(PIXTA=写真)

「とにかく記録を十分に読まず、検討もしない。裁判官の質は確実に下がっています」――都内で事務所を営む中堅弁護士はうんざり顔だ。

「全面的に争っているのに、第1回期日でいきなり『で、いくらなら払えるの? 半分でどう? 』などと和解を持ちかけてくる。中身はもう、どうでもいいという感じ」

今どきの裁判官の多くは、ろくに訴状も読まずに和解に持っていこうとする。原告・被告を別々に呼んで、両方に「あなた、負けますよ」「○○万円なら和解できますよ」など持ちかけるのが常套手段で、その誘導の手練手管たるや、弁護士も呆れる巧妙さ。応じないと、途端に不機嫌になってブツブツ文句を言いだす。

危機管理の専門家で、法曹界の諸事情に詳しい平塚エージェンシー所長の平塚俊樹氏も、苦笑交じりで自らの体験を語る。

「ある地方の裁判所で裁判官に和解を勧められたので、『いや、僕らは和解はできません』と抵抗した。すると、『おたくら、この件でマスコミが動いたらどうするの? マスコミ、怖いよ。僕らもいじめられるけど』って。そんなこと言われたら、一般の人はそのあたりのことを知らないからビビっちゃいますよね」

検事はともかく裁判官のマスコミへのリークなど前代未聞だが、なぜ、裁判官はそこまでして仕事をしたがらないのか。

その疑問を解くには、裁判官の評価システムを知る必要がある。

いい裁判官とは? 普通に考えれば、質の高い判決文を書ける裁判官のことだが、実際の評価基準がそうだと思ったら大間違い。

「裁判官の人事評価の基準は、『どんな判決文を書いたか』ではなく『何件終了させたか』です」(中堅弁護士)

裁判所では、毎月月初に前月末の「未済件数」が配られる。裁判官の個人名は記されず、「第○部○係、○件」とあるが、どの裁判官がどの事件を抱えているかは周知の事実。前月の件数との差し引きで、誰がどれだけ手掛けたかがすべてわかる。

「事実上、これが彼らの勤務評定。判決文を何百ページ書こうが、単に和解で終わらせようが、1件は1件。和解調書は書記官がつくるから、同じ1件でも仕事はすべて書記官に押し付けることができる」(中堅弁護士)

裁判官の人数がさほど変わらない半面、訴訟の数は圧倒的に増えている。当然、裁判官1人当たりに与えられる件数は増える。「例えば、東京地裁の裁判官は、月に多くて100件程度の事件を抱えている。1日5件、1件30分でこなし、うち判決に至るのが半分の50件、その中の20件の判決文を書いて、残りは和解を目指す、という感じかな。出した判決が高裁でひっくり返る可能性もあることも、判決文を書きたがらない理由の1つ。実際、逆転されると、その判決文が嫌がらせのように当人の机の上に置いてあったりする(笑)」(同)

裁判官は選べない。和解を勧められたら、まずその意図を洞察すべし。人生の一大事を、事務処理の都合で左右されてはたまらない。

2003年に日本弁護士連合会が出した「裁判官及び検察官の倍増を求める意見書」では、増員の理由として、裁判官の中でノイローゼになったり自殺した者もあることに触れているが、先のようなエピソードを聞く限り、9年たった今も裁判所の機能不全が改善する兆しは見えないようだ。

※すべて雑誌掲載当時