皇位継承問題をめぐるキーパーソンは誰か。皇室史に詳しい宗教学者の島田裕巳さんは「この問題について話し合う重要な会議の1つに『皇室会議』があり、たとえその場で皇族の発言に制約があるとしても、皇位継承順位第1位の秋篠宮皇嗣殿下の考えを無視することはできないだろう」という――。

秋篠宮家の立場が鮮明になった成年式

何か重要な出来事が起こると、それに関連して、これまで意識されなかったことがはっきりしてきたりする。

2025年9月6日の秋篠宮家の悠仁親王の成年式は、まさにそうだった。秋篠宮家が置かれた立場というものが、今まで以上に鮮明になってきたのではないだろうか。

何よりもまず、秋篠宮家のあり方というものを考える必要がある。平成時代に天皇であった現在の上皇には3人の子どもが生まれ、長男徳仁が今上天皇である。秋篠宮文仁親王が次男で、さらにその下には、結婚して皇室を離れた黒田清子さやこ氏がいる。

1993年、皇太子徳仁親王(現・天皇陛下)は小和田雅子氏と結婚し、その間には愛子内親王が生まれた。ただ、子どもはそれだけで、天皇家に親王は生まれなかった。このことが、皇室問題に重大な影響を与えることになる。なお、黒田家には子どもはいない。

天皇陛下の65歳の誕生日を祝う一般参賀に臨まれる天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2025年2月23日午前、皇居
写真=時事通信フォト
天皇陛下の65歳の誕生日を祝う一般参賀に臨まれる天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2025年2月23日午前、皇居

“特例”の皇嗣である秋篠宮文仁親王

1990年、文仁親王(現・秋篠宮皇嗣殿下)は川嶋紀子氏と結婚し、その間には、眞子内親王(現・小室眞子氏)、佳子内親王、そして悠仁親王が生まれた。

皇位継承順位ということでは、秋篠宮が第1位で、悠仁親王が第2位である。他に、上皇の弟である常陸宮正仁親王がいて、順位としては第3位だが、すでに89歳とかなりの高齢である。

秋篠宮は、皇太子ではなく、「皇嗣こうし」という立場にある。継承順位が第1位であるにもかかわらず、皇嗣となっているのは、「皇室典範」において、皇太子は「皇嗣たる皇子」となっていて、皇子とは天皇の子どもを指すからである。秋篠宮は今上天皇の弟で子どもではない。

ただし、上皇が生前退位を行うために定められた「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」では、第5条において、「この法律(特例法第2条)による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太子の例によるものとする」とされている。第2条とは、「天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位するものとする」を指す。

皇太子にならず家の名前も残したい意向

この特例法の規定がある以上、皇嗣である秋篠宮が皇太子になることはあり得た。ところが、以前の記事でもふれたように、上皇の生前退位についての検討が行われている中で、有識者会議では、政府高官から秋篠宮自身が「皇太子の称号を望んでおらず、秋篠宮家の名前も残したい意向だ」という説明があった。そのため、秋篠宮は皇太子にはならず、皇嗣という立場になったのである。

秋篠宮には、自らが天皇に即位するつもりがない。この点は重要である。

そして、秋篠宮が即位しないということは、悠仁親王が皇太子になる可能性がないということである。

悠仁親王が皇太子になるには、秋篠宮が天皇にならなければならない。しかも、悠仁親王には皇嗣になる機会もめぐってこない。今の「皇室典範」の規定では、今上天皇が退位し、秋篠宮が即位しないのであれば、悠仁親王は、皇太子にも、また皇嗣にもならないまま天皇に即位することになる。

次代天皇は皇太子にならないまま即位する

歴史をさかのぼれば、皇太子にならないまま天皇に即位した例はいくらでもある。たとえば、江戸時代の第119代光格こうかく天皇は、世襲親王家として設けられた閑院宮かんいんのみや家の出身で、先代の後桃園ごももぞの天皇に直系の皇子がいなかったため、その養子となって皇位を継承している。その点では、悠仁親王が皇太子を経ないまま天皇に即位しても、異例だというわけではない。

しかし、悠仁親王の立場が、かなり曖昧なものであることも確かである。成年式に関連してその点があらわになったのが、その後に開かれる公的行事の祝宴が、皇居の宮殿ではなく、民間のホテルで行われたことである。天皇家の親王なら、それは宮殿で行われたはずである。宮内庁はその点について、「宮殿は天皇の諸行事が行われる場であり、宮家主催の行事を宮殿で開くことは適切ではない」というコメントを発表した。

秋篠宮家が住んでいるのは赤坂御用地であり、天皇家とは違い、皇居ではない。赤坂御用地には、上皇夫妻の仙洞せんとう御所や三笠宮邸、高円宮邸がある。大阪の万博を訪れた悠仁親王が、会場の広さについて説明を受けると「皇居より広いですね」とコメントしたことがニュースにもなったが、悠仁親王にとって、皇居は住まいではなく、天皇家という別の家なのである。

秋篠宮ご一家(2020年撮影)
秋篠宮ご一家(2020年撮影)(写真=外務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

秋篠宮家が傍系であることの曖昧な扱い

秋篠宮には、自分が、そして秋篠宮家が直系ではなく、傍系だという自覚が強い。宮内庁のほうも、あくまでそうした扱いをしている。将来において、悠仁親王が天皇に即位する可能性が最も高いにもかかわらず、である。

