35度以上の猛暑日は“増えている”
「最近、気のせいか何か暑い日が増えてきたような気がする」。そう感じている方も多いかもしれない。しかし、それは決して単なる気のせいなどではない。気象庁によると、地球温暖化などの影響で、近年、最高気温が35度以上となる猛暑日の年間日数は増加する傾向にあるという。
このように暑さが厳しさを増しつつある現在、注意したいのが熱中症だ。消防庁によると、近年、熱中症による救急搬送者の数も増加の傾向にあるという。
重症化すれば、命にも関わる可能性もある熱中症だが、その対策として最も大切なものの1つがこまめな水分補給だ。厚生労働省は「熱中症予防のための情報・資料サイト」において「室内でも、屋外でも、のどの渇きを感じなくても、こまめな水分補給を」と呼びかけている。
スポドリの多量摂取には注意が必要
では、熱中症対策として具体的にどのような飲み物で水分補給したらよいのだろうか。環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」では、のどが渇く前にこまめに水分をとり、1日当たり1.2リットルを目安にするよう呼びかけている。そして、大量に汗をかいた場合には、汗で失われた塩分も補える経口補水液やスポーツドリンクなどが適しているとしている。
ただし、スポーツドリンクの継続的な多量摂取には注意が必要だ。厚生労働省が2026年に開いた「職場における熱中症防止対策に係る検討会」では、スポーツドリンクには糖分が多く含まれ、ペットボトル症候群などによって糖尿病が重症化し、救急搬送されるケースがあるとの指摘が出ている。
なお、消費者庁によると、経口補水液は脱水時の水分と電解質の補給を目的とした「病者用食品」であり、医師、薬剤師、管理栄養士などの指導に沿って利用するものとされている。
「牛乳」が効果的
このほか、コンビニなどで手軽に買える飲み物も役立つ。その飲み物とは牛乳だ。
文部科学省の食品成分データベースによると、牛乳は、87.4%が水分で、カルシウムやカリウムなどの電解質も含んでいる。しかも、業界団体のJミルクの「血糖値コントロールで糖尿病&肥満の予防・改善を―牛乳は低GIの優等生!」によると、牛乳に含まれる乳糖は、緩やかに消化・吸収されることから、血糖値を急激に上昇させにくいという。
では、信州大学の研究チームの研究成果から紹介していこう。この研究では牛乳に含まれる乳たんぱく質と糖質を運動のすぐ後に摂ると、単なる水分補給にとどまらない効果があることが示された。
すなわち、運動の直後に糖質と乳たんぱく質を摂ると、本来は回復が鈍いはずの高齢者でも、若い人たちと同じように、血漿(血液に含まれる液体成分)の量や血液中の水分量を保つ働きをもつアルブミンというたんぱく質の量の回復が促進されたという。
そのメカニズムについては、運動した直後に糖質と乳たんぱく質を摂取すると、血漿中のアルブミン含有量が上昇。浸透圧によって、血管外から血管内に水分が移動し、血漿量が増加すると考えられるという。
血漿量が減ると、体温調節がうまく働かない
名古屋文理大学の熱中症予防に関する総説論文「食事・栄養と運動による熱中症の予防」や信州大学の「運動+乳製品摂取の熱中症・生活習慣病予防効果」によると、熱中症対策としては、血漿量を維持することが非常に重要だとされる。わたしたちの体温の調節は、主に発汗(汗が蒸発するときに熱が奪われる)と皮膚の血流量の増加(体内と体外の温度差で熱を放散する)の2つでおこなわれる。だが、血漿量が減少すると、このような体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもって、深部体温(体の内部の温度)が上昇し、熱中症につながるという。
さらに、信州大学の研究チームの研究成果によって、熱中症対策として、運動のすぐ後に糖質や乳たんぱく質を摂り続けることで、暑さに強い体づくりに役立つことも示されている。
こうした研究成果をもとに業界団体のJミルクは、前述の論文にも名がある信州大学の能勢博特任教授の監修で「運動+牛乳」という方法を紹介している。
