セックスレスに悩む夫婦は少なくないが、どうすれば改善できるのか。セックススタイリストの佐野あゆみさん監修、漫画家の喜国雅彦さんによる『男女逆転 ラブレッスン』(径書房)は、体が入れ替わってしまった男女がお互いの本音に向き合う作品になっている。なぜこのような本を出したのか、2人に聞いた――。(聞き手・構成=径書房代表・原田純)
漫画家の喜国雅彦さん(左)とセックススタイリストの佐野あゆみさん
筆者撮影
漫画家の喜国雅彦さん(左)とセックススタイリストの佐野あゆみさん

「怒られている」と感じてしまう男性たち

「男性の8割から9割は、夜の営みが下手だということに気づいてしまったんです」

対談が始まって早々、セックススタイリストの佐野あゆみさんが衝撃的な発言をする。

この対談は、漫画『男女逆転 ラブレッスン』(径書房)を刊行した直後の8月、強い日差しを浴びるビル群が窓越しに見える、銀座のとある一室で行われた。

この漫画を出版したきっかけは、一般社団法人「心と体コミュニケーション協会」を主催し、これまで1万1000人以上の男性に「女性から求められる営み」を教えてきた佐野あゆみさんと筆者が出会ったことにあった。

普段の佐野さんは、落ち着いた清楚な女性という印象。そんな彼女が「女性から求められる営みを男性に教えること」を仕事にしたのは、ご自身が、「セックスで気持ちよくなれなくて悩み抜いたから」だという。その彼女が、もてる限りの知恵や知識を惜しみなく披瀝ひれきして、漫画『男女逆転 ラブレッスン』の原案を書き、監修をしてくださった。

「だけど、私がセックスについて、『こうしたほうがいい』とか『こうしたら女性は喜ぶ』とかって男性に向けて文章を書くと、男性はどうしてか、怒られていると感じちゃうみたいなんですよ」

AVは熱心に観るのに、指南書は読まない

佐野さんの言葉を受けて、隣に座っている対談のお相手、漫画家の喜国雅彦さんが答える。

「男はね、セックスについて、『こうしなきゃダメ』とか、『これじゃダメ』と言われると萎えるんですよ。絶対に萎える。特に女性に言われるのはイヤだ。だから、佐野さんが書いた原案を、どうしたら男性が抵抗なく読めるものにできるか、さんざん考えたんです」

佐野さんの原案を受け、『男女逆転 ラブレッスン』の原作・漫画を描いてくださったのが喜国雅彦さん。これまで、フェチやMの男性を主人公にした漫画を多く描いてきた方だが、本書を最後に漫画家を卒業するという。

「なんの因果か、最後の最後に、まともな男女のからみを描くことになってしまった」と言って笑い、続けて「実は、これまで描いてきたフェチやMの男は、僕自身がネタなんです」とサラリと言ってのける。お連れ合いの漫画家・国樹由香さんとは、夫婦仲が良いことでも知られる方だ。

「男は、AVなんかは熱心に観るけど、セックスの教科書みたいなものは、ほとんど読まない。だけど、幸せなセックスをしてこなかった女性の気持ちを、自分の顔をしたヤツから言われたらどうだろう。それなら、すんなり聞けるのではないかと。それで、男と女を逆転させてみたんですよ」

「漫画になったらぜんぜん違いますよね。本当に笑いながら読めて、すんなり入ってくる」

気持ちよくなれないのは、女性の問題なのか

佐野さんのいう通り、喜国さんのアイデアによって、『男女逆転 ラブレッスン』は、自分勝手なセックスをする男性に女性が怒りを爆発させても、男性がそれを素直に受け止めるという、現実にはあり得ないような場面が、不思議なほど違和感なく読める。

女性の体になった男性が、男性の体になった女性のテクニックに悶えると、「そうそう、こういうふうにしてほしいのよ」とうなずきながら、なぜか笑える。女性の体になった男性が責められて痛がると、「たいていの女は我慢しているんだけどね」と、ちょっと意地悪な気持ちになりながらも、また笑ってしまう。

よくあるテクニック重視のセックス指南書とは、大きく違う漫画になっているのだ。

――セックスで気持ちよくなれないのは、私に問題があるからだろうか。

これは、多くの女性が抱える、誰にも相談できない、しかし本人にとっては極めて深刻な悩みである。多くの女性が、無記名のアンケートで「イッたふりをしたことがある」と答えているのはそのせいだろう。対談の進行役を務めていた私も、かつてはその一人だった。

