人間関係を円滑にするには、どうすればいいのか。ドラえもんを研究する富山大学名誉教授の横山泰行さんは「スネ夫は自分を"よい子"に見せたり、親の人脈を自慢して大きく見せたりと、10歳にしてセルフプロデュースの達人だ。その場に応じた振る舞いは、現実の大人社会でも応用できる」という――。(第2回)

※本稿は、横山泰行『ポケット版「スネ夫」という生きかた』 (アスコム)の一部を再編集したものです。

手で目を覆う子供
写真=iStock.com/szefei
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スネ夫は「人に好かれる行動」を瞬時にできる

本稿では、「スネ夫がなぜ人に好かれるのか」という秘密を明かしていきます。スネ夫のヘビーウォッチャーである私に言わせてもらうと、人から好かれる「技術」というものは、確かに存在すると思います。また、「好かれよう」と思って意図して行動することも、大切なように思います。スネ夫の行動は、よい意味で「計算ずく」です。

俳優の森山未來さんが4人の美女にモテる……という大ヒット映画『モテキ』がありました。しかし現実社会では、なんの努力もしない主人公の青年が急にモテはじめるという夢のような展開は、残念ながらちょっと考えにくいことです。

他力本願な姿勢では、年を重ねるにつれ、さしずめ「嫌われない」という現状維持が精いっぱいでしょう。もちろんそれは、男女の恋愛に限ったことではありません。

最初に、スネ夫が年上の大人たちにえこひいきされているシーンを見てみましょう。ここには驚きの演出がこらされています。彼は「人に好かれるシナリオ」を頭の中で瞬時に作り、名演出家のように巧みに他の役者(他人)を動かし、主役を堂々と演じ、観客の視線を一手に集めてしまうのです。ある意味「ズルい」と言えるかもしれませんね。でも、スネ夫をマネすれば、あなただって彼のようなオイシイ思いができるはずです!

ある日ジャイアンは雨が降ってもあふれないようにと、一人でどぶの掃除に励んでいました。そこへスネ夫が通りかかり、「めずらしい……」と感心します。

しばらくすると、遠くからスネ夫のママたちのグループが歩いてくるのに、スネ夫だけが気づきました。彼はさっそく点数を稼ごうと、ジャイアンに「一人でたいへんだろう、かわろう」とやさしく声をかけ、シャベルを受け取ります。

すると、近づいてきたママグループは、てっきりスネ夫が一人でどぶ掃除をしていたのだと誤解し、スネ夫をほめそやします。さっきまでマジメに掃除をしていたジャイアンには目もくれません。

「まあ~、スネ夫さん感心ですわねえ」
「いつも人のためにつくせと教えてありますわ」

スネ夫のママは、息子をホメられて鼻高々でした。

てんとう虫コミックスドラえもん 第18巻』小学館 第3話目「ひい木」

下水道を掃除する中年の男性
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スネ夫のママたちグループが歩いて来るのに気付いたスネ夫。ジャイアンが励んでいたどぶの掃除を引き受けた。(※写真はイメージです)

「よい子」より「よい子に見える」ことが大切

いかがだったでしょうか。「長い間、一人でマジメに掃除をしていたジャイアンがかわいそう!」という声も聞こえてきそうですね……。確かに、その通りかもしれません。

ですが、これはスネ夫の「アイデア勝ち」です。現実の社会では、このような出来事は、むしろよくあることです。一度社会に出るとわかるかもしれませんが、世の中は世知辛く、ズルい大人たちがだまし合っている……と言っても、決して言い過ぎではありません。

大人たちがスネ夫ばかりをえこひいきするワケは、ズバリ、スネ夫が「よい子に見えるから」。ここで、本質的にスネ夫が「よい子」であるのか、そうでないのかは、まったく問題ではありません。そう他人に「見える」ことが大切なのです。

スネ夫は、「よい子」に見えたほうが生きやすくなることを知っているがゆえに、自分を「よい子」に見せかけようと振舞っています。これを心理学の用語で言うと、スネ夫はよい子の「ペルソナ」(※注)を演じている、と言えるでしょう。ペルソナとはもともと「仮面」という意味のラテン語ですが、そこから転じて「その場に応じた態度」のことを言います。

