【相談内容】

「半年前に付き合い始めたカレが、突然『地元(兵庫県)に帰ろうかな』なんて言い出しました。地方出身の長男なんですが、正直“お買い損”でしょうか?」(29歳・ミキさん 派遣社員)

【牛窪恵さんの回答(前編)】

地方の婚活がスゴイ!

兵庫県を“地方”と呼ぶかどうかはさておき、同じような話を最近、よく聞くようになりました。

というのも、いまや地方出身(かつ首都圏在住)の20代のうち、なんと84%以上が「地元が好き」と答える時代。

「可能か不可能かは別にして、将来地元に戻りたい」と答える人も、6割にものぼります(13年 オウチーノ総研調べ)。

もちろん、最大のネックは「地元に仕事(求人)があるかどうか」ですが、ご存じのとおり、いまは地方ほど過疎化が深刻で、地元企業も優秀な“マンパワー”の取り込みに必死です。

2014年卒業(予定)の大学生に聞いた別の調査を見ても、「地元(出身地)の企業から、何のアプローチも受けなかった」と答えた男子学生は、わずか4割のみ。

残る6割は、出身地の企業から会社案内のパンフや動画が送られてきたり、説明会の案内をされたり、と積極的に売り込みをかけられている様子です(13年 マイナビ調べ)。

さらなる極めつけは、地元がアノ手、コノ手で繰り出す「ユニーク婚活」。実は、ミキさんのカレの出身地・兵庫県の加西市でも10月、市をあげて、かなり思い切った婚活をスタートさせました。

講師はなんと、“カリスマホスト”の鶴見一沙さん。

04年、「第1回全日本ホストグランプリ」で王者に輝き、現在は東京・歌舞伎町などでホストクラブを経営する男性です。いわば恋愛のプロである彼に、「モテる男になるための秘訣」と題した恋愛テクニックを伝授してもらおう、との企画。

民間企業ならまだ分かりますが、地方自治体がホストを講師に呼ぶとは、大胆な発想ですよね。

実施前は、ホストへの偏ったイメージから、約10件の批判の電話が市に寄せられたそうですが、いざフタを開けてみると大盛況。市の予想を上回る25~45歳の男性が、なんと46人も集まった、とのこと。

私がコメンテーターとしてレギュラー出演する報道番組、「キャスト」(朝日放送)のスタッフも当日、会場に取材に行ったそうですが、参加した独身男性たちが熱心にメモを取る姿に「みんな真剣だった!」と驚いていました。

講座の直後に開かれた婚活パーティでは、6組のカップルが誕生したそうです。

ちなみに、同市では12月以降、今度は独身女性に「美魔女」が恋愛テクニックを教える講座を企画中の様子。モテるヘアメークや着こなしも教えてくれるようで、大勢の参加希望者が集まるのは間違いないでしょう。

ほかにも、

●京都市の門川大作市長が“学園PTA会長”として参加するなど、京都市や同市教育委員会が後押しする形で行なわれた、「学園婚活」(於:旧京都市山王小学校)
●岡山市が企画、男女100人がゼッケンをつけて走り回った「鬼ごっこ婚活」
●糸魚川市(新潟県)が結婚相談サービス大手のツヴァイと提携、相談所の入会金を市が全額負担する「婚活支援事業」

など近年、自治体が行なうユニーク婚活は、数え上げればキリがないほど。

必死の人口減少対策

ところで、なぜ地方自治体が、ホストや美魔女、あるいは地元の市長や小学校、結婚相談サービスの協力を仰いでまで、婚活に乗り出すのでしょう?

それは、先の兵庫県加西市の例を見れば、一目瞭然です。

同市は少子高齢化対策として「5万人都市の再生」を政策課題に掲げ、流通大手イオングループの商業施設(イオンモール加西北条)と連携。

男女の出会いの場作りはもちろん、婚約したカップルには“新居の見学会”まで世話するなど、婚約・結婚後の「市への定住」を強く呼びかけています。

それはひとえに、同市の人口が06年度に5万人を割って以降、ずっと減少傾向にあるから。

つまり、婚活→交際→婚約→結婚となってカップルがその土地に住んでくれれば、その地の人口は一気に2人増える。

さらにその先、1人、2人と子どもを産んでくれれば、若い世代がどんどん増えていく。その効果は、人口減少に悩む自治体にとって、予想以上に大きいもの。

先日も、ある20代女性(A町出身)が隣り町のB町在住男性と結婚が決まり、「どちらの町に住むか」となった際、A町とB町で2人の“取り合い”になった、との話を聞きました。どちらの自治体も「わが町に!」とカップルに猛烈にアプローチを繰り返し、夫婦を必死で呼び込もうとした、というのです。

牛窪 恵
1968年、東京都生まれ。大手出版社勤務ののち、フリーライターとして独立。2001年、マーケティング会社インフィニティを設立。定量的なリサーチとインタビュー取材を徹底的に行い、数々の流行キーワードを世に広める。『アラフォー独女あるある!図鑑』(扶桑社)など著書を多数執筆する一方で、雑誌やテレビでも活躍。10月末『大人が知らない「さとり世代」の消費とホンネ』(PHP研究所)が発売。12月5日『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)が発売に。財務省財政制度等審議会専門委員。