政府は工学系女子学生の割合を15年後の2040年までに現在の2倍の36%へ引き上げることを目指す、という方針を立てた。医師の筒井冨美さんは「“女子枠”を導入する理工系学部は急増しており、京都大学や東京科学大のような難関大学も含まれる。同じ女性として理系人材は大歓迎だが、ダイバーシティ推進のスローガンと、補助金という実益に大学側がなびいているだけのように見える」という――。

工学系女子学生の割合を15年後に2倍へ

6月25日、政府は男女共同参画推進本部などの合同会議で「女性活躍・男女共同参画の重点方針2026」(女性版骨太の方針)を決定した。

そこに明記されているのは、以下のような項目だ。

「工学系女子学生の割合を25年の18%から、40年に36%へ引き上げることを目指す」
「多様性に配慮した入学者選抜等を通じ、女子学生の確実な確保を進める」
「多様性確保に取り組む大学に対しては、交付金や補助金で支援する」
「多様性の向上を通じたイノベーションにより、生産性や企業価値を高め、我が国経済の発展に資する」

工学部の大学入試で女子枠が急増したきっかけは、2022年の内閣官房教育未来創造会議「第一次提言」だろう。

女子大学生の理工系専攻者がOECD諸国の中で最も低い水準(全体平均15%、日本7%)であると問題視し、「大学入学者選抜等で女子学生枠の確保に積極的に取り組む大学等への支援強化」とも書かれている。

「ダイバーシティ推進」のスローガンと、「補助金」という実益を提示されて、女子枠を導入する理工系学部は2024年15校から2026年38校と急増しており、京都大学や東京科学大(旧東京工業大学)のような名門大学も含まれる。

工学女子枠生は工学系に就職するのか?

実際、どのように運用されているのか。

名古屋工業大学は1994年度から推薦入試に女子枠を導入しており、現在も人数を拡大して続行している。地元テレビ局の取材に同大理事は「学生女性率が20%を超えた」「成績はひけを取らない」と回答している(2025年10月18日記事配信)。

一方でうまくいっていない面もある。理事は「女子枠の成績平均値が低い年もあった」「人数が少ないから……」と言を濁す部分も見られた。また、女子枠は「男性への逆差別ではないか」という質問には「環境を変えるため、一時的に必要な制度」と答えているが、すでに30年以上続く制度を「一時的」と呼ぶのはいささか苦しい説明だ。中でも大学院修士課程への進学率が、「男子約80%、女子全体約70%、女子枠約40%」と大幅に低いことを認めている。

現在、中堅以上の理工系大学のカリキュラムは事実上「修士課程を含めた6年制」になっている。「学部のみで就職」するケースは、一般的に中退のような状況となることもあり、大学での専攻とは無関係な文系事務職に就くケースも少なくないと言われる。そうなると、政府が掲げている「生産性や企業価値を高める」「イノベーションに貢献」は期待しづらいだけでなく、女子枠と引き換えに不合格になった男子も報われないことにもなる。

女子枠は男性差別? ダイバーシティ推進?

それでも、名工大のような女子枠が小規模な中堅大学に対する男性の反感は少なかったが、国立の最難関のひとつ東京科学大(約1000人中、女子枠154人)のような大規模女子枠となると、そうもいかない。実際、女子枠に反対する学生団体が結成されて、ビラ配りや署名活動が行われた。

2026年4月には、朝日新聞社による男女雇用機会均等法40年の世論調査の一部で「理工系大学の女子枠」についての意識調査が行われた。

結果は、60代以上は「納得できる」が多数派であったものの、50代以下では少数派となり、若年者ほど減るという結果だった(図表2)。進学や昇進でも我慢を強要されて反感を持つ男性が増えている可能性がある。

【図表2】理工系大学入試の「女性枠」に…
出典=朝日新聞「理工系大学の女子枠」についての意識調査 を基にプレジデントオンライン編集部が作成

そもそも政府が謳うダイバーシティとは「多様性」を意味し、女性のみならず障がい者・貧困家庭・地方出身者・少数民族・LGBTQなど多様な少数派への配慮を指す。しかしながら、文科省の評価する「ダイバーシティ推進」とは事実上「女性率向上推進」に限定されているように見える。

女性の工学不人気は偏見? それとも事実?

