※本稿は、サンドラ・ヘフェリン『有休取得率100%なのに平均年収が日本の1.7倍! ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)の一部を再編集したものです。
「休むのが大好き」なドイツが日本を抜いた
はじめまして。サンドラ・ヘフェリンと申します。
私は日本人の母親とドイツ人の父親のもとに生まれ、ドイツで育ちました。
23歳で日本に来てから、人生の半分以上を日本で過ごし、今年で50歳を迎えます。
現在、多文化共生をテーマに、書籍やコラムなどの執筆活動をしております。
「2023年にドイツのGDPが日本を追い抜いた」というニュースを聞いたとき、私は衝撃を受けました。
というのも、ドイツ人は昔も今も「休むのが大好き」。
しかも、長い海外旅行が大好きで、勤め人であるにもかかわらず、3週間続けて海外で過ごすことも珍しくないほど。
ドイツ人にとって、休むことは仕事と同じぐらい大事……いえ仕事以上に大事なことなのです。
そんな国民性を持つドイツが、日本を追い抜いたというではありませんか。
東ドイツの崩壊は市民が海外旅行をしたかったから
思えば、今から36年前にベルリンの壁が崩壊したのも、発端は多くの東ドイツ市民が「海外への旅行の自由化」を求め、数週間に渡って大規模なデモを繰り返したことがきっかけでした。
共産圏だった東ドイツでは、海外旅行が制限されており、同じ共産圏への旅行が許可されることはあっても、西側への渡航は例外をのぞき、許されていませんでした。
でも、ドイツ人のかねてからのDNAがそうさせたのでしょう。
「海外を旅行したい」という強い思いが、言ってみれば国の体制の崩壊にまでつながったのです。
つまり、見方によっては、「東ドイツが崩壊したのは、みんな海外旅行をしたかったから」と言うこともできるわけです。
話がさらに遡るようですが、第二次世界大戦中の軍隊には「Fronturlaub」(前線休暇)もあったことを鑑みると、ドイツ人というのは「いかなるときでも休暇を取る人たち」だということがわかります。
仕事は「休暇ありき」
時は流れ、今のドイツは戦争のない平和な国です。
そんなドイツでは、フルタイムの会社員であっても、仕事はもちろん「休暇ありき」。
ですから、新年早々に社内で回覧板(最近はオンラインの場合もあります)をまわし、「今年は誰が、どの月に休暇を取りたいか」を各自が書き込み、共有することが毎年の恒例になっている会社もあります。
新しい年が始まろうとしているときに、「まずはその年の休暇を考える」というのは、いかにもドイツ人らしい話。
さらに、ドイツはGDPで日本を追い抜いたばかりか、現在、ドイツ人の平均収入は日本の1.7倍であるというデータもあります。
このようなことから、ドイツ人は休みを戦略的に取り入れ、効率的に働くことで、しっかり結果までも出していると断言できます。
ここまで読んで、もしかしたら、こう思われたかもしれません。
「『働き方改革』で改善されたものの、100%有休を取るなんて、日本では難しい」
「頑張って働いているのに、ドイツ人のように休むことなんてできるわけがない」
「これ以上休むと、仕事量が減って、収入に響いてしまう」
しかし、よく考えてみれば、日本もドイツも先進国であり、世界のほかの国と比べて貧富の差が少なく、中間層が多い国です。
ドイツにできることは日本にだってできます。
どれだけ効率的に働くか
ドイツでは現在、週休3日の実施は企業や団体の判断に委ねられています。
一概には言えないものの、ドイツの傾向として、多くの人が「どれだけ時間をかけて働くか」ではなく「どれだけ効率的に働くか」にスポットを当てていると感じます。
したがって経営陣にも平社員にも「週休3日」のファンが多いのです。
本記事では、ドイツ人女性のお話を通して、「オンとオフをはっきりさせる」「会社の制度が許す限り、自分に合う働き方を追求する」という2点を紹介していきます。
週休3日で働くプロジェクトマネージャー
希望すれば週休3日が実現する
「週休3日が私に一番合う働き方。このスタイルを変える気はないわ」。
こう語るのはミュンヘン在住のカトリンさんです。
プロジェクト・マネージャーとして働くカトリンさんは、3年半前から「月曜日から木曜日は9時から16時まで働く」、そして「金曜日はお休み」という働き方です。