Jミルクのリーフレット「ミルクと一緒にはじめよう 熱中症に負けない元気な体づくり」によると、“ややきつい”運動を1日15~30分行った後、1時間以内にコップ1杯の牛乳を習慣的に飲み続けると、暑さに強い体づくりに効果が期待できるとされている。
深部体温の上昇を抑制する「アイススラリー」
さらに昨今、熱中症対策として注目されているのがアイススラリーだ。アイススラリーは、スポーツドリンクなどをシャーベット状にした飲み物で、いわば飲む氷だ。
広島大学などの研究成果によると、体を内部から冷やし、深部体温の上昇を抑制することで、熱中症対策に効果を発揮するという。
では、まず、筑波大学の研究チームの最新の研究を紹介しよう。飲料をアイススラリーにすることで、より効果的に深部体温の上昇を抑制できることが示されたという。
この研究では、健康な若い男性12人(平均年齢22歳)に、スポーツドリンクをベースにしたアイススラリーまたはこれを37℃に溶かした飲料を飲んでもらい、高温下(35℃)で、サイクリング運動を疲労困憊するまでおこなってもらった。すると、アイススラリーは、溶けたアイススラリーよりも、効果的に深部体温の上昇を抑制することが示された。
“冷たい飲み物”より効果が高いという実験結果
そして、アイススラリーとこれと同成分のスポーツドリンクについて深部体温の上昇を抑制する効果を直接比較した広島大学の研究チームの最新の研究もある。
この実験では、大学生のアマチュアソフトボール投手7人に夏の野外グラウンド(気温約30℃)でソフトボールの試合を模した運動(合計84分)をおこなってもらい、運動の前とその途中でアイススラリーまたは冷えたスポーツドリンクを飲んでもらった。すると、冷えたスポーツドリンクよりもアイススラリーのほうがより低く深部体温が保たれることが示された。
さらに、アイススラリーと冷たい水とで、深部体温の上昇を抑制する効果を比較した研究もある。
この研究では、10人の男性にアイススラリー(-1℃)または冷たい水(4℃)を摂取してもらった後に、高温下(34℃)でランニングを疲労困憊するまでおこなってもらい、深部体温を示す指標となる直腸温などを測定した。
すると、ランニング前の測定では、冷たい水を摂取した場合には直腸温が平均0.25℃低下。対して、アイススラリーを摂取した場合は直腸温が平均0.66℃低下した。
そして、ランニング開始後も、開始30分間は、アイススラリーを摂取した場合のほうが、冷たい水を摂取した場合よりも、直腸温が低かった。すなわち、アイススラリーのほうが、冷たい水よりも、効果的に深部体温の上昇を抑制することが示されたという。
“細かい氷”が効率よく熱を奪う
広島大学などの研究成果によると、このようにアイススラリーが効果的に深部体温の上昇を抑制する理由は2つあるとされる。
まず、アイススラリーの氷は、細かく、数も多い。このため、周囲と接する面積が大きくなり、効率的に周囲の熱を吸収しやすいという。また、シャーベット状で流動性があり、滑らかに飲むことができることから、体を内部から冷却することができるという。
国立スポーツ科学センターの「競技者のための暑熱対策ガイドブック【実践編】」によると、運動前にアイススラリーを摂取すると十分な深部体温の低下が認められるため、体重1kgあたり7.5グラム、60kgの選手なら450gを、こまめに摂取することが目安だという。ただ、低温の飲料であり、深部体温を十分に下げるには多くの量を飲む必要があるため、胃腸の不快感を抱く可能性があるという。
牛乳もアイススラリーもコンビニやスーパーで買える。8月が過ぎたとしても、40度近い日があるかもしれない。熱中症対策の1つの手段として、今回紹介した牛乳やアイススラリーを取り入れてみてはいかがだろうか。
なお、環境省(「熱中症環境保健マニュアル2022」)は、熱中症の症状が疑われるような場合には、涼しい日陰などに移動して体を冷やし、水分を補給することのほか、自力で水分の摂取ができないときは速やかに医療機関を受診してほしいと呼びかけている。