伝え方がうまい人は、何が違うのか。元東洋経済オンライン編集長の武政秀明さんは「誰もが見たことある“よくある表現”を使わないほうがいい。注目されず、魅力も伝わらなくなってしまうだろう。ビジネスで活用できる4つの視点がある」という――。(第2回)

※本稿は、武政秀明『22文字で、ふつうの「ちくわ」をトレンドにしてください』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

収穫したトマトを持つ手
写真=iStock.com/mikimad
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“ありふれた表現”では、魅力が伝わらない

「何をどう書けばいいのかわからない」
「何を書いても、どこかで見たことのある文章になってしまう」

そう感じた時は、きっとそのものの「よさ」や「何を伝えたいか」「何を伝えるべきか」が見えていません。どんなものにも、本当はそれぞれの価値があるのだと思います。でも、それを伝える人が気づいていなければ、その価値は埋もれてしまいます。

「心を込めて作った料理」

こんなキャッチフレーズ、よく見かけますね。ほかにも「業務効率化のご提案」「品質にこだわった新商品」「生活をもっと快適に」「大切な人に食べてほしい」「親がやっていいこと/悪いこと」などなど。SNSの投稿から企業のプレスリリースまで、ほとんどがどこかで見たような、誰かが書いたような言葉の組み合わせでしかないものも多いように思います。残念ながら、これではたくさんの情報の中に埋もれてしまいます。

なぜでしょうか。それは、どこかで見たような言葉の組み合わせだけでは、どんな場面なのか、何をしているのか、頭に絵が浮かばないからです。では、なぜこのような表現ばかりが生み出されるのでしょうか? それは、本来あるはずの価値を見落としているからだと思います。

「事実」をあらゆる角度から見る

コーラの入ったグラスを考えてみましょう。上から見ると、そこには黒い丸が見えるだけ。でも、横から見ると、褐色の液体に光が差し込み、泡が立ち上る様子が見えます。斜め上からのぞき込めば、それがグラスに入っているとわかります。

言葉も同じです。同じ事実でも、どの角度から光を当てるかで、まったく違う表情を見せてくれます。その中に、あなたが書くべき「価値」があるはずです。

もっと別の見方があるのに、「視点」を変えて見ていないから、そのものの価値に気づかないし、「何を伝えたいか」「何を伝えるべきか」につながってこないのです。すると、どうしてもどこかで見聞きしたことのある表現を用いがちです。「見聞きしたことのある表現」がすべてよくないわけではありませんが、借り物の表現だと、その本当の価値は伝わらないものだと思います。

大事なのは「事実」を色々な角度から見ること。そのものの価値をわかったうえで言葉にしないと、差別化もできないし、伝わらないのです。ただし、言葉を盛ればいいというものではありません。あくまでも「事実」から見つけていくのが正攻法だと思います。

「漁師町で生まれた絶品パスタ」とすると“物語”が見える

ここで、価値を見いだす4つの視点を紹介します。

① 視点をずらす 例:「本日のパスタ」から「漁師町で生まれた絶品パスタ」へ
② 抽象から具体へ 例:「高品質」から「職人が一つずつ手作業で」へ
③ マイナスをプラスに 例:「型落ち」から「実績十分」へ
④ 看板から価値へ 例:「読書会」から「著者の真意を考察し合う読書会」へ

言葉で飾り立てるのではなく、そのものの価値に光を当て、その価値が照らし出されるような表現を目指しましょう。

【① 視点をずらす】

では、どうすれば行動を促す角度から光を当てられるのでしょうか。まずは視点を変えることです。

飲食店のメニューを例に見てみましょう。「本日のパスタ」という表現は、ただの事実です。

でも、その場所に目をつけて「漁師町で生まれた絶品パスタ」と角度を変えれば、その土地ならでは、そのメニューならではの物語が見えてきます。さらに、店主が特に力を入れている仕事に目をつけて「港町の朝市で選んだ、今が旬の魚介たっぷりのパスタ」とすれば、新鮮さという価値が浮かび上がります。角度を変えることで、同じ事実でも異なる価値が見えてきます。

シーフードのパスタ
写真=iStock.com/ctktiger1018
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「高品質」を「職人が一つずつ手作業で」と言い換えると“頭に浮かぶ”

【② 抽象から具体へ】

「心を込めて作った料理」では、頭に絵が浮かびません。では、次の文章はどうでしょうか?

「その日一番の旬の野菜を、5時間煮込んだ料理」

この一文からは、次のようなことが伝わります。

・店主のこだわりが感じられる(具体的な行動)
・その日一番、届いてすぐの野菜なら新鮮かもしれない(明確な時間)
・旬の野菜を使ったこだわりの料理が食べられるなんて、体によくて美味しそう(特別な価値)
・5時間煮込むなんて手が込んでいる(具体的な行動)

この違いはどこからくるのか。それが「具体化」です。言葉は「絵」として描いて見せることで、人の気持ちが動く、とお伝えしましたが、そのためには「具体化」することが大事です。

たとえば、業務改善企画書のタイトルに「業務改善について」とあっても何も頭に絵が浮かびません。ところが、「残業20%削減、毎日17時退社実現のご提案」とあれば、会議室で資料を見る姿や、定時退社で帰る様子が想像できます。商品説明でも「高品質」と書かれていても抽象的で何も絵が見えません。

「職人が一つずつ手作業で」とあれば、工房で丁寧に作業する職人の手元が見えてきそうです。雑談でも、「最近どうですか?」と聞いて、「まあまあですね」と言われたら、会話は止まってしまいます。でも、「最近○○にハマっていて……」などと具体的な話になれば会話も続きます。