(※注「ペルソナ」…一般的には仮面、役割、役柄などの意味。スイスの精神科医・心理学者、ユングによって「外界に対する適切な根本態度のこと」と定義されている。)

現実の大人だって態度を使い分けている

私たちは、社会で生活する限り、「社会に適応した態度」というものを求められます。そのため、多くの大人は状況に応じたペルソナを使い分けようとしますし、子どもたちはそれを育てている過程です。

誰でも、小さい頃から周囲の大人に、よい態度はホメられ、そうでない態度は叱られて修正されてきたことと思います。たとえば「相手に笑顔であいさつされたら、こちらも笑顔で返す」といったごくカンタンな社会的習慣です。

このようなことを繰り返し、人はだんだんと「社会に適応した態度」、すなわちペルソナを作っていくのです。「空気を読めるようになる」と言い換えることができるかもしれません。

一方、ジャイアンは、まだまだ「よい子」というペルソナが作られていない状態です。「よい子のペルソナを演じると、えこひいきされて暮らしやすくなる」という認識さえ、まだ無い状態かもしれません。

当然、大人たちの目には、普段の素のままのジャイアンは、決して「よい子」とは映りません。むしろ、「悪い子」の部類に属するとしか思えないでしょう。だからジャイアンはスネ夫ほど大人たちにえこひいきもされず、好かれもしないのです。

オレンジの背景にマイク
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スネ夫は「ペルソナ」を使いこなしている

もちろん、ジャイアンはまだまだ子どもですから、これからペルソナが形成されていけば、多くの大人に好かれるようになる可能性は大いにあります。

スネ夫は、『ドラえもん』の登場人物の中でも群を抜いて、ペルソナを身に付けるのが早かった。だから、皆に先駆けてえこひいきされるのです。

あなたもぜひ、「ペルソナ」を使いこなしてみてください。「なんだか最近、好かれない」という人は、ペルソナをうまく使い分けているか、見直しましょう。大人になると、状況とちぐはぐなペルソナを演じていても、周囲はなかなか指摘をしてくれないものですから。

たとえば、学校の先生をしているお父さんが、家に帰ってきて、やたらと命令口調だったり、上から目線だったり、先生っぽく振舞っていると、奥さんや子どもたちは疲れてしまうでしょう。

また、あなたがいくら勤め先の社長と仲がよい場合でも、タメ口で話しかければ、ご機嫌を損ねてしまう危険性は大いにありますよ。スネ夫は10歳にして、天才的にその場に応じたペルソナを演じ分けている、「恐るべき子ども」であるのです。

「自分」を宣伝するのが当たり前の時代に

「セルフプロデュース」ということばを聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?

「なんだかタレントを売り出すみたい」と大げさに感じられる人もいるかもしれませんね。ですがモテるためには、いや、楽しく幸せに生きていくためには、誰にとっても大切なことなのです。

たとえば、SNSやブログ。企業のみならず、個人が手軽に情報を発信できるようになり、「自分」という存在を多くの人に知ってもらうことが容易になっています。誰もが自分を、「それなりに」宣伝することが珍しくない時代となりました。

Threads、X、その他のソーシャルメディアアプリ
写真=iStock.com/hapabapa
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「セルフプロデュース」に成功すると、仕事や人間関係の面で優遇されることが多くなったり、俗な話ですが、合コンのような場でモテたりすることが予想されます。

ここでは、少し「高め」に自分自身をプロデュースする方法をご紹介しましょう。それは「人脈」をアピールすることです。人脈作りなら、生まれつきの才能や美貌がなくても、地道な努力でなんとかできるものです。それでは「人脈王」スネ夫の例を見てみましょう。少しぶっとんだ例ではありますが……!

