従来のビジネスモデルを壊す「ディスラプター」

――国内の大企業でCDOを設置しているのはまだ数社です。CDOのミッションとはなんでしょうか。

CDOのミッションは4つあると考えます。それは、(1)データ活用の高度化推進、(2)業務プロセスをはじめとした種々の自動化、この2つは日本企業もずっと取り組んできました。次いで、(3)顧客接点のデジタル化と顧客体験の変革、(4)デジタル技術を活用した新規事業の創出。とりわけ重要なのは、後の2つです。

まず「顧客にとってプラスかどうか」というカスタマー視点で自社のビジネスをとらえるということ。そのうえで、新しい事業の創出まで見据えているかどうか。つまり「いまのビジネスのままで大丈夫か」を問い直すことがポイントです。あえていえば、前2つがIT化、後の2つがデジタルトランスフォーメーションになります。

特に、新規事業の創出ではCDOのリーダーシップが問われます。その際、CDOは従来のビジネスモデルを壊す「ディスラプター(破壊者)」にならないとだめです。それだけに、社内でさまざまな部署を経験し、周囲を説得できる人望のある人材を登用するのが望ましいでしょう。もちろん、社内に何のしがらみのない人材を外部から招聘し、大胆な改革を進めるのも間違いではありません。

MUFGは執行役常務がCIOとCDOを兼任

――CDOが管掌する分野のキーワードは、どんどん増えつつあります。ビッグデータやIoT(モノのインターネット)、フィンテック、AI(人工知能)やVR(仮想現実)もあります。CDOはどうやって成果を出せばいいのでしょうか。

これらの実用化を促しているのが、急速なテクノロジーの進歩です。IoTやAIなどの技術が進化するなかで、既存のビジネスモデルは変化を迫られています。なぜなら、企業の顧客もデジタルツールを使いこなし、新しい消費者体験をしているからです。CDOは、そこに訴求したサービスを産み出す必要があるわけです。こうした現在のデジタル化の流れは「インダストリー4.0」と呼ばれていますが、最近話題の次世代の高速コンピューターである量子コンピューターの実用化によって、その次の段階が3~5年後には来るはずです。それまでに会社を改革しておかないといけません。

例えば、これから大きく変化するだろう銀行や保険といった金融業界。特にメガバンクは危機感を持っています。三菱UFJフィナンシャル・グループでは執行役常務がグループCIOとグループCDTO(チーフ・デジタルトランスフォーメーション・オフィサー)を兼任し、フィンテックベンチャーへの投資を進めています。SOMPOホールディングスも社内にデジタルラボを立ち上げました。

これには当然、経営トップの意向が反映していると思います。企業変革を実現させていくには、先の見えるCEO(最高経営責任者)の存在が不可欠です。海外での活動経験などから欧米におけるCDOの活躍ぶりを目の当たりにしているはずです。そうしたところは、CDOとそのチームがトップと直結した関係になりますから強いし、成果を出しやすいと考えられます。