そのため、外から見ているとちぐはぐな出来事が頻発し、そのたびに、その理由を臆測するような報道がなされる。ホテルでの祝宴や民間施設での昼食会のことなどがそうだ。それは、決して健全なことではない。

それも、明治の大日本帝国憲法と同時に天皇家の家憲として定められた「旧皇室典範」が、天皇直系による皇位の継承にこだわりすぎたからである。「旧皇室典範」に目を通す人も少ないだろうが、その記述の仕方はなかなか興味深い。

第2条で「皇位ハ皇長子ニ傳フ」、つまりは天皇の長男に皇位は継承されるものだという大原則が示されている。その後、皇長子がいないときは皇長孫にとされ、それ以降、範囲が次々と拡大されていく。そして、第7条では、「皇伯叔父及其ノ子孫皆在ラサルトキハ其ノ以上ニ於テ最近親ノ皇族ニ傳フ」と、最後は、天皇と血がつながっていれば、誰でもいいとなっているのである。

皇太子になると、天皇の子ども、もしくは孫、曾孫までしか想定されていない。その規定が、戦後に法律として定められた現在の「皇室典範」に受け継がれ、秋篠宮家の立場を曖昧なものにしているのである。

保守派はなぜ秋篠宮家の立場を論じないのか

私が不思議に思うのは、男系男子による皇位継承を絶対の原則とし、その維持を主張する保守派といわれる人たちが、こうした秋篠宮家の曖昧な立場について、注目もせず、改善の提案も行っていないことである。彼・彼女らは、将来悠仁親王が即位することを前提としていながら、どういったプロセスでそれが実現されるのか、そのことにまったく思い至っていない。果たしてそんなことで、皇位の安定的な継承が実現できるものなのだろうか。

しかも、無視できないのが、秋篠宮の意向である。秋篠宮は、自らが天皇に即位する意思がないことを示している。そして、それに関連して、秋篠宮家の名を残したいとさえ考えているのだ。いったいこれは何を意味するのか。おそらく、それを真剣に考えた人間はいないであろう。

秋篠宮家の名が残るとはどういうことなのだろうか。現在の秋篠宮家には、文仁親王と紀子妃がいて、佳子内親王と悠仁親王がいる。秋篠宮家が途絶えないためには、佳子内親王か悠仁親王が家を継がなければならない。

佳子内親王が結婚して、皇室を離れることになれば、悠仁親王しか秋篠宮家を継ぐ人間はいない。ところが、悠仁親王が天皇に即位すれば、それが天皇家となるわけで、秋篠宮家はその時点で消滅する。これでは、その名を残すことはできない。

2019年10月22日、令和の「即位礼正殿の儀」に参列した秋篠宮ご夫妻
2019年10月22日、令和の「即位礼正殿の儀」に参列した秋篠宮ご夫妻(写真=首相官邸/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

愛子内親王の即位を皇嗣が望む理由

それでも秋篠宮家が残るとしたら、2つの場合が考えられる。1つは、女性宮家の創設が認められるようになり、悠仁親王が即位しても、佳子内親王が秋篠宮家を名乗る場合である。

もう1つは、佳子内親王が結婚しないときで、そのまま秋篠宮家の当主となる場合である。こちらは、9月30日の皇室経済会議で、彬子女王が三笠宮家の当主となった事例ができたので、現実味を帯びてきた。

しかし、秋篠宮の念頭には、そうしたことは想定されていないのではないだろうか。紀子妃の場合も同じだろう。前掲の記事でふれたように、悠仁親王が生まれてから、秋篠宮家の学習院離れがはじまったからである。

秋篠宮が秋篠宮家の名を残したいという希望を表明したのも、天皇は直系の子どもが継ぐべきだという考えがあってのことではないだろうか。つまり、悠仁親王が即位するのではなく、愛子内親王が即位すべきだということである。

愛子内親王殿下(御所にて)出典=宮内庁ホームページ
愛子内親王殿下(御所にて)出典=宮内庁ホームページ

もちろん、現在の「皇室典範」の規定では、それは実現不可能である。ただ、秋篠宮の考えとしては、それは天皇家に男子が生まれなかったためで、責任はひとえに天皇家にあるということになる。少なくとも、秋篠宮家という傍系がその責任を負い、悠仁親王を天皇に即位させるのは“理にかなっていない”ということではないだろうか。

皇室会議で無視できない皇嗣の意向

皇位継承の順位や皇室からの離脱について審議するのは、「皇室会議」の役割である。その議員は10人で、三権の長などとともに、2人の皇族が含まれている。現在の皇族の議員は常陸宮の華子妃と、秋篠宮である。

もちろん、皇族が皇室会議において発言する内容に制約があるはずだ。だが、今上天皇が退位して次は誰かとなったとき、継承順位第1位の秋篠宮の考えを無視することはできないだろう。無理に次代天皇を決めるわけにはいかない。

さらに、秋篠宮が秋篠宮家の存続にこだわったとしたら、一体どうなるのか。

少なくとも、皇位継承の安定化の議論に参加する政治家は、そうした事態を想定しておくことが不可欠である。秋篠宮は愛子天皇を望んでいるのかもしれないのである。