場で実際に使われることがあるという。
治療にコカ・コーラが使われた例
その炭酸飲料とはコカ・コーラだ。いくつか柿胃石の治療にコカ・コーラが実際に使われた症例報告をご紹介しよう。
「徳島大学大学院などによる症例報告」によると、63歳の男性に、つるし柿(筆者注:いわゆる干し柿のこと)6個を一度に食べた直後に、腹痛の症状が現れ、翌日には悪心・嘔吐の症状も表れたという。その原因は胃にできた6cmほどの柿胃石だった。そこで経口摂取などによってコカ・コーラによる溶解療法が実施された。すると柿胃石が数個の破片に崩壊し消失する経過が内視鏡的に観察されたという。
また、「がん・感染症センター都立駒込病院などによる症例報告」では、柿を多いときで1日に5個から6個食べていた73歳の男性が、昼食後に突然嘔吐し、左上腹部に違和感が現れたという。原因は胃にできた8cmほどの柿胃石だった。当初、内視鏡を使って破砕が試みられたが、固く、難しかった。そこで、局注針を使ってコカ・コーラを柿胃石に注入し、軟化させた後に、内視鏡を使って破砕したという。
このようなコカ・コーラによる柿胃石の溶解のメカニズムについては、実ははっきりとしていない。諸説があるが、香川県立中央病院などによる症例報告では、炭酸から生ずる二酸化炭素の気泡が重要であることが示唆されるとされている。
食欲の秋は“ほどほど”が良さそう
ただ、治療すれば済むという話でもない。「古賀総合病院による症例報告」によると、過去には胃石の回収から2日後に再発した症例も報告されているという。胃石は短期間で形成され得るということだ。
なお、先に紹介した、2度の腸閉塞で手術を受けた82歳男性(三豊総合病院の症例報告)は、偶然飲んだコカ・コーラによって、柿胃石が溶解し、腸に落下して、腸閉塞を引き起こしたと考えられるそうだ。いくらコカ・コーラが医療現場で治療に使われているからといって、柿胃石が疑われるような場合に、自己判断で、コカ・コーラを飲むことは避けた方がよいだろう。すぐに医療機関を受診してほしい。
今回紹介した症例報告では、柿を1日に5個から6個も食べていたという例が多かった。実りの秋はおいしいものが多く、食欲がつい進んでしまうが、なにごともほどほどに楽しむのがよさそうだ。