内閣府男女共同参画局の公式YouTubeでは、「女子は数学が得意ではない」などの社会に根深いアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が、女子生徒の理工系進路選択を阻害することがある、と述べている。そうした偏見をなくし、教師や親の適切な支援すれば理工系女子は増やせる、とにおわせている形だ。

しかしながら、「鉄道写真」「休日にバイクの手入れ」「日曜大工」など、メカ好きな趣味人は男性が多く、おもちゃ売り場でミニカーやロボットで遊んでいるのは男児が多い。

高校では、数学IIIや物理を選択する女子高生は明らかに男性より少なく、機械・電気学科のような専攻希望者はさらに少ない。理系男子垂涎の京都大学工学部電気電子工学科の女子枠は2026年度の試験で定員割れしてしまった(女子枠定員7、出願5、合格1)。2024年度入試における北見工業大学、秋田大学、琉球大学などの女子枠も定員割れが報道されている。

結局のところ、女子枠は「女子学生が都市部にあるワンランク上の大学に入学」するという効果はあるものの、女子工学部生の全体数は変わらないことがうかがえる。

また、工学部の中でも「経営工学、デザイン工学、生命工学」のような“境界領域”の女子学生が増えはするが、「機械工学、電子工学」のように自動車産業や半導体産業などに直結して「日本経済の発展」に寄与できそうな分野では女子学生は増えていないのではないか。

最も深刻なアンコンシャスバイアスとは

政府が必死に旗を振る「理系女子枠」施策だが、ほとんど触れていない事実が存在する。それは、大多数の一般女性は「学生の自由な選択や公平な試験の結果、工学部に女性が少ない」事実に不満を持ってはいないということだ。

それにもかかわらず、近年の男女共同参画やら女性活躍推進政策は「目指せ、女性役員30%」「目指せ、東大女性教授300人」といった数値目標に加え、「企業内の男性管理職への電気流して生理痛体験会」などユニークなイベントも実施している。これに対しては女性側からも「誰もそれを希望していない」「変な女性管理職よりはフツーの男性管理職でいい」といった声もあがっている。

何より、私が最も深刻だと思うのは「女性活躍という絶対正義のためには、男性が犠牲になるのは仕方がない」という男女共同参画の施策を練っている人たち自身のアンコンシャスバイアスである。

近年では女子枠学生のみならず、「ロールモデル」として理系教官女性率も文科省に評価されるため(補助金額に影響する)、「女性限定」教官公募も珍しくなくなった。これには「男性差別・憲法違反ではないか」といった指摘もある。そうした女性優遇の流れで「国内就職できずに、中国にわたって就職する男性科学者」の存在がしばしば報じられると同時に「業績・実績不足の女性理系教官」も散見されるようになった。

例えば、京都大学の女性教授が2021年に発表した「JIP論文」は、データ改ざんが強く疑われて「令和のSTAP騒動」と話題になった。京都大学は今年、報告書で研究不正を認めたが、「家庭の事情(育児介護等)により業務過多」という釈明を載せた。だが、そうしたプライベートな事情ゆえに、不正が認められてはならないことは言うまでもない。この女性教授は現在も数億円の研究費が支給されたまま処分を受けず、研究不正を通報した博士研究員は女性教授に雇止めされた、と報道されている。

2026年6月、米国カリフォルニア州立大学の理工系教官が共同で「内申書と自己アピール文が主体の入試となり、数学レベルが低い生徒が急増している」「UCサンディエゴ校では約12人に1人が中学生以下(レベル)」「自己アピール文はAIで盛れる」「理系学部は入試に共通テスト(SAT/ACT)数学を再び必須化してほしい」と訴えた。

「女性優遇・男性差別制度」から脱却すべき

日本も「多様性」「男女共同参画」と称する、「女性優遇・男性差別制度」から早々に脱却すべきではないか。

もちろん理数系を志望する女子生徒を邪魔するような仕組みは改善しなくてはいけないが、入試方法としては、多くの人が納得できる性別不問の「筆記テストによる入試選抜」こそが研究不正も予防し、日本経済に最も貢献できる形だろう。

私が医大受験生だった昭和末期には、国公立を含めて小論文や面接での「女性減点」は常識とされていた。就職にあたっても「○○病院は女性は1人しか採用しない」のような情報が流れていたし、「就職後2年間は妊娠禁止」を公言する医大教授も実在した。

だからこそ、性別のように「自分では変えられない属性で入試や就職で減点される不条理」は理解しているつもりだ。科学を志す若い男性に「かつて自分が味わった不条理」を残すべきではないと確信している。