それにしても、佐野さんはなぜ「男性の8割から9割は夜の営みが下手」と気づいたのだろう。

「50人斬りとか言っている段階でダメ」

「学生のころ、私は、いわゆるイケメンの男性とお付き合いしていたんです。その男性は『僕は50人斬りだ』と豪語していた人で、当然セックスも上手なのだろうと思っていました。だけど、彼とのセックスでは、どうしても気持ちよくなれない。どうしてだろうと悩みに悩んで数人と浮気してみたところ、何人目かの男性で、すごく気持ちよくなれた。それで初めて、『ああ、これが正しいセックスなんだ』と気づき、同時に、女性経験豊富なイケメンの男性が、実はセックスが下手だったということに気づいてしまったんです」

喜国雅彦著、佐野あゆみ監修『男女逆転 ラブレッスン』(径書房)
喜国雅彦著、佐野あゆみ監修『男女逆転 ラブレッスン』(径書房)

喜国さんが、やおら口を開く。

「50人斬りとか言っている段階でダメですよね。そんな男は、ろくな男じゃない。それって、50人の女性に捨てられてきたってことでしょう? セックスがよかったら、女性はそういう男性を手放しませんよ。見た目がいいだけの、モテる男はダメだよ、ダメ!」

佐野さんが大きくうなずき、同時に私も大きくうなずいてしまう。ご存じない方もいるだろうが、「イケメンでモテる男はセックスが下手」は、いまや女性のあいだで常識になりつつある。

受講男性たちの“誤った常識”

だがこれは、イケメンに限ったことではないだろう。1万1000人の男性にセックスを教えてきた佐野さんによれば、「8割から9割の男性が『ペニスが大きければ女性は満足する、愛撫は乳房と股間だけでいい』と思っていて、残念ながら、これがほとんどの男性の共通点」なのだそうだ。

なるほど。私のそれほど多くない経験からしても、佐野さんの言葉には説得力がある。つまり、日本の男性のほとんどは勘違いをしていて、だからセックスがうまくならないのだ。

女性は、セックスで気持ちよくなれないことを誰にも言えず悩んでいる。

男性は、自分がセックス下手であることに気づいていない。

「男と女のあいだには 深くて暗い川がある」と、昔、流行った歌を思い出してしまった。

男と女のあいだにある深くて暗い川。私たちは、その川を渡ることができるのだろうか。

腟の劣化は重大な病気を招く

いまから8年ほど前、私は『ちつのトリセツ 劣化はとまる』(径書房)という本を執筆した。「男性は女性の体のことを知らない」と気づいたのは、その本が発売になってすぐのことだった。

『ちつのトリセツ』は、「女性の腟は年齢とともに劣化し、特に更年期以降の女性に重大な疾患をもたらす可能性がある」、それを避けるためには「腟をセルフケアする必要がある」と教えられた私が、実際に腟のセルフケアを行い、それによって起きた自分の体の変化を余すところなくつづった本である。

原田純『ちつのトリセツ 劣化はとまる』(径書房)
原田純『ちつのトリセツ 劣化はとまる』(径書房)

その本を最初に取材してくれたのは、性的な記事を好んで掲載していた男性週刊誌の、40代から50代くらいの男性記者。性的なことに関する知識は人一倍あるだろうと思っていた。ところが彼は、女性の腟が年齢によって大きく変化することを、まったく知らなかった。

「えっ、奥さまは? いらっしゃいますよね?」

問いかける私にうなずく男性記者。

「奥さまの体に起きている変化に、気づいたことはありませんか?」
「いやぁ、そんなこと、意識したことないですねえ。そもそも嫁とはセックスなんてしていないから」

自身の妻なのに、体が変化することを知らない

そう言って笑う彼の年齢からいって、お連れ合いは更年期を迎える年頃のはず。腟が大きく変化し始める時期だ。だが彼は、自分の連れ合いの体に起きている変化を知らないどころか、関心すらもっていないようだ。

妻とセックスレスであることを、どこか自慢げに話す記者に向かって、思わず言ってしまった。

「男性は、女性の体について、すごく熱心に勉強なさっていますよね? それなのに、腟が変化することをご存じないって、いったい、これまでなにをお勉強していらしたのですか?」

くり返しになるが、彼は大手出版社の、誰もが知っているような雑誌の記者である。おそらくそれなりにモテて、女性経験だって少なくはないだろう。それなのに、なにもご存じない。

