本書はNHK報道局が総力を挙げて製作した「環境で不況を吹き飛ばせるか~グリーン・ニューディールの挑戦~」(2009年3月19日放送)を中心に、放送できなかった内容を盛り込んでいる。本書から、サブプライム・ショックで世界が新たな次元に突入したことがよく理解できる。

本書の冒頭で紹介されているオバマ大統領の就任演説、すなわち「われわれのエネルギーの使用方法が、われわれの敵をますます強大にし、地球を脅かす」(7ページ)でわかるように、アメリカは環境、あるいはオバマのいう「グリーン・エコノミー」を国家戦略の最優先に据えた。それとは対照的に、本書の第II部で述べられている日本政府の環境戦略に関する姿勢は各省庁の縄張り争いが目立ち、立ち遅れている。日本企業が有する個々の環境技術は優れているのに、それを社会インフラとしてどう構築していくかという視点が欠落しているようである。

良くも悪くもアメリカ資本主義のバイタリティは、この十数年のネットバブル、住宅バブル生成、それが弾けた後の「100年に一度」の危機、という経験を経たとは思えぬ「グリーンファンド」(第4章)に表れている。「ITバブルの次は環境バブルですね」との問いに、「いや、この産業は間違いなく大きく成長する。そして弾けないのでバブルではない」(69ページ)との答えには驚くばかりだ。

バブルが弾けた後も、米当局がしばらくバブルかどうか認識できなかったのが今回の危機の教訓だった。まして現在進行中の現象をバブルではないと言い切る自信は、アメリカ人固有の特質なのだろうか。住宅バブルが弾けたとはいえ、世界の金融資産は現在167兆ドルもあり(証券化商品の損失を加味すると140兆ドル前後)、世界の名目GDPが60兆ドルであることからすれば、実物投資で到底吸収しきれないほどに、世界マネーは余剰である。だからこそ、将来有望な環境ビジネスにマネーが集中するのである。

しかし、アメリカの心配をする余裕は今の日本にはないようだ。縦割り行政の弊害が指摘されて久しいが、今年初めの「日本版グリーン・ニューディール」策定に際してもいまだにそれが解消されていない(第10章)。省庁再々編に時間がかかるなら、総理大臣のリーダーシップに期待するしかない。が、「日本が世界で最も早く景気を回復させる」などと言っているようでは、長期の国家戦略があるのかどうかすら疑わしい。

「グリーン・ニューディール」は国家の総合力と構想力をかけた闘いである。スマート・グリッドについて「電気を人々に送り届けることを可能にしたトーマス・エジソンの世界とビル・ゲイツのインターネットの世界の融合」(エクセル・エナジー社のレイ・ゴーゲル副社長、54ページ)との言葉がとても印象的であり、かつそれこそが日本の最も不得意とする分野ではないかと不安がよぎった。