取材でカトリンさんに仕事の詳細を聞いている中で、彼女は「Ich bin eigentlich Mädchen für Alles!」(プロジェクト・マネージャーではあるけれど、実際には、会社の中の雑用はなんでもやる『なんでも屋さん』なの!)と言って笑いました。
日本の感覚で考えると、「なんでも屋さん」こそ随時会社にいるべきで、休みは取りにくそうですが、そうでないのがドイツなのです。
今の会社に入ってから3年半だというカトリンさんは、最初から「週休3日」を希望すると伝えた上で入社しました。
あらかじめそのような働き方を希望した理由は、カトリンさんがかねてより「週休3日が自分に合っている」と感じていたからです。
というのもカトリンさんには現在21歳の娘がいますが、娘が小さいときは別の会社で「時短」で働いていました。
子供が4歳のときに「フルタイムに戻って」と当時の職場に言われ、一度はフルタイムに戻しましたが、仕事と子供の狭間で強いストレスを感じたと言います。
したがってその後、勤務スタイルを再び時短に戻してもらいました。
そんな中、時短で働き続け、子供が大きくなってからも「時短という働き方」が一番自分にとって気持ちのいい働き方だということを改めて自覚したとのことです。
最低でも8時間は眠る
・カトリンさんの朝のルーティン
そんなカトリンさんに「仕事をする日」の「朝のルーティン」を聞いてみました。
カトリンさんは仕事をする月曜日から木曜日は夜22時50分に寝て、朝7時15分に目が覚める生活なのだとか。
「自分はhochsensibel(とてもセンシティブ、とても感受性が強い)で、人よりもストレスに耐えられない体質だと気づいたの。だから最低でも8時間は眠るようにしている」とのことです。
・カトリンさんの仕事のサイクル
前述通り、カトリンさんは月曜日から木曜日まで毎日7時間仕事をし、金曜日はお休みという「週休3日制」で働いています。
けれど、「仕事の日」=「出社」ではありません。
カトリンさんは2年前から月曜日はホームオフィス、火曜日と水曜日は出社、木曜日はホームオフィスというスタイルを続けています。
上司もリモートワークの日が多いのです。
その上司が火曜日と水曜日に出社するため、重要事項などを話し合うために、毎週2日は顔を合わせたほうがいいということで、カトリンさんも上司のいる火曜日と水曜日は出社しています。
カトリンさんが働く会社ではホームオフィスが当たり前ですが、そのきっかけは、やはり「コロナ禍」でした。
ホームオフィスにしたことで、コロナ禍の前までは会社のあるミュンヘン市内に住む人、またはミュンヘン市内から通勤できる距離に住んでいる人しか雇うことができなかったのが、ミュンヘンやバイエルン州にこだわらず、ケルンをはじめ、ドイツのさまざまな地域の人を雇うことができるようになりました。
散歩、料理、瞑想…お昼休みの過ごし方も様々
・カトリンさんのランチ事情
ランチ事情についてカトリンさんはこう言いました。
「うちの会社は出社時もホームオフィス時もお昼休みは2時間半まで取ってOKなんだけど、私はホームオフィスの日に軽い昼寝をすることもあれば、家でお昼休みに料理をすることもあるの。ホームオフィスの日のランチ時に30分のメディテーション(瞑想)をすることもあるわ。そうすると、その後の仕事がビックリするぐらいはかどるのよ。昼寝、料理と瞑想以外にもホームオフィス時のお昼休みの楽しみはあるわ。それは家の隣に住んでいる70歳の男性と一緒に近所の公園に散歩に行くことなの。これも私の在宅時の昼時の日課のようになっているの。隣のマンションの男性と午前中に連絡を取り合って『今日は13時にどう?』なんて約束をして一緒に散歩に出かけるのよ。2人で近所の公園に行って歩きながらおしゃべりするだけなんだけれど、お互いにいい気分転換になっているの」
日本であれば、なんとなく近所の人の目を気にして、異性と交流を持つときには、かなり慎重になる人が多い気がします。
一方で、ドイツでは年齢も性別もあまり関係なく、同じ趣味があって、話が合えば「会いましょう」ということになります。
そして念のために付け加えておくと、隣人であるおじいさんとの散歩は、それ以下でもそれ以上でもありません。
彼女の話を聞いていて、本当にさわやかだなと感じました。
散歩や自然、近所の人との交流を大事にするドイツ人らしいエピソードかもしれません。