私はその後、取材に来てくれた男性記者数人に同じ質問をくり返した。だが、誰一人、本当に誰一人、年齢とともに起きる女性の体の変化のことを知らなかった。

「腟ケアを始めないと大変なことになりますよ」

だが、男性を一方的に責めることはできない。

なぜなら私も、『ちつのトリセツ』を書くきっかけとなった助産師のたつのゆりこさんと出会うまで、年齢とともに腟が劣化することなど、まったく知らなかったからだ。

「原田さんの腟は、間違いなく劣化しています。すぐに腟ケアを始めないと大変なことになりますよ」

たつのさんにそう言われたとき、私は思わず顔をしかめてしまった。

医師の問診を受ける女性
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです

腟のセルフケアとは、指にオイルを塗り、その指を自分の腟に入れて腟壁をマッサージするというものだ。そんなことは絶対にできないと反射的に思った。

私の反応を見て、たつのさんが言った。

「男性には触らせるのに、自分で触るのはイヤですか?」

答えに窮した。男性には触らせるのに、自分では触れない。確かに、どう考えても変だ。

そのときから私は、「女は性的なことに関心を持ってはいけない」という教えに、自分が強く縛られていることを意識し始めた。

それでも私は、腟ケアを始めることができなかった。どうしてもイヤだったのだ。

それから一年ほどが過ぎたころ、私はひょんなことから、自分の腟が乾いて、カチカチになっていることを知った。腟萎縮である。腟は、使っていないと硬くなり、縮んでしまうのだ。

「そうか、私は、もうセックスができない体になっているんだ」

自分の腟の状態を知り、ショックを受けつつそう思った瞬間、体の奥から「いやだ!」という声がした。

子宮、直腸が腟から飛び出る病気が見つかった

びっくりした。私はそれまで、「もうセックスなんて二度としなくていい」と本気で思っていたのだ。それなのに、どういうことだろう。

「お前はセックスがしたいのか?」

落ち着いて、自分に問うてみた。やはり、セックスをしたいとは思わなかった。それでも、「セックスができない体になるのはイヤだ」という強い思いがあることは否定できなかった。

当時60歳だった私は、これは老いに対する恐れだろうかと考えた。だが、そうではない。なにかもっと別な、強い感情が、深いところから湧いてきているのだ。

その感情がどこからきたのかわからないまま、私は腟ケアを始めることにした。セックスができない体になることが、それほどイヤだったのだ。

腟ケアを開始すると、体の不調が驚くほどの速さで改善されていくのがわかった。腰痛・頭痛に苦しむことがなくなり、あとでわかったことだが「骨盤臓器脱」の前症状であった頑固な便秘も解消された。

骨盤臓器脱とは、膀胱・子宮・直腸などが腟口から出てきてしまう疾患で、日本人女性の70%が予備軍とされている。さらに私は、日本人女性の50%が罹患するという、尿もれや外性器のただれ、痒みなどが起きる「GSМ(閉経関連尿路生殖器症候群)」にも罹患していたのだが、どちらの疾患も腟ケアと骨盤底筋体操で大幅に改善した。驚いたことに、猫背や脚の曲がりまで改善されたのだ。

腟が、自分の体(女の体)のかなめになっていることを初めて実感した。

64歳、27年ぶりにセックスをしたら…

あとになって、日本を代表する女性泌尿器科医の関口由紀医師に聞いたところ、「女性はみんな『セックスはしたくない、だけどセックスができない体になるのはいやだ!』って言うのよね」とのことだった。

多くの女性が、私と同じような思いを抱いている。いったい、それはなぜだろう。

腟ケアを開始して、1年以上がたったころ、私は一人の男性に恋をした。そして本当に恐る恐る、27年ぶりにセックスをした。64歳になっていたが、行為自体はなんの問題もなくできた。腟ケアのおかげで、私の腟は完全に復活していたのだ。

だが私は、そこで新しい問題にぶつかることになった。彼とのセックスで、どうしても満足を得ることができなかったのだ。

最初は、ご多分に漏れず、自分のせいかもしれないと考えた。老いのせいで、体が鈍感になっているのかもしれない。そこで、セックストイを試してみた。問題なく気持ちよくなれた。それならなぜ、彼とのセックスでは気持ちよくなれないのだろう。

相手の男性のセックスが、特別に変だったわけではない。ただ、「マッチョな俺さまセックス」だっただけだ。おそらく、日本の男性には珍しくないタイプだろう。それでも、気持ちよくなれないセックスをがまんして続ける気にはなれず、別れようかと真剣に悩んだ。もう二度と、セックスのことで悩みたくなかったからだ。

それでもなぜ、私たちはセックスをするのか

解決策があることはわかっていた。彼に、「こんなセックスでは満足できない」と言い、どうしてほしいか、自分の要望をはっきり伝えればいい。けれども、それらの言葉は、「言ってはいけないこと」として、いくつもの鍵で守られた頑丈な檻の中に閉じ込められている。私はその檻を、どうしてもこじ開けることができなかった。

