ビジネスの場にいるかぎり、避けることのできない疲労やストレス。これらを軽減し、うまく体を休ませるコツとは?もりしたクリニック・森下克也院長は、「一週間をどう過ごすかがポイントです」とアドバイスする。

頑張っている人ほど
要注意の「適応障害」

森下克也●もりした・かつや
医学博士 1962年高知県生まれ。久留米大学医学部卒業。浜松赤十字病院、法務省矯正局、豊橋光生会病院を経て、2006年、東京・品川区に心療内科・内科「もりしたクリニック」を開業。日本心身医学会心身医学科認定医、日本プライマリケア学会認定医など。著書に『「月曜日の朝がつらい」と思ったら読む本』『軽症うつを治す』ほか。

「厳しい社会状況を反映しているのでしょう、最近は心療内科を訪れる30代、40代のビジネスパーソンが目立っています。増える一方の仕事の重圧から、いわゆる『職場うつ』とも呼ばれる適応障害になりやすいのです」

森下院長によると、特に真面目で有能なビジネスパーソンほど、その傾向が強いという。仕事を実直にこなそうとするあまり、健康への配慮が置き去りにされてしまうのだ。周囲から「働き過ぎじゃないか」と心配されても、本人には自覚がなく、まだまだ頑張れると思い込んでいる。しかし、トラブルは小さな予兆として少しずつ表面化していく。

「初期の適応障害は、軽い目まいがするとか、階段を上ると息切れがするといった、身体的な症状として現れる場合が多いですね。疲れや歳のせいと思いがちですが、悪化するとミスや遅刻などが増え、仕事に支障をきたすようになります。その頃になってようやくクリニックへいらっしゃる方が多いのですが、このとき、すでに適応障害は中程度まで進行していることも少なくありません」

このような「メンタルヘルス不全」に陥る可能性は誰もがもっている。では、多忙な毎日を送りながら取り組める予防策はあるのだろうか。

森下院長は、「一週間の生活リズムを上手につくることが大切です」とアドバイスする。その中心となるのは「睡眠リズムの確保」だ。「気分がすぐれない、体調がおかしい。私の経験上、そう訴える患者さんのほぼ全員が睡眠に問題を抱えています」

一週間をどう過ごすか?
ペース配分を考える

森下院長は「まずは、毎日の睡眠リズムを判で押したように一定にすることからスタートしましょう」と話す。仕事によって睡眠時間が削られてしまうのはよくあること。それでも「毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きることを心がけてください」。

活動的なときに働く交感神経と、リラックス状態で働く副交感神経をうまく切り替える。傷ついた細胞を修復する成長ホルモンの分泌を促す。こうした機能のコントロールをつかさどっているのは睡眠である。その周期を一定に保つことが、心身のバランスを整えることにつながるのだ。

この「一定にする」という原則は、一週間というサイクルにも当てはめることができる。例えば次のような視点でとらえてみると、多忙を極める平日も、適度な余裕を残しながら乗り切れそうな気がしてくるはずだ。

「月曜日から金曜日を『月・火』『水』『木・金』のグループに分けるのです。月曜日は助走期間として少し余力を残して働く。火曜日はある程度無理をして仕事をこなす。そして水曜日は、残業をしないなど意識的に“手を抜く日”にして、心理的に楽な状態をつくります。気力が充実した木曜日は再び忙しく働き、金曜日は“今日の夜からが週末だ”と意識しながら、モチベーションをキープするのです」

もちろん、「土・日」のリズムも忘れてはならない。

「土曜日は完全にリラックスする日にして、1、2時間ほど多く寝てもいいと思います。しかし日曜日は、自由に好きなことを楽しむ日であると同時に、“月曜日の準備をする日”でもある。平日と同じ時間に起きておけば、週明けのスムーズな滑り出しにも役立つでしょう」