スネ夫が自分の部屋で、有名タレント田野金平らのサイン色紙を自慢しています。そこにはなんと、手がたまでついていました。のび太にジャイアン、しずちゃんはため息をつくばかり。

「ただのサインはつまらない。手がたをながめてると、その人本人が身近にいるような気がするんだ」と言いながら、スネ夫はさらに女性タレントたちのキスマークつきのサイン入り色紙をみなに披露します。それらは「松木伊代」「伊藤つばさ」「早目優」など、今をときめくアイドルのものばかり。のび太たちは驚き、歓声を上げます。

スネ夫は「こんなのが手に入るのも、うちのパパがテレビ局の社長の友だちだからだけどね」と、もはやワンパターン化したフレーズを口にします。そして、「ジャイアンとしずちゃんに好きなのあげる。ぼくはいつでももらえるから」とのび太を仲間はずれにするのでした。

てんとう虫コミックスドラえもん 第30巻』小学館 第2話目「人気スターがまっ黒け」

実力以上の大物に見える「後光効果」

う~ん、恐るべき人脈ですね……。他の話も見ながら、どんな人脈があるのかを確認していきましょう。

まず、テレビ業界では、テレビ局の社長(本当ならばすごい話ですね)に、芸能レポーター。今をときめく有名タレントたちもいます。ほかには出版社の社長、印刷会社の社長、ビデオ会社の社長、馬牧場のオーナーと続きます。

きわめつきは、「松上電機」の社長です(どこの企業をもじっているか、おわかりですよね)。すべて、会社社長である「スネ夫のパパの友人」という設定になっていますが、このような交友関係があるなら、スネ夫のパパは立派な財界人でしょうし、スネ夫本人も(プチ)セレブといえそうです。

このように、本人の実力とはあまり関係のないところで、「なんだかスゴい人だ」と感じさせることを「後光ごこう効果」(※注)と呼びます。

(※注「後光効果(ハロー効果)」…本人自身ではなく、その人が持っている優れた特長や属性(容姿や肩書、学歴、人脈など)が、仏像の後光のように、本人の存在を輝かせること。)

笑っている人の口元
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後光とは、仏像などの後ろから射す光のことです。後光が描かれていることにより、像はますます立派に見えませんか? そんな効果が、後光にはあります。

「ブランド品」「人脈の豊かさ」はトラの威になる

そういえば、あなたはブランド品のバッグや財布を持っていませんか? ブランド品も後光効果を発揮してくれるものの1つです。

横山泰行『ポケット版「スネ夫」という生きかた』 (アスコム)
横山泰行『ポケット版「スネ夫」という生きかた』 (アスコム)

ブランド品を買って身につけることはお金がかかりますが、言うなれば「トラのを借りる」に近い効果があります。とくに弱い立場の人に役立つ方法でしょう。

具体的に言うと、スネ夫のような、何かを誇りたいけれども、まだ若過ぎる人。新入社員のように、まだ実績がない人(これから伸びる人)。

このような人は、周囲に人脈の豊かさをアピールしておくと、いじめられたり、しいたげられたり、軽んじられたり……ということは格段に少なくなるはずです。

「学年一の不良と、実は小学校の頃から仲よしだった」
「大事な取引先に大学の先輩がいる」

こんな「かすかなつながり」でも、周囲に知らせておくだけで、キツい風当りがやわらいだり、えこひいきされたりすることもあるはずです(不良は良いものではありませんが)。

自分を高く売り込むだけでなく、自分の身を守るためにも、ぜひ「後光効果」を覚えておいてください。「後光」にあたる部分は、探せば何かしらあるものです。

「SNSで話題になっていたけど」も効果あり

「自分には本当に『後光』がない!」「人脈さえ、まだ作れない」という方には、とっておきの方法をお教えしましょう。それは「ニュースで見たけど」「SNSで話題になっていたけど」という魔法のフレーズです。現代では多くの人が情報の出どころに影響されやすく、それだけで説得力が増してしまうのです。

たとえば「トマトジュースってダイエットにいいんだって」というフレーズに、「情報番組で特集されていたけど」とひとこと付け足すだけで、情報の信ぴょう性を格段にアップさせることができるでしょう。これであなたも後光効果のスゴさを実感できるはずです。

しかも、あなた自身が「情報ツウ」として評価が上がるオマケまでついてきます!

自分自身をちょい高めにプロデュースする術、情報の信ぴょう性を高める術を、日常にぜひ取り入れてみてください。