あるとき、思い切って聞いてみた。

「セックスをしているとき、女性を喜ばせようと思ったことある?」
「そんなこと思ったことないけど、不満を言われたことはないよ」

心の中で「ふうん、みんな、がまんしていたんだね」と思ったが、それを口にすることはできなかった。

そのような状態からどうやって私が抜け出し、彼とのセックスを楽しめるようになったのかは、『人生最高のセックスは60歳からやってくる』(径書房)に詳しく書いたが、セックスで気持ちよくなれないのは、彼のせいだけではなかった。

くり返しになるが、私は、それまで一度も、自分がなぜセックスをするのか、なにを求めてセックスをしているのか、真剣に考えたことがなかったのだ。

そもそも、なぜ私は(私たちは)、セックスをするのだろうか。

好きな相手とセックスをして、身も心もとろけるような一体感や、最高の気持ちよさを味わいたい。私はいつもそう願っていた。うまくいかないことばかりだったが、それでも私は、それを求めてセックスをしてきたし、この年になってもまだ、そのようなセックスなら「したい」と思っている。いくら考えても、その気持ちに偽りはなかった。

ベッドの上で絡み合う男女の足
写真=iStock.com/Alessandro Biascioli
※写真はイメージです

まずは、自分の気持ちを恥ずかしがらないこと

それなら、まずしなければならないことは、自分のその気持ちを素直に受け入れることだ。「セックスなんてしなくてもいい」と思ったのは、自分の、そのような気持ちを恥じたり否定したり、ないことにしたりしていたからだ。自分にあきらめを強いていたのだ。

だが、そんなことをしていたら、自分の人生を軽んじたり、誤魔化したりすることになってしまう。

というわけで私はまず彼に、「もっと気持ちよくなりたいんだけど、それがどうしても、うまくできなくて困っている」と話した。そして、身悶えするほど恥ずかしかったが、「こういうふうにしてほしいんだけど……」とか、「これを使ってみたいんだけど……」などと、自分の体で確認済みのことを、できるだけ具体的に話してみた。文句を言ったわけではない。ちょっと手伝ってくれないかなあ……という感じで話したのだ。彼は面白がって協力してくれた。

女性は、男性のセックスにダメ出しをしたいと思うと、強い口調になったり、責めるような口調になってしまったりする。それはたぶん、女性のなかに、それを口にすることに対する恐れや恥じらいがあるからだろう。思い切って口にするから、強い口調になってしまうのだ。本当に気持ちのいいセックスがしたいと思うなら、女性は自分のその気持ちを肯定したうえで、男性に自分の望みを伝える必要がある。

それが、女性が乗り越えるべき壁である。

男性側もインスタントセックスに走ってはいないか

最近、30代後半の男性とこんな話をした。

「女性は、日本の性文化の呪縛から抜け出し、セックスに対してもっと主体的にならないとダメだよねえ」

私がそう言うと、彼から思いがけない返事が返ってきた。

「でも、男性が主体的にセックスをしているかというと、かなり疑わしいですよね」
「えっ、なんで?」
「男は、性欲に支配されているんですよ。そういう意味では、男もセックスに対して主体的ではないかもしれない」
「え~⁉」
「だから、射精することだけが目的の、インスタントセックスに走ってしまったりするんですよね」

インスタントセックス。彼の言葉に感心しながら、私はかなり驚いていた。

男性は、女性と違って、つねにセックスに対して主体的だと思い込んでいた。だが、男性が自分の性衝動に振り回されて苦労するという話は、よく耳にする。だからといって性犯罪に走ることは許されないが、インスタントセックスに走る男性は少なくないだろうと、深く納得してしまった。

「気持ちのいいセックス」を男女ともに考えるべき

それでも、男性が真に求めているのは、インスタントセックスではないだろう。

言うまでもないが、セックスをするのは、相手を好ましく思っているからだ。セックスをすることで、さらに深く関わりたい、もっともっと愛し合いたいと思っているからだ。「そんなの幻想だよ」とうそぶいてみても、男性も女性も、その気持ちを完全に捨て去ることはできない。それなのに、男と女はセックスをめぐってすれ違う。

私たちは、セックスによって起こる男女のすれ違いを、乗り越えることができるだろうか。男女ともに、楽しめる、本当に気持ちのいいセックスができるようになるだろうか。

女性に乗り越えるべき壁があるように、男性にも、乗り越えなければならない壁がある。

そのことを、『男女逆転 ラブレッスン』は教えてくれているのだと思う。

2人ともが満足する、本当に気持ちのいいセックスがしたい。そう願う多くの男性・女性にとって、『男女逆転 ラブレッスン』が「男と女のあいだにある深くて暗い川」を渡る一助になってくれることを心から願っている。

みなさんも、たまには、男女が入れ替わったつもりでセックスをしてみてはどうだろう。なにか大きな気づきがあるかもしれない。