日本は女性を労働市場から排除してきた

【上野】専業主婦が女性の特権だという点については、私は違う解釈をしています。戦後、日本の企業は終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用をつくり上げてきました。これは、男性社員に対してその家族まで面倒を見る家族給を保障するという制度です。経済合理性からいえば非合理なのに、企業と社員の共存共栄の理念のもとに、企業も国もこの男性稼ぎ主型のシステムをずっと維持してきました。私はそれを資本制と家父長制の妥協と呼んでいます。

その効果はというと、「女性が働かなくて済むようになった」ではなく、「女性を労働市場から構造的に排除した」です。戦後の日本は失業率5%未満を維持してきましたが、この完全雇用社会が達成されたのは女性を労働市場から排除したからです。

男性が早く家に帰ることが会社のためになる

【海老原】それが今、労働力が足りなくなったから女性に戻ってきてもらおうと手のひら返しをしている状況ですね。以前は新卒採用で男性ばかりとっていたところを、近年は女性を積極的にとるようになりました。これだって、難関大学の女子学生比率が高まり、そうした大学の採用実績を維持するためには、女性を選ばざるを得なくなったからでしょう。

雇用ジャーナリスト 海老原嗣生さん
写真=本人提供
雇用ジャーナリスト 海老原嗣生さん

結局、経営者にとっては、男性を守るより会社を守るほうが大事だと思うんですよ。それは、円高期に国内の製造業従事者を捨てて、海外に出たのを見てもわかります。日本の男よりも、海外をとった。今度は、できない男よりも女を取る。そんな手のひら返しが起こると思っています。男性の既得権益を取り崩して、彼らが早く帰宅して家事育児をしてくれたほうが、できる女性に働いてもらいやすくなる、それが会社を守ることにつながると。こうした風潮がもっと広がってくれば、女性を排除してきた構造も変わっていくのではと思います。

【上野】合理的に考えればその通りでしょうが、私はやはりこの国や企業が合理性で行動するとは思えません。その風潮が広がったとしても、これまでと同じ男性的な競争原理の中に、女性が放り込まれるだけということになるでしょう。社会全体のネオリベ化が進行するだけです。