ホームオフィスのお昼休みをじゅうぶんに楽しんでいる様子のカトリンさんですが、マイナス点もあると言います。
「やっぱりホームオフィスではお昼休みに隣人と散歩する時以外は、1日中誰とも話さないこともあるから、孤独だわ」。
そしてこう続けます。
「週に4日間仕事をして、その半分の2日間がオフィス出勤、半分がホームオフィスというのが、本当にバランスよくて気に入っているの!」。
明るい笑顔からは充実した毎日を送っていることを窺い知ることができました。
オフィスの机に張りつく=仕事ではない
複数のドイツ人にホームオフィスの話を聞いてきて思うのは、「自由だな」ということです。
日本ではホームオフィスというと、「社員が好き勝手にやるのは困る」「どのように監視をするかが課題」ということにスポットが当たりがちですが、ドイツの場合は、年間30日の有休があるのがいわば普通ですし、ほとんどの人がその30日を全部消化しています。
そういった雰囲気の中で「上司や同僚の目の届くところ、つまりはオフィスの机に張りついて仕事をすることがいい」という感覚は、今のドイツではほぼなくなりつつあります。
ですから、ドイツで「ホームオフィスだと社員が何をやっているかわからない」という意見を持つ人がいないことはないのですが、経営陣がその手のことをあまりに堂々と言うと、むしろ逆に経営陣の良識が問われてしまいます。
なぜなら、そういった発言により「自分は、自分が雇った従業員を信用していない」と公言しているに等しいからです。
ホームオフィスだからこそフレキシブルに働き、自分のペースでお昼休みを取ったり、郵便局や銀行に行ったりと、平日しかできない用事をすませる人もいれば、買い物をしたり、住んでいる一軒家の芝刈りをした、という人も。
ホームオフィスは「融通が利く」からこそ「働き方」として人気があるのです。
そして「だからこそ会社が社員にとって魅力的であり続けることができる」という共通認識がドイツにはあります。
頭が冴えている11時ぐらいまでにやること
・カトリンさんのルーティン
なんとも充実した生活をしているカトリンさんに「仕事のスタート時のルーティン」について聞いてみると、
「出社している日の場合、まずはバッグを席にポンと置いて、PCを立ち上げる。それからはメールをチェックする。私の仕事は会社のコーディネート(会社の内部の予定や外部の顧客との予定など)も多いから、メールに目を通して、その日にやるべきことを手帳にメモするの」。
メールをチェックしたあとは10時ごろから顧客に電話をすると言います。
一通りの連絡作業が終わったら、会計の仕事がある場合は、なるべく早く会計事務の作業に取りかかるとのこと。
新しく入ってきたプロジェクトについて、誰が何をやるのかを考えるのは、やはり「頭が冴えている午前11時ぐらいまでがベスト」なのだとか。
作業は「立ったまま」する
・カトリンさんの場合
欧州では、スタンディングデスク、つまり立って仕事をする人が増えています。
これは健康面・集中力向上のために注目されたもので、ホームオフィスの増大で一気にドイツにも広がりました。
一連の作業をカトリンさんはスタンディングデスクを使用して「立ったまま」しています。
会社は2年前に移転しましたが、その際にカトリンさんは「スタンディングデスクがほしい」と申し出て会社が用意してくれたのだとか。彼女はこう言います。
「基本的にはずっと立って仕事しているわ。食事のときは座ったほうが健康的だと聞いて、そのときだけは座るようにしているの」。
基本的にドイツの職場では、昔から「仕事中に食べること」が「よろしくないこと」だとはされていません。
また日本のように「お客さまの前で食べるのは失礼」という感覚もドイツ人は持ち合わせていません。
ちなみに、ドイツでは「立ったままモノを食べる」人も多いので、「食事のときは座ることにしている」というカトリンさんは、割と珍しいタイプのドイツ人かもしれません。
カトリンさんはかなりの健康志向なのです。
カトリンさんが「週休3日で働けていること」、さらに「仕事をする4日間のうちの半分である2日間をホームオフィスで働けていること」には彼女の交渉力も関係しているとは思うものの、やはりワークライフバランスを重んじる人が多い「ドイツ」にいることが、彼女の生きやすさにつながっているのかもしれません。
