年末調整、もっとたくさんもらえないの?

年の瀬の慌ただしい季節、12月の給料についてくるのが年末調整だ。思ったより多いとちょっと幸せ、引かれていたらなんだか不愉快。何かと物入りな時期だけに、「もっとたくさん戻ればいいのに……」と願う人が多いだろう。年末調整の受取額を増やす方法はないのだろうか?

まずは少しだけ、年末調整のしくみをおさらいしておこう。

毎月の給料からは2種類の税金が天引きされている。国に納める所得税と、自治体に納める住民税だ。天引されている所得税は、見込みで計算した概算額。年末になって1年間の収入が確定し、本当の所得税額がわかった後に、それまでに払った概算の合計額と差し引きして差額を精算する。これが年末調整だ。一方の住民税は、確定した所得税の内容をもとに計算して税額が決まり、翌年6月の給料から天引きする。では、本当の税額はどうやって決まる? 会社員の場合、アバウトには次の3ステップで計算すると考えればいい。

(1)収入が決まる →(2)いろいろな控除を差し引く →(3)税率を掛ける

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会社員が税金を納めるスケジュール

(2)の「控除」とは、“条件にあてはまる人は収入から差し引いてOK”とされている額のこと。たとえば、「妻を扶養している人は配偶者控除として38万円引くことを認めましょう」といった具合だ。計算上、控除が多いほど税額は少なくなる。ただ、どの控除をどれだけ受けられるかは人によって違うので、それを申告するために、年末調整にあたっては会社員全員が会社に書類を提出するしくみだ。

この書類の名前は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」――11月には会社から配られたはず。そう、薄っぺらくて横長の、字が細かくて見る気がしない、あの紙のこと。「面倒くさいから毎年、適当にハンコ押して出しちゃう」という人、それはNG! ここで控除をたくさん申告できれば、年末に受け取る額も多くなるのだから。

こども保険や共済も控除できる

まずは、あてはまる人が多い保険料控除から。こちらは「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」のほうに記入する。生命保険については、2012年以降に契約したものは「一般の生命保険」「介護医療保険」「個人年金」の3種類に分かれ、控除額はそれぞれ最大年4万円。2011年以前に契約したものは、「一般の生命保険」と「個人年金」の2種類に分かれ、控除額はそれぞれ最大年5万円。自分で保険料を払っている保険なら、契約者は家族でも大丈夫。また、こども保険や学資保険、こくみん共済や県民共済などの共済も控除の対象になる。対象になる保険については10月ごろに保険会社から「生命保険料控除証明書」が届いているはずだ。この証明書は申告書に添付する必要があるので、探しても見つからないときは再発行を頼もう。また、生命保険のほか地震保険についても最大年5万円が控除できる。

月7000円弱の保険で6800円の節税に

たとえば2012年に医療保険に加入したケースでは、年間の保険料が8万円(月6667円)を超えれば、介護医療保険として上限の4万円を控除できる。戻る税額は年収や他の控除によって異なるが、年収500万円で扶養家族がいない場合だと、概ね申告した4万円に対して所得税率10%を掛けた4000円が戻りそうだ(正確には所得税に復興特別税を加えた4084円)。

申告の効果は、年末調整の受取額が増えるだけではない。来年6月から支払う住民税も安くなる。住民税の生命保険料控除額は、2012年以降の契約では「一般の生命保険」「介護医療保険」「個人年金」それぞれ最大2万8000円(2011年以前の契約では「一般の生命保険」「個人年金」それぞれ最大3万5000円)。上の例では、住民税の税率(一律10%)を掛けて、年間2800円安くなる計算だ。つまり、月7000円弱の保険で年間計6800円節税できることになる。

扶養家族を増やす方法はある?

一方、配偶者控除や扶養控除など、家族に関する控除を申告するのが「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」。この書類は、平成25年分と平成26年分の両方が配られている場合と、平成26年分だけが配られている場合がある。なぜ来年分? と思ってしまうが、これは来年の天引額を決める役割で、昨年も同じ時期に今年分を提出したはず。「家族の状況はそう変わらないでしょ」ということから、手間を省いて来年分しか配らない会社も多いよう。もし今年中に家族の状況が変わったのに平成25年分が配られていないなら、総務部に行って相談してみよう。

さて、この書類で増やせる項目はないか? 女性が配偶者控除を受けるケースは少ないかもしれないが、配偶者は妻とは限らない。もし夫が休職中といったときは、申告して税金を節約しよう。夫の収入が給与だけの場合なら、年収103万円までなら配偶者控除、103万~141万円までなら配偶者特別控除が受けられる(配偶者特別控除には妻の年収制限あり)。なお、申告できるのは戸籍上の夫婦に限られ、同棲中の彼氏は対象外だ。

子どもの扶養控除は16歳以上が対象。平成25年分の申告では、平成10年1月1日以前生まれ、平成26年分では平成11年1月1日以前生まれが対象になる。学年とは微妙にズレがある点に注意が必要だ。なお、共働き夫婦の場合、もし妻のほうが収入が高ければ、子どもを妻の扶養家族にしたほうが有利といえる。

独身の人は、「扶養控除なんて私とは関係ない」と思うのが普通。でも、親の生活を援助しているときは、親を扶養家族にできるかもしれない。たとえば、親が65歳以上で収入が公的年金だけの場合、年金収入158万円以下なら扶養家族にできる可能性あり。また、遺族年金は税務上の収入にならないため、「遺族年金で暮らしている母」を扶養家族にできる可能性はさらに高い。ただし、いずれの場合も常々生活費を仕送りしているなどで「生計が1つ」と認められることが条件だ。

申告忘れも確定申告でフォローできる

「年末調整の書類をもう出してしまった」という人もあきらめないで! もし申告していなかったものがあるのなら、なるべく早く総務部に相談してみよう。「もう間に合わない」と言われたときは、自分で確定申告すれば問題なし。会社員の還付申告は来年1月から受け付けが始まる。「何年も前から申告せずに損していた」という人も、過去5年分は申告できる。期限切れになる前に税務署に行ってみよう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。