頭の中に絵が浮かぶと、相手は「自分ごと」として受け止められます。そして「読んでみたい」「試してみたい」という気持ちが生まれるのです。具体化とは、言葉で絵を描くこと。その絵が鮮明であればあるほど、「最初の言葉」は確実に相手の心に届くようになります。

「5W1H」に分解して考える

価値が見つからない時は、シンプルに「5W1H」で考えてもよいと思います。これは、価値が見つかっていても、「あいまいな表現」になってしまう時にも使える方法です。

どんなことについても、なんらかの背景があるはずです。短い文章の場合、背景や理由について、直接は書かないかもしれませんが、「Why」(なぜ)から考えて言葉を組み立てられれば、背景や本質に迫る内容に仕上げられます。

企業の会社案内でよく見る、次のような表現。

「質の高いサービスを目指します」

これは、誰が見ても具体的な姿が見えない言葉です。5W1Hで分解して考えます。

「なぜ」(Why):クレーム撲滅を目指し(背景)
「誰が」(Who):全スタッフが
「いつ」(When):毎日
「どこで」(Where):朝礼で
「何を」(What):前日お客様からいただいたご意見を
「どうやって」(How):共有して日々改善しています

ここから、「全スタッフが毎日の朝礼でお客様のご意見を共有し、日々改善しています」という具体的な言葉に早変わりです。ほかにも、「頑張ります」「クオリティの高い」「全力で」「全社一丸となって」「こだわりの」などなど、何かを言葉で書いたり話したりして説明する時、抽象的な表現はよく使われがちです。

おそらく、学校で「どう書けば相手に伝わるか」という練習をあまりしてこなかったし、「言わなくてもわかるでしょう?」という文化の中で育ってきたからだと思います。でも、それだけでは、相手には伝わらないのです。

「闇落ちとまと」でポジティブな印象に

【③ マイナスをプラスに】

『闇落ちとまと』という言葉を目にした時、あなたは何を想像するでしょうか。トマト農家の曽我農園(新潟市)さんが、生産者の間で「尻腐しりぐさ」と呼ばれる、表面に黒いアザができた状態のトマトを、このように命名して売り出しました。

同じものを指しながら、『尻腐れ果』と呼ぶか『闇落ちとまと』と呼ぶかで、私たちの受け取り方は大きく変わります。前者からは「見た目がよくない」「廃棄すべき」というネガティブなイメージを受けますが、後者からは「ダークファンタジーの主人公のような」「何か特別な」といったポジティブな印象を受けます。

闇落ちとまと
提供=曽我農園
闇落ちとまと

このトマトは食べられます。むしろ、通常流通しているトマトより甘いといわれています。まるで主人公が試練を乗り越えて新たな力を得るように、一見、マイナスにも思える特徴(黒いアザ)を超えて、より甘い味という特別な個性を獲得している――そんな物語が、この名付けには込められているのです。

ちょっと発想を転換すれば、マイナスをプラスにする表現は、色々考えられます。「傷あり商品」→「ちょっと冒険品」、「型落ちモデル」→「実績十分モデル」、「在庫処分セール」→「お宝発見セール」、「見切り品価格」→「緊急時価」など、見方一つでまったく違った価値が生まれます。

「体験」「変化」をイメージできるようにする

一見、マイナスに思えるけれど、それが肯定的にとらえられたり、ユニークなものとしてとらえられることはよくあります。不恰好なところに愛嬌を感じる「ブサカワ」や、技術的には下手だけど個性や味がある「ヘタウマ」などと言われて人気が出たものをみなさんもご存じではないでしょうか。

どれも現実は変わっていないのに、言葉が変わると魅力的にすら見えてきます。マイナス要素の中にもプラス要素は隠れているからです。長所と短所は表裏一体です。ぜひそうしたポイントを見つけ出してください。

【④ 看板から価値へ】

表面的な名称や分類だけでは、価値を感じづらいことがあります。そんな時は、そこで得られる体験や変化に主眼をおいて言葉を作ってみます。

「読書会の参加者募集」→「あの本に隠された著者の真意を考察し合う読書会」
「地域交流会のお知らせ」→「近所に住んでいるのに初めて話す人と友達になれる交流会」

どちらも同じ活動ですが、それぞれの言い換えた後の言葉からは、具体的な体験や自分の変化をイメージできます。どうすれば「価値」を見つけられるのでしょうか。次の3つのポイントを考えて当てはまりそうなことを掘り下げてみるといいでしょう。

①実際にどうなるか?
②周囲からどう見られるか?
③どんな気持ちの変化が起こるか?

「読み手がどう思うか」を一番に考える

他では得られない価値であることを示すこと。そして相手が「自分もそうなりたい」と思える具体的な変化を伝えることが大事です。

武政秀明『22文字で、ふつうの「ちくわ」をトレンドにしてください』(サンマーク出版)
武政秀明『22文字で、ふつうの「ちくわ」をトレンドにしてください』(サンマーク出版)

大切なのは、単に「よい表現」を探すのではなく、「確かな価値」を見つけることです。私たちは見ているつもりで、気づいていないこともよくあります。でもそこで、誇張したり、煽ったりするような表現に逃げるのではなく、本当にそこにある価値を、異なる角度から照らし出すことが必要です。

でも、最終的に一番大切なのは何でしょうか? 答えは、「相手の立場で考える」ことです。

「この表現は、読む人にとってわかりやすいだろうか」
「相手が興味を持ってくれそうか」
「自分が読者の立場だったら、どう感じるだろう」

そんな風に、常に読み手の目線に立って言葉を選ぶ。それが、見たことがある表現を卒業し、相手の心に確実に届く近道になるのです。技術も大切ですが、最後は「相手への思いやり」が言葉を輝かせるのです。