女性は待機児童問題

「『出産駆け込み組』が妊娠力を上げるには」(http://president.jp/articles/-/10537)でご紹介したネットアンケート「子ども、結婚、妊娠・出産に関するアンケート」(医学書院と著者の調査)はおかげさまで約1000名の回答をいただいた。うち約1割を男性が占め、子どもがいない人も全体の約4割を占めた。子どもがいる女性ばかりではなく、さまざまな人が回答してくれたことに感謝したい。

特に、このテーマについて男性の意見がまとめられているものはあまり見かけない。そこで今回は集計結果の中から、男女の考え方の違いが垣間見えたものをひとつ紹介したい。

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男女別・最も有効だと感じる少子化対策(男性101名、女性765名)

「最も有効だと思う少子化対策」をひとつ選ぶ質問では、グラフのような対策が男女のトップ5に選ばれた。数字は、その対策を一番強力な少子化対策に選んだ人の割合を示している。選択肢としては、平成26年度の予算案に盛り込まれた少子化対策、そして海外でおこなわれている少子化対策を合計28項目挙げてあった。

男性と女性で、その差は歴然としていた。女性は15%が待機児童の解消がベストの少子化対策だと答え、これは正規雇用の、まだ子どもがいない女性では特に多かった。

回答者全体として正規雇用、年収700万円以上の都市在住者が多かったためか、2位以下にも長時間労働の抑制、女性の育休など子育てをしながら働き続けられる環境に関するものが並んだ。

男性は「おカネ」が気になる

対する男性はというと、待機児童の解消や若年層の雇用対策には男女共通の強い支持があったが、ベスト対策になったのは高等教育の無償化だった。

今回の男性回答者は半数が子どものない人で、女性回答者との間に差はあまりなかった。ただ男女の別なく全体で見ると、これは子どもの人数が増えるとニーズが高まる傾向があった。

もともとは海外に見られるので入れた選択肢である。日本では夢のような制度だが、高い税金を徴収してそれを国家が再配分するフランス、北欧などは、大学卒業までに個人の経済的負担はほとんどない。先進国では高学歴化が進み、子どもに大変な教育費がかかるので産み控えが起きやすい。「若者の教育は社会で負担しよう」という思想を持つ国が同時に少子化を挽回した国であることは決して偶然ではないだろう。

男性は、3位以下も、出産や育児にかかる医療費の無料化、税制上の優遇、若年層の雇用安定化、育児手当の高額化など経済に関わる支援がずらりと並んで女性のランキングとは大きく違う顔ぶれとなった。

子どもが生まれた時の負担感として、女性は「子どもも仕事も」という生活ができるかどうかが一番不安。そして男性は、わが子を一人前に仕上げる資金があるかどうかが最も不安なようだ。

この差はどうとらえるべきか

実は、回答者を実際の人口比率に合わせている関連の調査では、ここまでの男女差は出ていない。たとえば内閣府が2013年に報告している「子ども・子育てビジョンに係る点検・評価のための指標調査」の集計表を見ると、ワークライフバランスへの不安はやはり男性の方が女性より少し低いが、経済的不安は女性もかなり強く男性と同程度だ。ベネッセ教育総合研究所の「未妊レポート2013~子どもを持つことについての調査」(2013年)も同様だ。

前述したように、今回は都市部に住む正規雇用労働者の女性が多く回答しているので、この男女差はその影響を受けているのだろう。でも都市部の働く女性やそのパートナーは、特にこの結果を受けとめてほしいと思う。

私は、男性も女性も共に、それぞれの立場から目につきやすい、重要なニーズを指摘したと思った。少子化対策は、性別、居住地域、雇用形態、年齢、すでにいる子どもの数、経済的余裕がばらばらな人たちがそれぞれに違うものを求めるが、誰でも自分の不安に合った政策に出会えるように多様なメニューがあることが理想だ。

男性は「経済的な責任」、女性は仕事をしながらも「子どもの世話をする責任」をより強く自覚しながら育児をイメージしているようだが、それは自然な性差かもしれない。これはカップルが子どもを持つ相談をする時に思い出してもらって、「彼(彼女)は、ここに強い不安を感じているのか」という相互理解や思いやりにつなげてほしい。

解決が後退している問題もある

現実がどうなっているかというと、この中で、すでに支援が実現しているものもある。まず出産の前後に医療機関に支払うお金は、心配することはなくなった。高額な病院で産まない限り、自費負担は限定的だ。乳幼児の医療も、自治体によって差があるものの就学前は大体カバーされ、保険診療の窓口負担がない。子どもが小さい時期については支援が増えつつあり、保育料もこれから2人目の軽減、3人目以降の無償化が始まる。

そして、実は待機児童も全国的な問題とはいえない。地域によっては余裕があるので、居住地域の様子を自治体に問い合わせることをおすすめしたい。また、待機児童が多い地域も、今後の改善は期待できる。国が「待機児童解消加速化プラン」を作成しており、消費税増税分の一部を財源とすることも決定しているからだ。

それにひきかえ、残念ながら動きが見えなかったり、むしろ後退をしているようにさえ見えるのは、高等教育の費用負担軽減、税制上の優遇、育児手当高額化など男性たちが「これがあればとても有効なのに」と感じた部分に集中している。

たとえば次年度から公立高校の費用負担軽減は本当に困窮している家庭に対して手厚くなるが、その財源は所得制限により捻出する形となり、少子化対策としては後退になった。大学は、授業料自体も上がっており低学歴化の兆しが出てきている。育休も正規雇用と非正規雇用の間には大変な格差があり、長時間労働の抑制も出口は見えない。このあたりが重石になって、産もうという人が増えないのだろう。

しかし、いつまでも負担感に押しつぶされていると、人生の妊娠可能な時間は逃げていってしまうという現実もある。

教育費をかけるタイミングが早くなっている

教育費については、子どもが生まれる前から貯金をすることで不安が解消できる。これから妊娠する人なら負担が急増する高等教育の時期まで時間はたくさんあるし、高齢出産で教育費のピークが老後の資金作りの時期と重なっても安心だ。

ただ、ファイナンシャルプランナーで『子どもの年代別大学に行かせるお金の貯め方』という著書もある氏家祥美さんは「子どもに多額の教育費をかけ始める時期がどんどん早くなってきている」と警告する。「近所の公立校が荒れていると聞いたから」などささいなことで私立小学校などに入ってしまうと、そのまま中学、高校、大学とすべて私立校に通うことになり途中で払いきれなくなる怖れがあるという。

そうした専門家のアドバイス、経験者の話によって不安をやわらげたり、本当に大変な事態に陥るリスクを軽減することはできる。自分にできる努力、くふうはやっていかなければならない。

ただ、国が子どもを産む人を応援することは、どの国でも未来への投資としておこなっていることだ。学費の高い私学も、大学ともなれば実際にはやむを得ず行くケースが多い。日本は国際的に見ても家族支援の予算が際立って少なく、バランスの良い少子化対策がとられていない。男女を超え、そして雇用形態、子どもの人数なども超えてさまざまな人が支援の在り方について関心を持ち、自分に合ったものを求めていくことは大切だ。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com